あらすじ
ハリウッド映画が危機に瀕している。
配信プラットフォームの普及、新型コロナウイルスの余波、北米文化の世界的な影響力の低下などが重なって、製作本数も観客動員数も減少が止まらない。
メジャースタジオは、人気シリーズ作品への依存度をますます高めていて、オリジナル脚本や監督主導の作品は足場を失いつつある。
ハリウッド映画は、このまま歴史的役割を終えることになるのか?
ポップカルチャーの最前線を追い続けている著者が、2020年代に入ってから公開された16本の作品を通して、今、映画界で何が起こっているかを詳らかにしていく。
【佐久間宣行 氏 絶賛!】
「何もかもが変わってしまう時代に、それでも希望を見出すためには、ここまで現実を直視し続けることが必要なのだろう。新しい戦いを始めるための知識を詰め込んだ、武器のような本だ」
【目次】
第一章 #MeToo とキャンセルカルチャーの余波
『プロミシング・ヤング・ウーマン』――復讐の天使が教えてくれること
『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』――男性監督が向き合う困難
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』――作品の豊かさと批評の貧しさ
『カモン カモン』――次世代に託された対話の可能性
第二章 スーパーヒーロー映画がもたらした荒廃
『ブラック・ウィドウ』――マーベル映画の「過去」の清算
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』――寡占化の果てにあるもの
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』――扇動されたファンダム
『ピースメイカー』――疎外された白人中年男性に寄り添うこと
第三章 「最後の映画」を撮る監督たち
『フェイブルマンズ』――映画という「危険物」取扱者としての自画像
『Mank/マンク』――デヴィッド・フィンチャーのハリウッドへの決別宣言
『リコリス・ピザ』――ノスタルジーに隠された最後の抵抗
『トップガン マーヴェリック』――最後の映画スターによる最後のスター映画
第四章 映画の向こう側へ
『TENET テネット』――クリストファー・ノーランが仕掛けた映画の救済劇
『DUNE/デューン 砂の惑星』――砂漠からの映画のリスタート
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』――2010年代なんて存在しなかった?
『TAR/ター』――観客を挑発し続けること
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Posted by ブクログ
映画はアートだけど、エンターテインメントだしビジネスでもある。特にビジネスの目処が立たないと成立しない。そんなことはわかっていたつもりでいた。
でも、本書を読むとその理解がまだまだ浅いということがわかる。特に、マーヴェルを中心としたヒーローものの映画がこの5年くらいで大きく変化していることは感じていても、それが米中関係やMeToo運動にここまで大きな影響を受けているとは思っていなかった。たしかにマーヴェルはディズニーだもの。ディズニー映画のポリコレの流れとも関連した動きとして腑に落ちた。
私のようにサブスクで観るよりも映画館で観たい人間であっても、これだけオリジナル映画やドラマが増えるとネットで映画を観ざるを得ない。
自社サブスクでしか観られないドラマを含めた壮大な物語として提供するのはとても危険性をはらんでいる。シリーズものやヒット作の続編に頼りすぎると若手が育たなくなるという筆者の指摘はとても恐ろしいものだ。某プロ野球チームが実績のあるベテランばかり集めてメンバーを組むことで若手の出場が限られ育たないという問題と被ってしまう。
Posted by ブクログ
9月27日にこの夏ずっと続いた全米脚本家協会のストライキが終了しました。配信とAIという映画が今、直面している問題について脚本家たちは納得のいく譲歩を勝ち取ったと思われます。ただ全米俳優組合のストは年末まで続くと言われているようです。ただ脚本家と俳優の同時のストが行われたのは63年振りらしく、いまいかにハリウッド映画が大きな変局点を迎えているか、ということだと思います。今年久しぶりに読んだ「マスターズ・オブ・ライト」でインタビューされている撮影監督の巨匠たちが1970年代以降、台頭してきたのはユニオンのストライキで属していない若手にチャンスが巡ってきたから、という理由があると思われます。彼らがアメリカンニューシネマという脱ハリウッドな表現をメジャーにし、またハリウッドはその才能をまた取り込む事によって生き返ることができました。きっと今回のストライキも映画のビジネス的側面も芸術的側面も変えていくような気がします。でも、そんな時流の話から本書を手に取った訳ではなく「ファーストスラムダンク」「ブルージャイアント」の日本アニメ映画、「シン仮面ライダー」の日本生まれのヒーロー映画観て、もう今年は映画館行かなくてもいいや、と思っていたのが人に勧められるまま「ミッションインポシブル デッドレコニング」観て衝撃を受け、「Barbie」観て感動して、今更ながらにハリウッド映画すげぇモードに入ったからでした。これが今回のストのテーマみたいなビジネスやテクノロジーの観点だけではなく、#MeTooとキャンセルカルチャーのもたらす意味、MCUなどのスーパーヒーローものの乱造がつくる状況、そして巨匠たちの人生の総決算的映画のシンクロニシティ…みたいな時代と社会とビジネスと人生が,コンテンツをどう変えていくか、という深い話でした。本書を読んで、ずっと録画したままにしておいたNHKバタフライエフェクト「ハリウッド 夢と狂気の映画の都」を視聴、この新書に至る前のハリウッド史のプロローグとしてこれまた面白く、かつ今に至る問題が相当根深く埋め込まれている事も知りました。ハリウッドがどうなるか?ということはアメリカがどうなるか?さらには人間の欲望はどこに向かうのか?と同義ではないか!と思っちゃったりしました。
Posted by ブクログ
まさかハリウッド映画に終焉の危機が来るなんて。
確かにトムの後を継ぐハリウッド・スターが思いつかない。『トップガン マーヴェリック』、『MIDRP1』を経た今、特に…。
Posted by ブクログ
移りゆくハリウッド映画。
終わりの始まり。
ブロックバスター作品の魅力が低下しつつある中、ハウス系の英語は益々とがって細分化していくのかなと思案。
Posted by ブクログ
シャープな視点と映画を宇野さん独特なエモーショナルな筆致が滲み出してて、とても良かった。どうしても最近の映画の状況に対してノスタルジックになりがちな映画人に比して、ジャーナリスティックな視点を提示してくれる筆者はとても貴重。
Posted by ブクログ
・面白かった。なるほど〜と、あ、そう言えば、に溢れる本だった。
・映画好きだったら、(好き嫌いは別として)無視出来ない現代の作品を20数本を軸に、その評論と背景を通して現在の映画業界とその未来を読んで行く、みたいな内容。作品の評論はあるけれど、それを含むより大きな物、「映画」の現在地とその未来、みたいな事がメインになっている。
・正直に言うと今の映画の現状自体に良いとも悪いとも自分は思ってはいない。というか、把握しきれていなくて判断がついていないだけなのか?と思った。良い補助線。
Posted by ブクログ
コロナ禍の影響で(ただし本書を読めば加速装置ではあれど起爆装置ではないと分かる)凄まじい勢いで変容が進んだ映画産業。2020年以降の16作品をガイドに何が起きているかを紐解いていく一冊。作家のキャリアという縦軸と同時代の作品との比較という横軸を通して映画の中身以上に外側の産業的側面が浮かび上がってくるのが面白い。もちろん「ポリコレ」とだけ言って分析した気になっている凡庸な論調とは一線を画している。逆に言えば映画は好きでもそういった外側の話題に馴染みのない人が読むと面食らうかも。自分は今でも毎週末映画館(生活圏内にある某シネコン)に通っているが、やっぱりIMAXフォーマットみたいな映像体験として金が取れる作品が増えていくのかなと思う一方で本書を締めくくる1本が『TAR/ター』というのにほんの少しだけ夢を見たくもなる。各作品の批評内容に首肯したり、個人的に2021年ベスト級に好きだった『ラストナイト・イン・ソーホー』にはなるほどそういう構造上の難点もあるのか、といった新たな見方を知れるのも面白かった。あとフェーズ4を観るのに要する時間を可視化されると半脱落組の自分がMCUを再度追うのはもう無理に思えるw
Posted by ブクログ
どう足掻いても最早手遅れな「ハリウッド映画」の状況とタイトル通りの行く末を避けられない事実をこれでもかと噛み締めさせられますが、読後感は意外と悪くない。この状況を把握できているからこそ翻弄されずに済むし、立ち向かえる。正に「武器のような本」。
Posted by ブクログ
宇野維正は人格は嫌いだけど評論は嫌いになれない。
SNSや対談で滲み出るエゴや傲慢さが、今作のようなジャーナリズム的文章では出てこないからかな。
Posted by ブクログ
章立ては個々の映画毎になっているが、それぞれの解説というよりは、それぞれの取り巻く状況を取り上げつつ、今現在映画が置かれている大きな流れの解説、になっている。それぞれの監督の作品にいたるまでの歩みや、売り上げや評価などは、映画しか見てない一般人(わたし)には、総じてよくは知らないことなので、いろいろ参考になって面白かった。
Posted by ブクログ
書籍を出す。ということはこれだけ豊かな知識と見解を持っている人にこそ出来ることなのだと感嘆した
この本で取りあげられている映画を改めて見直したい
Posted by ブクログ
なるほどな…
あんまり映画に詳しくないので、
「そう言われてみれば」の連続でした。
ほんと、スマホが出現してから、
世界がドンドンどんどん変わっていっている。
映画界もそうなのだなと思いました。
学習するために、
ろくに分からない英語字幕で
映画を見続けるということをやっていますが、
また一つ興味が広がった感じです。
Posted by ブクログ
ワンスアポンアタイムインアメリカとリコノスピザ
タランツィーノとPTアンダーソンが繋がった、ありがとう。
TARとトップガンマーヴェリックの背景。ふむふむ。
me tooは越えないとね
Posted by ブクログ
マーベル作品を全く観ないので、第二章の内容には殆どついていけなったが、配信プラットフォームの発展やキャンセルカルチャーの余波により、映画産業が直面している問題を2020年以降の公開作品と共に紐解く論著。映画館の運営は一部のブロックバスター作品に支えられているとはいえ、似たり寄ったりの作品が軒を連ねている未来には失望を禁じ得ない。俳優及び脚本家組合によるストライキの真っ只中にある映画の都ハリウッド、その行く末に明るい兆しはないように思える。トム・クルーズ亡き後、映画界を牽引するスターは金輪際現れないだろう。
Posted by ブクログ
映画業界の激変がよくわかる本。「映画を早送りで観る人たち」と合わせて、この方面の現状を知る上でマストかもしれない。
配信プラットフォームの普及、新型コロナウイルスの影響、「#Me Too」運動によって、もはや後戻りできないところまできている感がある。人気シリーズへの依存度を高め、オリジナル脚本や監督主導の作品は足場を失いつつある。
「気がつけば、ブロックバスター作品とアートハウス系作品の中間にあるハリウッドメジャーの作品が、集客面だけでなく劇場公開された本数においてもすっかりスカスカになっているのだ」(p76)
かたや配信サービスはシリーズ一挙公開の供給過多=早送り消費のコンテンツ。現代は、どこまで動物化・両極化するんだろう。
本書で言及される作品はおさえておきたい。「プロミシング・ヤング・ウーマン」「フェイブルマンズ」など。