あらすじ
世界登山史上最大級の遭難――一九〇二年の八甲田雪中行軍遭難事件。一九九人もの犠牲者をだした痛ましきこの大事件に、歴史雑誌編集者の男が疑問を抱いた。鍵を握るのは、一二〇年前の白い闇に消えてしまった、ひとりの兵士。男は取り憑かれたように、八甲田へ向かうのだが......。未曽有の大惨事を題材に挑んだ長篇ミステリー。〈解説〉長南政義
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Posted by ブクログ
着地に失敗した幻の"傑作"。
それでも、同じ人間として、極限まで頑張る姿に勇気をもらえるので星4つ。
もし貴方がドニー・アイガー著「死に山」を読んで面白かったのなら、「八甲田山雪中軍遭難事件」に潜む疑問を突いた本書は十分楽しめます。
以下はネタバレあります。
1902年1月199人もの犠牲者を出した八甲田山での雪中行訓練は、ソ連の南下策を念頭に陸軍で計画されたもの。
歴史雑誌編集者が社内企画で社運をかけたのがこの事件。そして調べれば調べるほど計画、装備(防寒対策)、組織体制が杜撰だったことが判明。
なぜ現地に精通した案内人をつけなかったのか、なぜ防寒対策を軽視したのか、なぜ統率系統を乱す上司の随行参観を許したのか。
これらの疑問は、人が冬山でどのくらい耐えられるのかという軍の「人体実験」だったのでは、という恐ろしい仮説(疑惑)を生む。
計画された全行程22kmのうち険しいのは賽の河原から馬立場までの3kmのみという点も甘く見ていた要因の一つだったが、厳冬の八甲田山は秒速20〜30mの暴風雪が吹き荒れ前方が見えなくなり、5〜6mに積もった雪溜まりを踏破しなければならなかった。もちろん、寒冷地出身者や冬山に慣れた隊員もいたが、猛吹雪に外を出歩く危険な経験などなく、ほとんどが素人集団だった。さらに行軍当時は、観測史上最悪の天候だったのも不運だった。
また、手紙や文献資料を当たっていると、稲田一等兵の行軍参加が濃厚となるが、遭難者名簿には名前がない。
そして、歴史に埋もれた稲田を主人公とした第三章が展開される。
そして彼一人、命からがら村にたどり着き助かったと思ったその瞬間、思わぬ衝撃的事態が…
この辺から小説的展開(フィクション)となり、やり過ぎ感が出てくる。
ガイド役の小山田が、雑誌記者菅原とはぐれて遭難させようとしたところまでは許容範囲だが、猟銃で脅すとなると話は違う。ここまで傑作だった本書の着地はそこじゃないと歯噛みしている自分がいた。
さらに、桐野編集長の妊娠というエンディングは壮絶で暗い話を緩和させようとした筆者の試みだと思うが、余計でした。
そうして「囚われの山」は、ラスト近くまでほとんど傑作だったのに結果残念な1冊(怪作)となりました、ちゃんちゃん。