あらすじ
男は“獣欲”を満たすために棍棒を振るって女を犯し、“食欲”を満たすために他者の食物を強奪して殺す……。“弱肉強食”時代の人類の始祖・原始人の欲望むき出しの日常を描いた衝撃の表題作をはじめ、束縛されることのない異様な社会を描いた「アノミー都市」、次々と不運に巻き込まれる男の物語「おれは裸だ」など独特の筒井ワールドな作品に、小説という枠を超えたメタ小説ともいうべき「怒るな」「読者罵倒」「筒井康隆のつくり方」を加えた、元気の出る作品13篇を贈る。
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Posted by ブクログ
かなり実験的な短編集。
とにかく表題作『原始人』と、2作目の『アノミー都市』が凄まじい。対になっている2作品の並びは、狂気的で鋭利な思考実験だった。読み終わった瞬間、「人間って何なんだ……?」と足元が揺らぐような心地よい眩暈がした。これこそ読書から得られる栄養だな、とも思う。
まず、表題作の『原始人』。 舞台はタイトル通り、太古の地球で、原始人が暮らしている。ほとんど文明が発達していないので、彼らには知能も言葉も存在しない。そこにあるのは生きるための捕食と、原始的な恐怖、欲望、理由なき残虐さだ。まさに弱肉強食の世界だけれど、確かに人間にもそんな時代があったんだと、思い起こさせてくれる。凄いのは、原始世界を感動的な歴史ロマンや美しい自然描写として描くのではなく、徹底して、生き物の観察として描写し切っている点にある。善悪も道徳もない世界での暴力や死は、凄惨でありながらどこか純粋さを感じた。ただただ圧倒される。
そして、その余韻も冷めぬまま『アノミー都市』へ。
舞台は一転して遥か未来の超高度文明社会。生産も流通も自動化され、人間は働く必要すらなくなっている。そこは法律や道徳といった社会を縛る規範が完全に消滅し、無規範——つまり「アノミー」状態にある都市だった。
暴力も賭博も許され、唯一の禁忌は「他人に自分の価値観を強制すること」だけ。満たされきった人々が、退屈を紛らわすために本能と欲望のままに蠢いている。
太古の野蛮と、洗練された未来。一見真逆の世界を並べることで恐ろしい事実を突きつけてくる。「人間は、規範がなければ、太古の原始社会であっても未来の超高度都市であっても、全く同じように残虐で愚かな存在に行き着く」ということ。テクノロジーや知性がどれだけ発達しようが、言葉や世界の理解が未熟な世界であろうが、人間の根底にある狂気や無慈悲さは何一つ変わらない。
普段自分が頼っている「道徳」や「理性」、「法律」までもがいかに脆いものかを思い知らされる、刺激的な読書体験だった。
お笑いの劇場やネタ作りの現場でも、コンプライアンスやらポリコレやら、社会のルールや規範に縛られてモヤモヤすることはよくあるけれど、文明の先に現在辿り着いている「規範」をすべて剥ぎ取ったら、自由すぎて、面白いことが減ると思う。
Posted by ブクログ
筒井康孝の小説を全部読んだわけではないが、『原始人』は最高傑作だと(勝手に)思っている。
「すべてわれらと何ら変わることなし。」
いや全くその通りだと思う。