あらすじ
著者の博学多識ぶりを証明するエッセイ集。
化学は錬金術の正統な娘ではなかったけれども、いかさま錬金術師をもふくめて、金属変成を夢みた多くの道士たちのでたらめな実験のなかから、数々の貴重な化学上の発見がもたらされたのは事実であった。いってみれば、化学は錬金術の私生児みたいなものだったのである。(「錬金術夜話」より)
博覧強記、博学多識で知られる澁澤龍彦が、錬金術をはじめ、処女生殖、タランチュラ、コクトー、泉鏡花、推理小説、絵画、舞台、映画など多種多様な事柄について、縦横無尽に論じたエッセイ集。
雑多なテーマを取り上げているように見えるが、一つひとつの作品が他者にはまねのできない切り口と深みをもっており、いつしか澁澤ワールドに引き込まれていく。
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Posted by ブクログ
本書元版は、おおよそ1979年から81年に書かれたエッセイをまとめたもの。
軽いタッチの時事的なものから、かなり本格的なものまである意味雑多なテーマが取り上げられている。
冒頭に置かれた「錬金術夜話」は力の入った評論。錬金術というと、常識的には「科学が方法論を確立するまでの、いわば未熟な段階にあった擬科学のようなものだと考えられている」が、この常識は間違いであり、錬金術には物質的(技術的)な面と精神的(哲学的)な面とがあると、澁澤は言う。以下、いろいろな錬金術師や錬金術に関連する書物や建築等が紹介される。
一番面白いと思ったのは、「処女生殖について」。処女生殖に関するいろいろな実例(?)を紹介していて、いくら近代科学登場以前とは言え、本当にこんなことを信じていたのかと驚いてしまうが、澁澤自身、「17世紀から18世紀にかけての生理学者というやつは、どいつもこいつも、科学の方法はそっちのけにして、まことしやかに自分勝手な嘘ばかり吐いている人物のように見えてくる。」と書いているところでは、笑ってしまった。
デュシャン、コクトーへの思いを綴った文章も好ましい。
軽めの文章が多いが、久々の澁澤本、堪能した。