あらすじ
AIは、人間にはなれない。けれどもAIの進歩は、現代人の思考を変える。
現代科学の系譜をたどり、私たちの世界観を根本から覆す科学論!
近年では、人間の知性を超えるAIが大真面目に考えられている。チェスや将棋のAIが人間を圧倒するだけではなく、将来は、様々な分野で機械が人間にとって代わるかもしれない。
実は、このAIの源流にあるのが、コンピューターの父フォン・ノイマンの影響のもと、二〇世紀の知的世界を席巻し、認知科学やSFに影響を与えた科学、サイバネティクスである。しかし、その起源には、現代科学と相反する思想が胚胎していた――。サイバネティクスの創始者ノーバート・ウィーナーの思想から、その歴史を現代までたどり直し、徹底することで、不確かな世界を生き延びるための生命の科学を立ち上げる。情報・生命・社会の未来を読み解くための、革新的な科学論!
【目次】
はじめに
第1章 機械は人間になり、人間は機械になる?――サイバネティクスの旅路
1 第三次AIブームの先に
2 コンピューティング・パラダイムの浸透
3 原点としてのサイバネティクス
第2章 制御と循環のはざまで――胚胎された岐路
1 フォン・ノイマンの論理
2 ウィーナーの憂慮
3 ベイトソンの調和
4 フェルスターの再帰計算
第3章 セカンド・オーダーへの浮上――観察することを観察する
1 自己の制御を制御する
2 環境のトリビアル化
3 認知的盲点
4 ファースト・オーダーからセカンド・オーダーへ
第4章 オートポイエーシスの衝撃――生命システムとは何か
1 生命の定義
2 生物非機械論の確立
3 生命現象としての認知
4 説明の円環
第5章 現実はつくられる――構成主義の諸問題
1 現実の発明法
2 グレーザーズフェルドのラディカル構成主義
3 共同的な現実構成
第6章 情報とは何か――情報学としてのサイバネティクス
1 サイバネティクスの情報観
2 新しい情報学の台頭
3 情報伝達というフィクション
第7章 まとめと展望――サイバネティック・パラダイムの行方
1 サイバネティクスと二つのパラダイム
2 ネオ・サイバネティクスの応用領域
注
参考文献一覧
おわりに
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Posted by ブクログ
おそらく直接的でなく、西垣通氏の著書からサイバネティックスに関する選書レベルのものを探してたどり着いたのだが
ホットとまでは言えない研究の血脈の限られた経路ということを考えると、現在的にこれが述べられる書籍の成立に西垣氏の薫陶があったのもさもありなんといったところ。
内容的には、そもそもサイバネティックスとはという段階から読み進めねばならない立ち位置だったため、西垣氏の各著作で散見したような人物や用語の概要は以前に見たものはこれかという追認をどうにか進められる程度の解説の噛み砕きがあって助かったし、分野への興味という意味では本書の再読含め広くあたってみようと思えた。
元々は基礎情報学の学習テキスト然としたものをどうにか読みこなし試行錯誤すべきかと思っていたが、ひとまず本著がそれまでの橋渡しとして機能してくれたように思う。
Posted by ブクログ
むずかしい。
しかし、7章で、これまでの展開を丁寧に要約してくれているので、前書き、1章、7章で全体像はつかめる気もする。
そうは言いつつ、オートポイエーシス、セカンドオーダー、繰り返し読んでも意味は分かりづらい。なるほどと思う瞬間もあるし、そうか?と疑問を抱く瞬間もある。
確かに自身という「個」は、外部から設計されたわけではない。その点で、生命維持にとどまらない日々の生活は、自らが自らを設計していると言えよう。
ゲノムという大局で生命を見たとしても、それが個々の生命体に別れた時に、差異が発生する説明に至らない。ある種のセンチメンタリズムでしか語り得ない気もする。
しかしながら、人間に主眼をおいたとして、コンピューティング・パラダイムに身を置いたほうが人類は発展する気がするな。
Posted by ブクログ
ウィーナーによって創始されたサイバネティクスは、現代を生きる多くの人にとって当たり前とも感じられるようなコンピューターパラダイム的な考え方を生み出した。この考えは人をシステムに従属させる見方に繋がり、人間機械論的な思考、現代のさまざまな課題と結びついている。
一方、ウィーナーの思想にはもう一つの側面があった。それはウィーナーの時点では、機械と生命は異なるものであって欲しい程度の考察にとどまっていたが、のちにセカンドオーダーサイバネティクス、ネオサイバネティクスとして展開してゆき、一つの生命非機械論につながる。
サイバネティクスを一つの情報処理機械のメカニズムとして肯定的に捉えるエンジニアリング的な視点とは異なるものを求める目線が、ウィーナーの「サイバネティクス」からひしひし感じられていたところ、本書を読んだらやはりそこを突き詰めて生まれた学問があったようだ。