【感想・ネタバレ】チョウの翅は、なぜ美しいか:その謎を追いかけてのレビュー

あらすじ

ゼフィルスの愛称で親しまれるチョウのミドリシジミ.翅の美しい輝きはどのように作られ,彼らの生態にどのような意味をもつのか興味は尽きない.「雄が派手なのは雌の関心を引くため」という説は果たして本当だろうか? ヤドカリやカニなど,さまざまな生きものを研究してきた動物行動学の第一人者が,中学生のとき魅せられたチョウに立ち戻り,その翅の色,色覚,行動の謎を粘り強く解き明かしていく.実験室やフィールドワークの克明な様子,意外な結果を受けて新たな実験に挑戦と,著者の研究ヒストリーを読者は追体験できる.同僚研究者との交流や研究外のエピソードも紹介され,冷静で論理的な筆致の中にも科学者としての情熱や自然への愛情を感じとれるだろう.

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Posted by ブクログ

懐かしさを伴ったデジャブ。かつて日高敏隆『チョウはなぜ飛ぶか』を読んだことがあったが、その時の感慨がよみがえる。それもそのはず、日高敏隆は著者の師匠。著者のヤドカリの研究は有名だが、学生時代からチョウの研究もしていたのだ。
主役は翅の美しい小さなチョウ、ミドリシジミ。なぜオスの翅はメスを引きつけるのか(and/orオスを遠ざけるのか)、問いは単純だが、答えようとすると一筋縄ではゆかない。翅の色を測定し、色覚を分析し、そして翅への反応行動を調べる必要がある。繁殖のシーズンは通常は年1回。さらに近縁種での比較実験も必要になる。要点をひとつひとつ潰してゆくには、気の遠くなるような時間がかかる。それに動物行動の常で、クリアカットな結果になるのはまれだ。しかもチョウの行動は結構気まぐれ。
読みどころは、結果や結論よりも、そこに至るまでの紆余曲折。装置の製作や提示刺激の製作など、実験者の愉しみも書いてある。論文には出てこないエピソードも各所にある。ある意味オーソドックスで、地道な動物行動学的研究。懐かしさの源はそこにあるのかもしれない。
(ミツバチは「匹」、チョウは「頭」と記してある。違っているのがおもしろい。)

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2025年05月05日

Posted by ブクログ

この本で登場するミドリシジミのような蝶は、ホントに美しい。美しさの理由には、その美しさが生存戦略上有利だったからという事が考えられる。性淘汰。同性内淘汰、異性内淘汰。でも、何で人間が見ても美しく感じるのだろうか。

鮮やかな羽を持つチョウは、羽を構成するキチンがジャイロイド形状を取っていることが近年の研究により明らかになっている。ジャイロイドの形状は少しずつ異なるため、羽に太陽光が当たると、羽の内部で光が複雑に屈折して通り抜けて、羽がキラキラと光って見えるのらしい。

人間が知覚できる光の波長範囲は、400から700ナノメートルであり、昆虫では300から600ナノメートルと、昆虫の色覚は100メートルほど短波長側にずれている。昆虫には、赤色が見えていないが、これに対し人間には見えていない紫外線を知覚している。ズレてはいるが、人間にもこのキラキラは、綺麗に見える。

同性内淘汰説では、美しい雄は、闘争に強いという前提だが、本当にそうなのか。クロキアゲハの研究では、美しいオスが縄張り闘争に有利に働いた結果が確認されている。結局その縄張りは、メスの獲得に有利である。

美しいは正義。複雑な価値観はなく、綺麗なものが生き延びていく世界は、思考する生物としての人間には、一面では残酷な社会にも見える。本書は無邪気にチョウの生態に迫るが、扱うのは「美の価値」である。

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2024年06月22日

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