あらすじ
東京で挫折、信じかけた新興宗教にも失望した史郎は、故郷に戻り村議となり、人妻との逢瀬を楽しんでいた。幼なじみの仁吾が村長選に立候補すると、改革の理想を語る彼への応援を約束。が、県議から人妻の件で決定的な弱みを握られ、仁吾落選のための不正工作に加担。心を引き裂かれた史郎の、破壊的衝動を描く「幼な子の聖戦」(第162回芥川賞候補作)。ビルの窓拭きを専門にする会社に転職した小春は、仲間同士で命を預けて仕事をする緊張感にのめり込んでいる。ある日、ビル内の盗難事件が原因で責任者を下ろされてしまった権田にひそかに憧れていた小春は、思い切って彼を焼き鳥に誘うが……「天空の絵描きたち」。話題の2編を収録。
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Posted by ブクログ
めちゃくちゃ良かったなあ。
表題作の「幼な子の聖戦」は中年弱者男性の臆病な怒りが炸裂している物語。なんか主人公の感情の揺れ動き方が突飛な感じがするけど、そこに至るまでの過程は納得できる。
「天空の絵描きたち」は途中までは普通のお仕事小説みたいな感じで、「このまま進むわけないよなあ…」と思いながら読んだ。世の中のどうしようもなさと、それを呑み込んで生きていくしかない自分のちっぽけさを感じで、久しぶりに腹にずどんと来た。でも、何で思い詰めてからのセクハラなんだろうってところがちょっとノイズになったかも。まあ確かに、高校生の恋愛じゃあるまいし手を繋ぐとかだったら逆に変なんだけどさ。
青森に旅行に行った際、新郷村のキリストっぷで購入しました。勧めてくれた店員のおばちゃんに圧倒的感謝。
Posted by ブクログ
心に残る話だった。
表題作は主人公が性格的に救えなくて共感できず中々話に入り込めなかったが、社会への怒りの部分は全く共感でき、男性優位社会において弱者である主人公が暴発するところは不思議とスカッとした。現状維持や保身しか考えない「オヤジ」は、日本の諸悪の根源と言ってもいい気がする。
もう一つの収録作品、ガラス拭きの話も面白かった。こちらも社会への課題認識は表題作と同じで、さらに職人から仕事をする尊厳も奪い取ってる点も深刻に描かれていてリアリティがあった。クマさんが居酒屋で語る、人は生まれ死に今目の前の人と一緒にいることは流れの中では奇跡的に居合わせてるだけということを意識すれば人への見方が変わる、というのが至言だとも思った。
Posted by ブクログ
なんというか…
表題作「幼な子の聖戦」はさすが芥川賞候補、
表現が繊細だな、とは思うものの
かといって主人公に感情移入できるか、と言われると
肯定できないなぁ…と感じます。
併録「天空の絵描きたち」
こちらはテーマが破滅だとか裏切りだとかの
「幼な子の聖戦」(個人的見解)とは違い、
中心にあるものが「恋愛」なので感情移入は多少容易ですが、
主人公らがビル拭き
(題名にもなる通り、こちらがおそらくメインテーマ)
という一般からすると
少し特殊なものであるため、場面の理解がしにくい…。
実際、おそらく清掃業界でしか聞かないような名詞が続出。
状況説明などはかなり細かいものの、やはり理解しづらい。
そして細かすぎる表現ゆえ一部かなりグロい。
両作ともいいものではあるのですが、やはりなにか欠けているな
という感想に尽きます。