あらすじ
戦争の時代,そして戦後を通じて,日本人は「悲しむ力」を失い続けてきた.戦地で残虐な行為を行った将校,軍医,憲兵…….彼らは個人としてどのように罪を意識し自らの行為と向き合ってきたのか.精神病理学者による丹念な聞き取りをもとに解明する.罪の意識を抑圧する文化のなかで豊かな感情を取り戻す道を探る.
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Posted by ブクログ
XのようなSNSを利用していると反中のポストが大量にタイムラインに流れてくるが、本書はそれと二律背反的の内容でSNSに毒されている方は毒気を抜くという意味でおすすめできる。
本書では中国に敗戦後も残留することになった日本人捕虜のエピソードが大部分を占め、その捕虜がその身分にも関わらず、中国人に丁重に扱われていた話題が豊富にある。共産党政権の日本人捕虜の扱いが巧みであったのであり、将来の親中勢力の育成という術中に嵌ったのだという冷笑的な批判的な声も生まれるのではないだろうか。特に反中の歪んだ愛国者からしたら余計に。
帰国後、その捕虜の一部が反戦運動に傾倒したのは一種の洗脳であるという心無い声もあったのだろうし、実際に公安警察の監視対象になった者もいたという。ただ、その中国人の懐の深さは意図的であろうと感銘できるし、しなければならないと言うのが人情だろう。
あと、戦争に対して美的な修飾によって肯定的な傾向の惹起をさせるきらいが一部の界隈であるが、実際の侵攻が行われた場所では残酷という形容を超えた暴虐がおこなわれ、国を護るというレトリックは他国の尊厳を踏みにじる行為の免罪符にしか過ぎないのだという戦争のリアルな面に正面切って切り込んでいる。そこに我々一市民も向き合う必要があるという点で本書を読むことを勧める。何しろ昨今の流動的であり脆い国際情勢であるから。
Posted by ブクログ
医師の戦争協力について色々調べているうちにたどり着いた本書。極めて示唆的であり、見落としてきた戦争の一面、そしてなにより私たち含む戦後社会の一面が浮かび上がる。人間はかくも容易く硬直した情動麻痺に陥り、自分を免罪することができるのかと思うと恐ろしいが、自分にもそれに近い傾向は間違いなくあるということもこの本は突きつける。
させられた戦争からした戦争へ、行為の主体を取り戻す試みは、私たちがずっと避けてきた、それゆえに多大な矛盾を生み出していることなのではないだろうか。
「自分がその場にいたら、、」という問い立てには著者はかなり否定的だが(その理路もよくわかる)、被害者への共感とそれは両立するのでは?とは思う。なにより被害者への共感こそ、という主張はもっともだし、こういった戦争犯罪について語るときにやはり行為者たる日本軍への眼差しばかり注目されている事実はあるので、行為を解体していく必要があるとは思うが。
Posted by ブクログ
年末から極めて重い本を読んできた。感受性を鈍化しないと読み続けられない部分もあった。今までも断片的にアジアでの日本軍の加害を読んできたが、ここまで残虐非道な行為を、組織的に長期にわたり行ってきたということは、ほとんどの日本人に共有されていないだろう。いかに実態が隠蔽されてきたかを物語る強力な証拠だ。
戦争忌避感情が引き起こす拒食症、緩慢な自殺という症状も初めて耳にした。立身出世のため悪辣な殺害、拷問をしても良心の呵責を感じない兵士と、戦争に全身で拒否症状を示し、死んでゆく兵士を分かつのは何なのか。暴力が支配する戦場で人間性を失わずにいられる鍵となるものは何なのか。侵略地で地獄を生み出した鬼兵士に、真の贖罪はあるのか。将校、軍医、兵士、憲兵と、それぞれの事例を挙げながら、戦場と帰国後の生活まで辿ってその実相を明らかにしようとしている力作だ。