【感想・ネタバレ】経済危機のルーツ モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのかのレビュー

あらすじ

経済学者・野口悠紀雄氏の日本経済論。1970年代以降の世界の構造変化を振り返ることで、今日の日本経済停滞の原因を明らかにしていく。
この40年の変化のうち特に大きいのは、冷戦の終結、1990年代に起きたIT革命と金融革命、中国の工業化だといえよう。それらを経て、世界経済は資本や人的資源がグローバルに移動する時代を迎えた。
その中で日本は、IT革命・金融革命という変化に抵抗し、モノづくりにこだわり続けてきた。日本は製造業が生み出したモノの輸出はしているが、カネとヒトのグローバルな移動という観点からすると、未だに鎖国状態にある。40年間に起きた世界の構造変化に対応できていないのだ。
「2007年からの金融・経済危機は企業と産業の、そして国家の、壮大な選別過程だった。アメリカは危機を通り抜けて強くなったように見える。日本がこれから探求すべきは、脱工業化社会への道筋だ」と著者は強調している。
本書は、2010年4月に東洋経済新報社より刊行された『経済危機のルーツ』を電子書籍化したものです。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

*70年代
ヒト・モノは変わらないがカネ・情報は変わった

71年、ニクソンショック→ブレトン・ウッズ体制崩壊
 ∵敗戦国の成長
74年、オイルショック
 しかし、原油と金の同時上昇により、原因はドル価値下落にある
 西ドイツと日本が早期に対応できたのは通貨高

70年代の西ドイツと日本の躍進
 1.戦後復興に伴い重工業を一から組成できた
 2.人口成長率
 3.社会制度(労使関係・大型直接金融)

また、コンピュータが一般化したことで、
全体主義に矛盾が生じる

*80年代
サッチャーとレーガンの新自由主義=民営化・規制緩和

背景的な思想:
市場を代替する資源配分メカニズムは存在しない
 (中央集権型社会主義は経済計算が不可能)
※不完全な例:公共財、外部経済、情報非対称性、バブルなど

(老人が居座ったこともあり)ソ連生産性低下
(抵抗されないと思われ)東諸国独立
89年、ベルリンの壁崩壊。91年、ソ連崩壊。

市場経済は分権的なので、文化保全もわりとうまくいく

*90年代(IT金融)
80年代の変化が90年代に影響。
とりわけ、ITと金融革命の影響が著しい。

・IT革命
通信自由化・一般化
・金融革命
1)住宅ローン
 パススルー→モーゲッジ(償還順位順)→94年、利上げにより破綻
 しかし、ボラティリティの抑制という点で革命的
 とはいえ、市場リスクに対して対抗不能
 この時、モーゲッジのうち最上位はスーパーシニア、
 複数の証券をまとめたシンセティックCDO
2)オプション
 80年代、ブラック・ショールズモデルの完成
 ITベンチャー(ストック・オプション)や、商社にとってプラス
3)CDS
 損失の補填。資金の提供とリスクの負担の分離が可能に
 これにより自己資本の積立が不要に
 価格変動は不可避であることもあり、非常にこれは重要

イギリス:マーチャント・バンク
アメリカ:投資銀行
両者とも証券業務(取次を行うだけの日系金融とは異なる)
87年のサッチャー金融ビックバンにより、
ロスチャイルド以外のマーチャント・バンクは消える
(∵人の取次(斡旋)は得意だったが、新しいファイナンス理論の活用が苦手だった

しかし、日本の金融は、大企業の資金需要の停滞により、変化
(直接金融の台頭、高度経済成長期の終了)
運用難が生じ、不動産バブルとアメリカのバブルを引き起こす
 →後者、イールドカーブのフラット化

にも関わらず、住宅投資は進まず、直接金融化(証券業務?)も進まず、
鎖国化し続けている

*90年代(アメリカイギリス)
アメリカ:脱工業化→高度なサービス(金融IT)の台頭
注:対人サービスは生産性が低いが、これは技術を活用した高いサービス

IT賃金は新興国水準に収束したが、金融は高いまま
イギリスも含め、脱工業化する

21世紀型グローバリゼーション
・資本(直接投資の受け入れ)
・労働力(移民の受け入れ)
直接投資+IT+教育=アイルランド

世界的金融緩和もプラスに働いたが、
金融業の収益の差は、リスクの差でもあることに注意

日本は、脱工業化+21世紀型グローバリゼーションに失敗した

*00年代
日本は、外需と円安で復活した(本質的構造改革ではない)

住宅バブル発生@アメリカ(バブルだと意識されていた)
サブプライムローン(返済条件ゆるい→急激に厳しくなる)の台頭

キャッシュアウト・リファイナンス
住宅を売って新しい住宅を買っていた(住宅価格は上がっていた)
金利引き上げでも止まらず

JPモルガン・チェースはCDOのリスク回避を行ったが、
残りの金融機関は無視した(リスク管理を軽視した)
結果、08年バブル崩壊+リーマン・ショック

06年夏頃からモーゲッジ価格下落、債務不履行、
これを証券化したMBSの価値下落→証券会社・投資銀行破綻

日本は、円キャリー取引(円をドル化して証券化)終了で円高
外需落ち込みにより不況

一般に、製造業中心国は平均値より低く、金融危機の影響も強く受けた
金融部門が成長できた理由は、
1.中国工業化→世界の工場
2.金融部門の大きな雇用吸収力
3.IT×ファイナンス理論発展で金融サービスの進展
4.資本関係の国際化
しかし、これは世界的なマクロ経済の歪みで支えられていた
(中国・日本の黒字)

国内総生産+輸入=国内支出+輸出より、
支出減っても、輸入減るなら(生産には)問題ない

いま、アメリカではITとバイオテクノロジーが注目されている
水平分業が進む→望ましい国際分業へ
(巨大市場が存在するとはいえ、一人あたりGDP低く、同じものを持って行っても成功しないことに注意)

*これからの日本
日本停滞の原因
1.冷戦終結と中国工業化
2.金融とITの革新(に対応できていないこと)
3.21世紀型グローバリゼーション(に対応できていないこと)
  (これは、年功序列的組織構造下で、
   過去の成功者が決定権を握っている→現状維持至上主義)

これに対処すべく、
1.古いものの生き残りに支援を与えないこと
  (変化へのインセンティブを消滅させる)
2.21世紀型グローバリゼーションの実現
  (変革を引き起こすには、刺激、特に外からのものが必要)
  (日本のいい所を見直す ではダメ)
3.専門分野での教育→付加価値の高い物の生産
  (例えば、社会人の勉強を支援しないし、MBA保有者への賃金も低い)

勤勉さと外国に学ぶ率直さを、もう一度呼び戻すべき

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2013年04月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

中国が工業化し世界の工場としての役割を担うようになり、製造業からの脱却は必然の方向であった。所詮製造業に固執しても低賃金で生産される中国製品にはかなわない。アメリカはいちはやく経済構造を製造業から金融業中心に変えた。リーマンショックの震源であったにもかかわらずGDPの落ち込みを日本などに比べれば、はるかに軽微に抑えることができた。他方、日本は、失われた20年の間、金融緩和と円安政策により輸出を増加させ、実力以上に景気を回復させてしまった。輸出中心の産業構造から脱却できず、虫の息であった鉄鋼業さえ息をふきかえさせてしまった。脱工業化できなかった日本経済は、リーマンショックによりなすすべもなく地盤沈下し、過剰な生産設備を抱えた製造業の受けた被害はまことに甚大深刻なものとなった。構造改革を怠った代償はあまりにも大きく、外需に依存する経済成長は永続できないことが明らかとなった。高賃金ではあるが、高い技術力を持つ日本の比較優位を生かすことができる国際分業の姿は、機械などの資本財や部品などの中間財に特化することである。にもかかわらず政府の施策はあいもかわらず古い経済構造を温存するものであり、新しい経済構造への転換を促すものではない。現在、再び新興国の活況により輸出産業が元気を回復しているが、好調な時こそ構造改革の好機であり、この時を逸してしまえば日本復権の道はまた遠のいてしまう。40年前、日本は東洋の小さな島国であった。ただし、40年前は「明日は今日より豊かになる」という確信があった。しかし、今は希望がない。謙虚さというものをすっからかんに失ってしまっている。他方、隣国、韓国は今も外国に学ぶという謙虚さをもって奮励努力しており、様々な分野で赫々たる成果をあげている。今の日本に最も求められること。それは謙虚さを取り戻し優れたものに学ぶ勇気をもう一度もつこと。著者の言葉重く心に響く。

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2013年01月09日

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