あらすじ
カズオ・イシグロ(ノーベル文学賞作家)絶賛!
「美しく、怖ろしい……近ごろ私が発見した最高に面白い小説」
――ガーディアン紙「今年のベスト・ブック(2021)」
〈文学界のロック・スター〉〈ホラー・プリンセス〉エンリケスによる、12篇のゴシカルな恐怖の祭典がついに開幕!!!
寝煙草の火で老婆が焼け死ぬ臭いで目覚める夜更け、
庭から現れどこまでも付き纏う腐った赤ん坊の幽霊、
愛するロック・スターの屍肉を貪る少女たち、
死んだはずの虚ろな子供が大量に溢れ返る街……
「もっと 火をつけねば」
〈スパニッシュ・ホラー文芸〉とは
エルビラ・ナバロ、ピラール・キンタナ、サマンタ・シュウェブリン、フェルナンダ・メルチョール、グアダルーペ・ネッテル――今、スペイン語圏の女性作家が目覚ましい躍進を遂げている。作家によっては三十か国以上で翻訳され、世界中で好評を博すなど、現代文芸シーンにおける一大ブームとなっている。中でも、社会的なテーマを織り込みながら、現実と非現実の境界を揺るがす不安や恐怖を描いた作品群である〈スパニッシュ・ホラー文芸〉は、特に高く評価され、全米図書賞などの著名な賞の候補にも作品が上がるなど、今、最も注目すべき熱い文芸ジャンルの一つである。本書の著者マリアーナ・エンリケスは、〈文学界のロック・スター〉〈ホラー・プリンセス〉と称され数々の賛辞を受ける、現代アルゼンチン文学の頂点に君臨する作家である。
【2021年度国際ブッカー賞最終候補作】
LOS PELIGROS DE FUMAR EN LA CAMA, Mariana Enriquez, 2009
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Posted by ブクログ
土地に根ざした恐怖は、その国の文化や社会情勢や歴史と分かち難く結びついていて、そこから逃げることはできない。私はこれをフィクションとして怖がることができるし、物語である以上それは正しいんだろうけれど、呪いや幽霊や異常な現象の背後にある現実が身近にある人たちが読んだ時の恐怖は私では想像も及ばないものがあるのだろう。その隣り合わせの恐怖をほんの端っこだけでも理解するのに、この物語たちはうってつけだと思う。
・ちっちゃな天使を掘り返す
アンへリータ、ビジュアルが悪夢的なのにどこか愛らしい。主人公のやれやれ感も合わさってどこか楽しささえ感じる。ところで、別に幼少期のことだけが原因ではないよね、主人公の元にアンへリータが来た理由は。
・遊水池の聖母
邪神〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!邪神邪神邪神〜〜〜!!!
思い上がった若者から見る思い上がった若者の描写が良すぎる。いやそんなことで、と言いたいところだけど、でも熱中している時はそれが世界の全てだもんな。わかるよ。綺麗さっぱり忘れられるのかなこの子達は。
・ショッピングカート
ラストの解釈がちょっと難しくて、あれは、母親のいう「あの文無しの年寄り、くそったれよ」って、うんち爺のこと?フアンチョのこと?
みんながみんなより弱い立場の人たちを馬鹿にしている。呪いなんてなくたって、ゆるやかにこういうことが起きたんだろうな。誰もが同じように不幸になった時、奪い合うんだこの人たちは。
・井戸
ジャパニーズ因習ホラーのような味わいもあるなこれ。知らずにいる権利をすら奪ったという点において、姉はマジで最悪です。自分の慰みのために最後に残った妹の拠り所すら奪う権利がお前にあるのかよ〜〜〜
・悲しみの大通り
嗅覚にくるタイプの怖さが苦手なのかもしれず、えらい怖かった。臭いの記憶はいつまでも残るよね。忘れるな、忘れるなっていう声まで聞こえてきそうで辛い。その土地に住む人間がどう歩んできたか知らないまま楽しむこと、過去を何もなかったことにすること。どっちも最悪だけど、だからって何ができるんだ?とも思う。
・展望塔
視点が気持ちわるくて好き。
同じ悲しみ、あるいは苦しみをもつ人間じゃなければいけないんだとしたら、未来永劫ここには不幸しかないじゃない。
繰り返しが続くだけ。嫌だな。
・どこにあるの、心臓
うわぁ〜〜〜〜。欲しいものが手に入っても入らなくても、到達してしまった人間は壊れてしまうの?いやでもここまできたらいっそ美しささえ感じるな。その自己弁護も含めて。
あと私は心臓が好き。
・肉
やった!!!!!やったぜ!!!!
対象人物を物理的に取り込むことでその人物に近づこうとするタイプのカニバ!だ!!!
カルト的な人気っていうだけでは説明がつかない何かが生まれていく悍ましさは同時にやたらと高潔なものに見える。不思議。
・誕生会でも洗礼式でもなく
このパターンのタイプの悪魔憑き、よく見るけどこれはどうかな、実際に悪魔の仕業だと思いたい。この両親のまるで駄目な対応を見るに、そうじゃない場合もあり得る気もするけど、どちらにしても娘の証言云々はともかく苦しみは本物であることを受け入れて接することができない時点で何もかもおしまいだ。
・戻ってくる子供たち
怖い。一番怖い。途中まで完全に油断しており、社会問題の話だなぁと思いながら読んでいた。基本的にはそうなんだけど、中盤以降の怖さはちょっと尋常ではない。何かの器が溢れてしまったのだという認識は合っているのかもしれない。
・寝煙草の危険
そんなものより倦むべきものが多すぎるよね世の中は。心の安らぎと死の恐怖を天秤にかけて、手近な安寧をとりたい気持ちはわかる。それがたとえ死を招く結果になったとしても。
・私たちが死者と話していたとき
身近に行方不明者が多すぎる。そうじゃない人間が不興を買うようなことが「あたりまえ」なのが一番怖い。
コックリさんはどこの国でもやっぱり人気なんだろうけど、ことこの物語では出てくる霊に人格がありすぎる。方向性が違う怖さだよこれは。
Posted by ブクログ
マリアーナ・エンリケスのデビュー作。
国書刊行会のスパニッシュ・ホラーシリーズ第2弾。
幻想味が強いエルビラ・ナバロと違い、純粋ホラーな作風。人間の怖さというより、呪術やゾンビ、幽霊などの怖さを描いた作品が多い。
わかりやすくホラーな分、読みやすかった。そしてエゲツない表現は共通。ある意味リアルなのだろうか。。。
(本体が高いこともあり)高級チョコのような味わい方で楽しませてもらった。第3弾が待ちきれない。
○ちっちゃな天使を掘り返す
ちっちゃな天使の正体がエグい。そして描写もグロい。だけどユーモアあふれるゴーストストーリーなのが不思議。
○湧水池の聖母
気に食わない先輩と狙っていた男子が付き合い始め、全然面白くない女子グループの話。全員肉食系。あと呪い方法がエグい。
○ショッピングカート ★おすすめ
追い出した浮浪者が置いていったショッピングカートから呪いが湧き出て、その区画の住人に不幸が襲いかかる話。悲惨。サラッと悲惨。
最後は誰の?という疑問と、ママも同列になったのでは、と思わせる終わり方。
○井戸 ★おすすめ
子供の頃、呪い師の家に行った時から、何をするのも不安と恐怖でいっぱいになった女の子の話。救いもなく酷い話。
○悲しみの大通り
友人の家がある通りの匂いが耐えきれない。その昔は治安の悪い、モラルがない通りだったが、今はきれいになっている。だけど上部だけで、死んだ子供たちの霊が徘徊している。子供たちの霊がエグい。
○展望塔
古いホテルが舞台。恋人に捨てられたが、まだ連絡を待っている女と、それを見守るホテルの幽霊の話。思ったよりテンプレなゴーストストーリーか。
○どこにあるの、心臓 ★おすすめ
もうサイコパス。変態のサイコパス。変態しかいない。途中で着地点は読めるけど、それでもやっぱりキツい。
○肉 ★おすすめ
うん、ヤバい。短めな短編だが、「どこにあるの、心臓」を軽く超える狂気だった。二人の少女の究極のファン行為。
○誕生会でも洗礼式でもなく
誕生会でも洗礼式でもなく、そういった普通のイベント以外での撮影を専門とする男が出会った少女の話。エクソシストか?それとも虚偽か?どうやら前作にも関連するキャラが出ていたようで。
○戻ってくる子供たち ★おすすめ
少し長めの短編。行方不明になった少年少女が、行方不明になった時のまま戻ってくる話。チェンジリング。じわじわと蝕まれていく、ねちっこい怖さが良い。
○寝煙草の危険
表題作。火に誘われる女の話。不感症?自殺願望?短いながらも、この短編集の性格をギュッと詰めた話だと感じた。
○わたしたちが死者と話していたとき
ウィジャボードで行方不明者と会話をする5人の少女の話。これも、割とテンプレートなゴーストストーリー。特に日本はコックリさんがあるから、見たことがあるストーリー展開かも。
Posted by ブクログ
〈アルゼンチンのホラー・プリンセス〉による12編の悪夢。幽霊や魔女、呪いといったガジェットが登場するゴシック調ホラーに描かれるのは、現実のアルゼンチンが抱える過去の傷と病理。本書全体に漂う倦怠感と閉塞感、絶望、そしてグロテスクなまでに生々しい生への渇望。
・小さな骨を庭から掘り出したことで赤子の幽霊に付き纏われる少女「ちっちゃな天使を掘り返す」。アンヘリータ(ちっちゃな天使)の望みとは一体何だったのか。
・少女たちの憧れと嫉妬が残酷な結果を招く「涌水地の聖母」。この"少女たち"というワードもエンリケス作品の重要な要素なのかも。
・住宅街に現れた酔いどれの老人はゴミを満載したショッピングカートを押していた「ショッピングカート」。呪い以上に怖いのは嫉妬……あるいはそれも呪いだったのか。
・家族旅行からの帰宅後6歳の少女は"恐怖"を知った「井戸」。異様なまでの恐怖心を抱えた少女が辿り着いた悍ましい真相。結末は収録作で最も惨い。
・5年ぶりにバルセロナを訪れた主人公が悪臭に付き纏われる「悲しみの大通り」。スペインも"陽光溢れる国"という顔だけではないということ。
・ホテルの展望塔に棲む"彼女"「展望塔」。正調ゴシック怪談を45度ずらして描いたーといった趣き。
・他人の心音に激しい興奮を覚える女性「どこにあるの、心臓」。フェティシズムの行き着く先。
・異様な自死を遂げたロックスター。熱狂的ファンの少女2人が彼の歌に従った行為とは「肉」。凄惨な聖餐。
・幻覚に苦しむ娘を撮影して欲しいとの依頼を受けた映像制作業の男が映したもの「誕生会でも洗礼式でもなく」。少女のいう"彼"とはエクソシスト的なものなのか、あるいは抑圧された精神によるヒステリーだったのか。
※正直、この3編はどうも好みでないw
・行方不明の子供たちの情報を管理する部署に勤めるメチは、ファイル中の美しい14歳の少女に強い関心を覚える「戻ってくる子供たち」。収録作中最も長い(といっても70㌻弱)作品。アルゼンチンの抱える闇と不条理が色濃く描かれ、現実の恐怖と超自然的要素が相俟って恐怖度は作中随一。
・自宅のベッドで煙草を吸い続ける女性のモノローグ「寝煙草の危険」。"倦み疲れる"という感覚が行間からじくじくと滲み出てくるような表題作は、超自然的要素はないが、本書で描かれた世界の肌触りと臭いを集約しているようにも―。
・友人宅でウィジャボードに興じ、行方不明者を呼び出そうとした少女たち「わたしたちが死者と話していたとき」。いわゆる"こっくりさん"テーマなので馴染みはあるが、半世紀前の軍事政権下で起きた大量の行方不明事件という史実が織り込まれることで、単なる怪談に留まらない怖さを帯びている。