あらすじ
昭和二十年三月十日、空襲の劫火をくぐりぬけた戦災孤児の健は、いつしかすべてをなめつくす美しい炎の妖しい魅力にとり憑かれていた……。戦争の傷痕を背負った人間の哀しみと異常な心理を描く表題作、夜になると家族が次々に箪笥に上って座りこむ、能登の民話にヒントを得た奇譚「箪笥」ほか、摩訶不思議な世界への扉を開く異色短篇「白鳥の湖」「森の妹」「ちゃあちゃんの木」「逃げる」「散歩道の記憶」を収録。自らの体験を背景に据えて、短篇の名手が紡ぐ妖(あやか)しの世界。
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Posted by ブクログ
短編って並べ方にも技ありですね。
前半は(怪談「箪笥」はさておき)戦後の重く深いけれど地味な「白鳥の湖」「森の妹」「ちゃあちゃんの木」が続き、野坂昭如読んでるような気分に。
ここに、芥川の「地獄変」を思わせる表題作があって、一転!
筒井康隆ばりの「逃げる」「散歩道の記憶」と続き、SFの文字が散見して、ああ、半村を読んでいたんだった、と落ち着きました。
Posted by ブクログ
半村量のおそらく初期短編集。戦後間もないひもじい時代を乗り切ってきた話をベースにしたSFというか怪談話から、炎に取り憑かれた戸籍のない少年が、火葬場の少年と出会う話など。怪談が多い。
落語や講談的な短編『箪笥』がどうにもインパクトが強く、この本の紹介を見てもほぼ『箪笥』なのはちょっと残念な感じ。ただ、現代では絶滅したとも言える、日本海側の方言のままト書きまで書かれ、読みにくいが印象の強い作品だ。
松本清張も書きそうな復讐劇『白鳥の湖』や表題のもとになった作品など、純文学と事件という、SFの半村良らしからぬ、強いエネルギーの空回りが感じられる作品群である。
作品としては面白いものが多いが、オチをしっかり感じられなかったり、書きたいことが先走ったりという辺りは、初期作品なのだろうなあ。