あらすじ
「社会とは、いくつもの齟齬感や、違和感や、隔たりの意識が複雑に交錯しあう苛酷な空間にほかなりません」――。
東大生の心を慄(ふる)わせた伝説の入学式式辞のほか、大学は知と人が行き交い別れる「寄港地」たれと説く「第三世代の大学」論、運動論、映画論など、仏文学・映画評論の大家が、学問と教育に関わるすべての人に真摯に呼びかける、知の革新のための書!
[目次]
いま、この書物の読者となろうとしているあなたに
一 齟齬の誘惑
二 真実の位置
三 第三世代の大学
四 東京大学をめざす若い男女に
五 視線の論理・視線の倫理
総長日誌
学術文庫版へのあとがき
「社会に生きているわたくしたちは、何かを理解することで変化するのだし、当然、その変化は社会をも変容させる契機をはらんでいるはずです。ところが、「何かを理解したかのような気分」の蔓延は、そうした変化や変容の芽を、いたるところでつみとってしまいます。」 ――「いま、この書物の読者となろうとしているあなたに」より
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Posted by ブクログ
著者が東大総長だったときの入学式や卒業式の式辞、各種式典やシンポジウムでの祝辞や挨拶、広報誌等への寄稿文、それに小津映画に関する講演等をまとめた一冊。
著者はあとがきで「入学式の式辞なり祝辞なり来賓挨拶なりを、そのつど真剣かつ真摯に書いていたということができようかと思う」としているが、確かにその通りだと思う。(自分もあいさつ文の案を結構書いたりしたので、本書収録の文章を読んで、それを実感した。)
特に印象に残ったのは、大学の歴史とこれからの大学の在り方について論じたところ。中世ヨーロッパに成立した、神学や形而上学を学問の中心に据えていた「第一世代の大学」、これはその背後に「神」や「真理」のような超越的な秩序を備えていた。次に、19世紀前半、国民国家の近代化にふさわしい制度として生まれた大学、ここでは人間が知識の主体として位置付けられ、真実の位置が大学に移行するという転回が起こった。それを象徴するのが縦の垂直の構造である「塔」。それに対し、これから求められるものはネットワーク型の横の組織、人の交流のある「寄港地としての大学」、それを「第三世代の大学」、と著者は名付ける。
このように東京大学総長として著者が語っていたのが、およそ四半世紀前。大学法人化等大学を取り巻く環境はだいぶ変化しているようだが、外部にいる自分のような人間には、その内情は良く分からないものの、少なくとも大学全体としては良い話はほとんど聞かない。日本の研究・教育はどうなっていくのだろうか。