あらすじ
この記憶は いつまで わたしに残るのだろうか
天皇の庭師だったアリトモと、日本軍の強制収容所のトラウマを抱えるユンリン。
1950年代、英国統治時代のマラヤ連邦(現マレーシア)。日本庭園「夕霧」を介して、ふたりの人生が交錯する──
同名映画『夕霧花園』【トム・リン監督/リー・シンジエ(李心潔)、阿部寛出演】原作(2019年映画化、2021年7月24日~日本公開/DVD発売元:マクザム+太秦)。
マン・ブッカー賞最終候補に選ばれ、現代アジア文学で最も優れた小説に贈られるマン・アジア文学賞等を受賞。17ヵ国語に翻訳され、高い評価を受けている。
【あらすじ】
封印していた数々の記憶が、「夕霧」でふたたび流れ出す──
1980年代のマレーシア。
連邦裁判所判事の職を離れたテオ・ユンリンは、キャメロン高原の日本庭園「夕霧」を再訪する。
そこは、30数年前、日本庭園を愛する姉の慰霊のために、日本人庭師ナカムラ・アリトモに弟子入りした場所だった。
日本軍のマレー半島侵攻、戦後マラヤの「非常事態」を背景に、戦争で傷ついた人びとの思いが錯綜する。
【目次】
夕霧花園
著者による注釈
訳注
訳者解説
訳者あとがき
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Posted by ブクログ
物語は3つの時代、戦時、戦後、現在を行ったり来たりするんだけど、最近はやりの19xx年x月、2022年x月といったような”項”がない。なので、段落と文章からああ、これは戦後だなといったように気づかなければ頭がこんがらがってくる。また前半はなかなか的を得ないだらーっとした件が続くのでなかなか内容が頭に入らず苦労した。
そのぶん中盤から作者の時代切り替えの癖にも慣れ、内容も把握し、主人公の胸中に同調し始めると一変して面白くなる。ずーっと探し求めた「収容所」の場所、そして姉の求めた庭園、それがどんどん近づいてくる。複雑に絡められた糸は読み進めるにつれて解れ一本の糸になっていく。
この本が映画化されたことは帯で分かったけど、これは映像で見たほうが美しくわかりよいだろうなぁとは思ったけど、実際予告編を見てがっかりした。やっぱり小説の映画化はみるもんじゃないな、想像のほうがずっと上回っている。庭師であり浮世絵師であり彫り物師、主人公へ彫った刺青が如何様ものなのかと想像する。刺青を彫るまでに至るやり取りや、庭師の弟子入りなど、いろんなところで会話のやり取りが脈絡もなくごり押しっぽいところだらけだったんだけど、海外小説だから無理やり納得して読まねばならないところもしばしば。それでもホロコーストの行われたアウシュビッツ然りで、大日本帝国軍の所業は耐え難い。いまだ中国、東南アジア諸国でいいように見てもらえないのもやむなしだ。南京虐殺も普通にあっただろうし今のロシアを非難できない。まぁ、戦争になれば紳士もレイプ魔になるんだろう。人間など業でしかない。
欲望まみれの醜い人間の所業とその人間が作り出した美しい庭園。その相反する世界が織り込まれた一作だった。これは日本人には書けないな。