あらすじ
慣れ親しんだ鞆ノ津の釣場、尾道で訪ねた志賀直哉の仮寓、ひとり耳にした平和の鐘の音、「黒い雨」執筆の頃、母親のこと――。広島生まれの著者が綴った、郷里とその周辺にまつわる随筆十七篇、小説「因ノ島」「かきつばた」、半生記などを収める。豊かな海山や在所の人々へのあたたかな眼差しがにじむ文庫オリジナル作品集。〈解説〉小山田浩子
目次
Ⅰ
広島風土記/志賀直哉と尾道/尾道の釣・鞆ノ津の釣/因島半歳記/鞆ノ津/鞆は生き慣れた釣り場/消えたオチョロ船/大三島/大三島の樟の木/備前牛窓/ふるさとの音/備後の一部のこと/故郷の思い出/備南の史蹟
*
因ノ島(小説)
Ⅱ
疎開日記/疎開余話/在所言葉
*
かきつばた(小説)
『黒い雨』執筆前後(談)
Ⅲ
おふくろ/半生記(抄録)
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Posted by ブクログ
ちょうど瀬戸内に関心が湧いてきたところで、「広島」のキーワードで購入。
広島だけでなく、岡山、瀬戸内の島々と、その歴史、文化を含めて興味深い史実も学ぶことができた。
井伏鱒二の思い出話は、ウイットに富み、時に心が温まる小話がある。
井伏鱒二は、きっと心優しい人なのだろう。
以下抜粋~
・(宮島)島全体が清浄な御神体だとされている。
今でも死人があると対岸に埋葬する。墓というものは一つもない。赤ん坊の臍の緒も対岸に持って行って埋めている。犬猫の死骸も島には埋めない。
・大崎島は大崎上島と大崎下島に分れ、どちらも内海通いの船乗りたちの間にはオチョロ船で馴染みの深かった島である。オチョロ船は港に碇泊している船に遊女を配ってまわる船であった。
・・・
それが先年制定された売春防止法によって一挙に廃絶した。
「いつか、或る機帆船の船長がこぼしていました。船が木ノ江の港に近づくと、若い船員がこっそり飲料水を流してしまう。ボイラー用の水も流してしまう。止むなく木の江に船を着けることになる」
・大三島は瀬戸内に入る三つの瀬戸からの満潮が合流する箇所に存在する。
・・・
瀬戸内にはたくさんの島があって、清水の出る限りどんな島にも人間が住み、すべての島の中心となるのは大三島で、ちょうど人間で云えば臍のようなものだ。
瀬戸内水軍の総鎮守が大山祇神社であったのも不思議でない。
・以上のような次第につき、年内に転地できるようお世話を頼む。排気瓦斯がなくて、寒がりの老人にも冬を凌げる部屋。この二つに重点を置いてもらいたい。
その結果、岡山県の西大寺の町から東南にあたる、牛窓という海岸町の宿を紹介された。
・大島は、昔から良質な御影石を出すので世間に知られていた。大阪築城のとき、因州の城主であった池田光政は犬島から大きな石を団平船という船で大阪に送り出した。諸国諸大名の献上した医師のうち、犬島から出した石が最大であった。