あらすじ
アメリカの天才物理学者ルーカス・マルティーノは、自らが立案した極秘のK88計画の実験中に大爆発に巻き込まれ瀕死の重傷を負った。事故の起きた研究所が、連合国支配圏とソビエト社会主義国支配圏の境界近くにあったため、マルティーノはいちはやく現場に駆けつけたソビエト側の病院に収容されてしまう。そして3か月後、外交交渉の末、マルティーノは解放されることになる。だが国境線の検問所のゲートから現れたのは、卵型の金属の仮面をつけ、体のほとんどが機械で出来た、変わり果てた姿のマルティーノであった! 果たして彼は本物のマルティーノなのか、それとも別人なのか、本物であれば洗脳されているのではないのか、解放したソビエトの意図とは? 解放に立ち会った中央ヨーロッパ国境地区の保安責任者ショーン・ロジャーズは、様々な方法でこの人物の正体をつきとめようと試みるもののことごとく失敗に終わる。その後、新たにマルティーノの追跡調査担当者に任命されたロジャーズは、マルティーノをニューヨークに送り届け、彼を泳がせ、その行動を追跡することで正体に迫ろうとするが……。全編に緊張感をみなぎらせ、独特の抒情を漂わせつつ展開する、SF界の巨匠バドリスの代表的長編SFサスペンス。 装訂・シリーズロゴデザイン=坂野公一(welle design)
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Posted by ブクログ
なぜ今バドリス?という意表をつく国書刊行会というより山口雅也氏のチョイス。
舞台はソビエト連邦ありし日の冷戦時代、国境付近の研究所での事故で重傷をおった研究員がソ連に収容されサイボーグ化され解放。顔はロボコップなみに仮面で覆われ体も多くが機械となって解放された。果たして本物の研究員なのかスパイなのか?
第三次大戦前夜の位置付けとなった現代において、もはや洒落にならない情報戦。歴史は懲りずに繰り返してしまうのか。という表面上のサスペンスもどきどきなのですが、この本の本質である自分とは何であるかどのように証明できるのか?という深いテーマが1周回って現代的。一度疑われたりレッテルを貼られたら「そうではない」ことを証明することの難しさは、現代ネットワーク社会も共通するどころかさらに大きな問題となってしまった。見たいようにしか見ないし、知りたいようにしか知りたくないという面がネットワークによって加速された恐ろしい時代。日常が戦争状態のうえに個人の存在証明の危うさも加わり、さらにうそつきAIもプラスされればもはやスラップスティックな世界。いや、恐ろしい。
Posted by ブクログ
東西冷戦が続く時代。国境付近に設置された西側の極秘研究所で爆発が起き、いち早く駆けつけた東側のエージェントに責任者の物理学者が連れ去られる。外交努力の末、帰還した博士は、体の半分以上が機械化されていた。この人(?)は本当に、連れ去られた博士本人なのか。様々な実験、検証。過去の恋人や恩師との再会などを経て、最終的に博士(?)は意外な選択をする。そして、このカラクリを知る東側の諜報部員の意図とは。自分が誰であるかをどう証明するのか、一市民ではあるが、自分にこんなことが起こったらと思うと結構恐ろしい。博士の最終選択、とても興味深い。