【感想・ネタバレ】血塗られた一月のレビュー

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Posted by ブクログ

 訳者で本を選ぶ。ぼくにとっては珍しくないことだ。翻訳家の方は依頼されて訳す仕事もあれば、翻訳者自らが押しの作品を出版社に提案することで自分の仕事を作ることもあるらしい。本書の訳者である吉野弘人氏と言えば、ロバート・ベイリーの胸アツ作品群で知られる方なので、遅まきながら気になった本書を手に取る。

 本書はグラスゴーを舞台にしたスコットランド・ミステリー。背カバーには<タータン・ノワール>とあるが、タータンとはタータンチェックのことなのだね、なるほど。舞台も1973年と半世紀前なのである。アイルランドを舞台にしたエイドリアン・マッキンティのショーン・ダフィ・シリーズに少し似た熱い感のある本シリーズ、主人公は法律破りもものともしないハリー・マッコイ。一匹狼の気配のある前者に比して、こちらは悪っぽい主人公刑事の背後に優等生的若手刑事ワッティーがつきまとう。この凸凹コンビが、実はつかず離れずのいい感じのコンビで何ともいい感じの雰囲気を作品全体に与えるである。

 本書の事件は刑務所で始まる。ある少女が殺されるという囚人の予想に端を発し、その件の少女は少年に撃たえ、少年自らも頭を撃ち抜く。予告者であった囚人も同時に刑務所内で殺害される、と緊張感いっぱいの状況で開幕。ミスリードあり、裏切りありのシナリオに翻弄されつつ、グラスゴー警察のハードボイルドさに痺れながらの緊張感いっぱいのシーンが続く。

 古いあの時代、作中にはデイヴィド・ボウイやフェイセズ在籍中のロッド・スチュワートが登場。ドラッグと貧困の風が吹き抜けるグラスゴーの夜の描写が凄い。どう見ても病んでいるとしか言いようのない都市の裏路地。底に生きる悪党どもの描写が際立つ。しかし、汚れた街をゆくのは高潔な騎士ではなく、本シリーズ主人公のハリー・マッコイだ。完璧とはおよそ言えぬ弱みを見せる性格。孤児院という名の掃きだめからやって来た天性のデカ(刑事)にも見えるし、孤児院で塒を同じくした一人は闇ギャングのボス。我らがヒーローの愛人は何と薬中の娼婦。どう見てもまともではない主人公設定だが、だからこそ貫ける意地の捜査が見ものである。

 それでいて、われらがダーティ・ヒーローの熱源は怒りと優しさなのだ。法に準拠しないはみ出し捜査も魅力的だ。何とも70年的なヒーローなのである。どん底から這い上がってきたヒーローが、巨人ゴリアテのような悪党どもを叩きのめすストーリーのプロットが何ともアクロバティックでスリリングこの上ない。ブラックな手法も辞さないこの古くて新手の主人公に打ちのめされた。

 タイトルの通り「一月」にスタートした本シリーズは、訳者あとがきによれば現在6作まで書かれているらしい。順次翻訳が進むことを期待したい。本作、半年前の出版時に読んでいれば、間違いなく『このミス』の6作にも推したのだが、読み遅れてしまったのが我ながら惜しまれる。第二作にも期待。次は逃さぬ!

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2024年01月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

街中で1人を射殺した犯人がそのあと自殺、その背景を調べる主人公マッコイ、この事件がなぜ起こったのかを比較的ゆっくりめに進んでく。

マッコイの過去も徐々に明らかになって、街の悪の親玉クーパーとは義兄弟のようだし、元奥さんはいけ好かない男と一緒にいるし、権力者に嫌われていることがちょっとずつわかってくるのが面白い。
人物関係も読んでいるとなるほど
さっきのあれはこれのせいかと分かるようになっている。主人公が心の中で読者へ丁寧に教えてくれたりはしないので、それが嫌な人は読み辛いと感じるかも。
マッコイのことを知った状態ならシリーズ2作目はもっと面白くなってそう。

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2024年04月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

刑事ハリー・マッコイシリーズの開幕作品。グラスゴーのスコットランドノワールとのことで、もともとノワール小説は苦手で敬遠しがちなとこがあったけど、最近新刊が出るのでよく買う。でもとても面白かった。海外の警察小説は、かなり痛めの描写が多い印象だが、それに加え本作は主人公がかなり問題警官で、麻薬はやるは愛人は娼婦だわ、アルコール漬けだわ、暴力団のような奴と幼馴染で便宜供与してるわで、感情移入に時間がかかった。しかし、慣れてしまえばどうってことはなく、物語にどんどん引き込まれていくけど、どんどん血塗られて人も死んでいく。とりあえず既刊の3月まで購入、本国は5月まで。12月まで続くけど付いていけたらいいな。

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2024年04月09日

Posted by ブクログ

舞台は、1973年1月のスコットランド・グラスゴー。70年代のグラスゴーは、斜陽の時代。失業率が高く、町は治安が悪い事が想像されます。テイストとしては、エイドリアン・マッキンティのショーン・ダフィのシリーズに近いものが有るでしょうか?ショーンのシリーズは、紛争の最中の北アイルランドという強烈な背景が有り、成功しているかはともかく、密室殺人にも挑戦しており、かなり読み応えの有るシリーズですが、こちらは警察官を主人公としたノワール小説の趣が強いです。 
主人公の刑事ハリー・マッコイが、囚人ネアンに呼び出され、明日、ローナという少女が殺されるという情報を得ます。そして、翌日、ハリーの目の前で、少女が少年に銃で殺され、撃った少年が自殺する事件が起こります。殺された少女は、ローナなのか?撃った少年は誰なのか?何故、少女は殺されたのか?出だしから、最高に面白いですが、ミステリーと思って読み進めると肩透かしを喰らうでしょう。それにしても、1月のグラスゴーは、雪が降りまくります。
ハリーは、73年に30歳ですから、今生きているとすれば、80歳となりますが、果たして生きているでしょうか?まあ、クーパーは、生きていないでしょう。
☆4.4次作も期待

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2023年07月09日

Posted by ブクログ

了解の意を示す『あい』といい、否が応でもエイドリアン・マッキンティの<刑事ショーン・ダフィ>シリーズを引き合いに出さずにいられないが、今作の主人公ハリー・マッコイは優秀な警察官でありながら、自身の弱さも無様さも包み隠さず曝け出す(出される)人間味のある人物造詣であり、警察組織内を綱渡りで歩むアウトサイダーとして、その危うさが魅力。今作は上流階級の人間が関与する事件としてまずまず妥当な落としどころで、次作への繋ぎも上々ではなかろうか。しかし、関係者が容易く口を割り過ぎるのは些か興を削がれる部分だったりする。

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2024年02月10日

Posted by ブクログ

1973年1月1日、刑事マッコイは囚人ネアンから、明日、とある少女が殺されると告げられる。翌日、少年が少女を撃ち殺し、自殺する事件が起こる。それはグラスゴーを揺るがす“血塗られた一月”事件の始まりだった。捜査の中でマッコイは、自分と因縁のあるダンロップ卿が事件に関係していることに気づく。何かを隠す卿は警察へ圧力をかけ、捜査を妨害し…グラスゴーの暗部を描く、傑作タータン・ノワール、ここに始動!

生と死、正義と悪の境界が不明確な世界で蠢く登場人物たち。誰にも共感できず。次作も購入済みなので、いずれ読むことにしよう。

以下は、余談。
昨日、神保町ブックフェスティバルに初めて行った。早川書房のブースでは、著者のサイン本とグッズが販売されていた。翻訳ものは著者のサインカード付きだったらしい。お目当てのMWクレイヴンは売り切れでした。

大昔、ディック・フランシスの文庫を買ったら、サインカードが挟んであったことを思い出す。

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2023年10月29日

Posted by ブクログ

スコットランドのミステリーは初めてかもしれない。性的対象の女性の連続殺人事件がメインだが、読んでいて不愉快で苦痛な位に女性を虐げている。全編、女性が男のおもちゃになっているような作品を平気で翻訳する出版社は何とも思わないのかな、読んだくせに、と言われたらそれは、ごめんなさい、しか言えないけど

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2023年07月16日

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