あらすじ
戦争を冷徹な目で見つめた梅崎春生の出世作。
「ねえ、死ぬのね。どうやって死ぬの。よう。教えてよ。どんな死に方をするの」
米軍上陸が迫るなか、桜島の海軍通信基地に異動になった村上兵曹は、一夜をともにした女性に、そう詰められる。しかし、どういう死に方をすればいいのか、そのときになってみなければわからない。ただ、死が目前に迫っていることをひしひしと感じるだけだった。
生きることへの執着と諦観、どうせなら美しく死にたいという願望と、それはかなわないだろうという無力感……。背反する思いを抱えたまま散歩に出た村上に、グラマンの銃弾が降り注ぐ――。
出世作「桜島」に、戦地で自死同然に亡くなった弟の足跡を、双子の兄たちがたどっていく芸術選奨作「狂い凧」を併録。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
毎年8月は、なんだかんだで第二次世界大戦の終戦を意識してしまう。
若い頃はあまり積極的にその辺りの物語(ノンフィクションも含めて)に触れようとはしてこなかった。
40代に入った頃から、
戦争に対して恐れや嫌悪だけでない、
別の感情…、
それは知的興味とも取れるかもしれないが、生まれてきた。
2020年代、あの戦争を直に体験した世代がいよいよいなくなっていく時代。
恐ろしさ、嫌悪感、虚しさ、また、
それ以外の、極限時に人間が対峙する感覚の解像度を、直に経験した世代が、
まだ時間的経過も浅いうちに生々しく表現している小説がこの本、「桜島 狂い凧」。
梅崎春生という作家の名前も知らなかった。
今回読んだ中に収録されている「桜島」で、戦争文学の代表的作家に数えられるようになったらしい。
わたしもこの「桜島」にかなり気持ちを持っていかれた。
この作品は本当に凄かった。
戦争の作品をあまり読んできていないせいもあるかと思うが、
情景描写も心理描写も全部凄い。
そのまま脳を1945年8月の桜島に持っていかれる感覚、とでも言おうか。
こんなところで死にたくない。
こんな無意味なことをして何になるのか、一体自分たちは何をやっているのか、
この先どうなるのか、
ただここで死ぬのを待つのか、
いや、それより先に東京がやられるかもしれない…。
滅びを待つこんな不衛生な場所から見上げる日本の、桜島の山々、空、夏は、
どうして、こんなにも美しいのか…。
生きたいという想いと、
いっそ滅びてしまえという自棄になる感情が入り混じった、なんとも言えない感覚が、主人公の言動に関係なく読んでいる私の中にも芽生えて、読み終わったあとは文字通り放心した。
今後つくつく法師の声を聴くと絶対にこの作品を思い出してしまうだろう。
「狂い凧」も考察の前に、読んでいる自分の感情をいろいろとひっぱり出してくるような小説だった。
生命の取り合いだけではない、経験したからこそ知っている戦争状態にいる人間のさまざまな側面を、思いがけない方向から見せてくる。
感情的に反戦をうたう作品に食傷するような捻くれた私のような読者には、寝技みたいにジリジリと効いてくる内容だった。
前回の読書会でお借りしたこちらの本、
読書会メンバーの方が、今年の本屋大賞発掘本を推薦された書店員さんからお薦めしてもらったそうなんだが、
さすがの選定眼だと思った。
素晴らしい作品でした!
Posted by ブクログ
「殺されること」って本来言葉にできない怖さがあるじゃない?でも平和な日本の私にはその怖さがわかるようでわからない。その怖さをわかってるふりしてもそれでもとても軽いんだ「殺される」ってことのイメージが。
戦争知らない世代が読んだらどれくらいこの怖さが伝わるだろうか?そう考えた時にこの長くない「桜島」はとてもよかった。じわじわと怖い。これか…的な。
戦争なんて人が壊れるだけで何も生まれないものまず基本だと改めて。
それから本書の描写の数々に自分をただ生かす(心を保ち生きる)だけでもこれほどまでに過酷かと忌々しくおもうリアリティある精神の1冊。