【感想・ネタバレ】経済危機のルーツ モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのかのレビュー

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Posted by ブクログ

2007年からの経済危機・金融危機に至る世界経済変遷の基点を1970年代に置き、世界経済全体の流れを俯瞰的に捉えながら日本経済が抱えている問題の本質を論じた一冊。
通俗的なものの見方を覆す視点が刺激的な良著です。

備忘も兼ねて、本著で論じられている流れの要点を以下記しておきます。

70年代に起こったニクソン・ショックと石油ショックにより、現在の世界経済の仕組みを形作られた。
第二次大戦後、ゼロからのスタートとなった敗戦国、日本と西ドイツが驚異的な経済成長を実現し、アメリカ、イギリスという戦勝国の経済的地位が相対的に低下したことにより固定相場制を維持することが不可能になる。
そして、石油ショックの本質は「ドルの価値が、実物財である原油や金に比べて低下した過程」であり、ニクソン・ショックが必然的にもたらした帰結であった。
また、アメリカやイギリスが、石油ショック後の激しいスタグフレーションに苦しんだのに比べて、日本と西ドイツが石油ショックに比較的適切に対応できた要因は、変動相場制により円やマルクが増価したために原油価格上昇の影響が緩和されたことにある。
後発工業国である日本と西ドイツは、後発であるがゆえに、戦後、製造業の生産性を急上昇させることができた。
それ以前から生じていた生産性格差を反映するように為替レートが変化したのが、ニクソン・ショックと石油ショックの本質であった。

そして80年代。
経済の低迷に苦しんでいた英米両国に、サッチャーとレーガンという強力なリーダーが出現する。
サッチャーとレーガンによる新自由主義的な改革が、イギリス、アメリカ両国の経済の効率性を向上させる基盤を形作る。
この時期、日本の製造業は世界市場を席巻し、アメリカやイギリスの製造業が衰退したと考えるのが一般的だが、アメリカやイギリスで起こっていたのは経済構造の転換であった。
また、冷戦が続いていたことにより中国をはじめとする社会主義国が世界経済にまだ組み込まれていなかったことが、日本の製造業が強く見えていた大きな要因であった。

90年代に世界経済は大きく変わる。
その基盤となったのは、80年代のサッチャー、レーガンによる変革であり、ITと金融工学という技術の発展であった。
脱工業化に成功したアメリカとイギリスは繁栄し、アイルランドのようなヨーロッパの小国もITと金融により急成長する。
バブル崩壊後の不良債権処理で手一杯だった日本は、その流れに完全に乗り遅れ、この時期に世界で起こっていた潮流の変化を理解できていなかった。
ドイツ、フランス、イタリアといった脱工業化に乗り遅れたヨーロッパの大陸諸国も流れに乗れなかった。

2000年代後半、アメリカとイギリスで大繁栄した金融バブルは崩壊する。
これを日本では「強欲資本主義の終焉」「やはり地に足がついたモノづくりこそが強い」と捉える向きが多いが、それは事態を見誤っている。
金融危機による経済の落ち込みが大きかったのは、危機の震源であるアメリカやイギリスよりも、むしろ日本やドイツだった。
ショックにより世界的に消費の落ち込みが発生すると、財の輸出で食っている日本やドイツは経済の落ち込みが大きい一方、脱工業化しているアメリカやイギリスは輸入が大きく減るものの国内経済への影響が比較的小さくて済む。
また、価格競争力の面で、日本やドイツの製造業は新興国にもはや叶わない。
望ましい国際分業の姿を探る必要がある。

70年代から現在にかけて、変わらないものと変わったものがある。
ヒトとモノは変わらず、カネと情報が変わった。

今、日本に必要なことは「変革」。
第一に、古いものの生き残りや現状維持に支援を与えないこと。
第二に、21世紀型のグローバリゼーションに対応すること。
第三に、専門分野での高等教育に力を入れること。

…ポイントをまとめると以上のようになります。

著者はエール大学に留学し、スタンフォードで教鞭をとった経験もある国際派だけに、日本から天動説的に世界経済を眺めるのとは違った視点が興味深い。
個人的には、変動相場制移行や石油ショックの本質を論じたあたりが新鮮で、目を開かれた思いがします。
日本は脱工業化社会を目指すべき、というか他に方法がない、という点には同感だけど、じゃあ具体的にどんな産業を伸ばしていくべきなのかというのはなかなか難しい。
英米の真似して金融だITだというのもちょっとしっくりこない気がするし。
何よりもっと「国を開く」ことに力を入れるべきでしょうな。
「国を開く」とは、積極的に移民を受け入れるとかそういうことではなくて、海外の英知と資本、カネと情報を取り入れることに貪欲にならなければいけない、ということだと思います。
「おわりに」で、著者は「日本人は謙虚さを失ってしまった」と嘆いていますが、確かに。
やはり、まずは高度成長の成功体験を脱却することが肝要なのでしょう。

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2019年01月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

*70年代
ヒト・モノは変わらないがカネ・情報は変わった

71年、ニクソンショック→ブレトン・ウッズ体制崩壊
 ∵敗戦国の成長
74年、オイルショック
 しかし、原油と金の同時上昇により、原因はドル価値下落にある
 西ドイツと日本が早期に対応できたのは通貨高

70年代の西ドイツと日本の躍進
 1.戦後復興に伴い重工業を一から組成できた
 2.人口成長率
 3.社会制度(労使関係・大型直接金融)

また、コンピュータが一般化したことで、
全体主義に矛盾が生じる

*80年代
サッチャーとレーガンの新自由主義=民営化・規制緩和

背景的な思想:
市場を代替する資源配分メカニズムは存在しない
 (中央集権型社会主義は経済計算が不可能)
※不完全な例:公共財、外部経済、情報非対称性、バブルなど

(老人が居座ったこともあり)ソ連生産性低下
(抵抗されないと思われ)東諸国独立
89年、ベルリンの壁崩壊。91年、ソ連崩壊。

市場経済は分権的なので、文化保全もわりとうまくいく

*90年代(IT金融)
80年代の変化が90年代に影響。
とりわけ、ITと金融革命の影響が著しい。

・IT革命
通信自由化・一般化
・金融革命
1)住宅ローン
 パススルー→モーゲッジ(償還順位順)→94年、利上げにより破綻
 しかし、ボラティリティの抑制という点で革命的
 とはいえ、市場リスクに対して対抗不能
 この時、モーゲッジのうち最上位はスーパーシニア、
 複数の証券をまとめたシンセティックCDO
2)オプション
 80年代、ブラック・ショールズモデルの完成
 ITベンチャー(ストック・オプション)や、商社にとってプラス
3)CDS
 損失の補填。資金の提供とリスクの負担の分離が可能に
 これにより自己資本の積立が不要に
 価格変動は不可避であることもあり、非常にこれは重要

イギリス:マーチャント・バンク
アメリカ:投資銀行
両者とも証券業務(取次を行うだけの日系金融とは異なる)
87年のサッチャー金融ビックバンにより、
ロスチャイルド以外のマーチャント・バンクは消える
(∵人の取次(斡旋)は得意だったが、新しいファイナンス理論の活用が苦手だった

しかし、日本の金融は、大企業の資金需要の停滞により、変化
(直接金融の台頭、高度経済成長期の終了)
運用難が生じ、不動産バブルとアメリカのバブルを引き起こす
 →後者、イールドカーブのフラット化

にも関わらず、住宅投資は進まず、直接金融化(証券業務?)も進まず、
鎖国化し続けている

*90年代(アメリカイギリス)
アメリカ:脱工業化→高度なサービス(金融IT)の台頭
注:対人サービスは生産性が低いが、これは技術を活用した高いサービス

IT賃金は新興国水準に収束したが、金融は高いまま
イギリスも含め、脱工業化する

21世紀型グローバリゼーション
・資本(直接投資の受け入れ)
・労働力(移民の受け入れ)
直接投資+IT+教育=アイルランド

世界的金融緩和もプラスに働いたが、
金融業の収益の差は、リスクの差でもあることに注意

日本は、脱工業化+21世紀型グローバリゼーションに失敗した

*00年代
日本は、外需と円安で復活した(本質的構造改革ではない)

住宅バブル発生@アメリカ(バブルだと意識されていた)
サブプライムローン(返済条件ゆるい→急激に厳しくなる)の台頭

キャッシュアウト・リファイナンス
住宅を売って新しい住宅を買っていた(住宅価格は上がっていた)
金利引き上げでも止まらず

JPモルガン・チェースはCDOのリスク回避を行ったが、
残りの金融機関は無視した(リスク管理を軽視した)
結果、08年バブル崩壊+リーマン・ショック

06年夏頃からモーゲッジ価格下落、債務不履行、
これを証券化したMBSの価値下落→証券会社・投資銀行破綻

日本は、円キャリー取引(円をドル化して証券化)終了で円高
外需落ち込みにより不況

一般に、製造業中心国は平均値より低く、金融危機の影響も強く受けた
金融部門が成長できた理由は、
1.中国工業化→世界の工場
2.金融部門の大きな雇用吸収力
3.IT×ファイナンス理論発展で金融サービスの進展
4.資本関係の国際化
しかし、これは世界的なマクロ経済の歪みで支えられていた
(中国・日本の黒字)

国内総生産+輸入=国内支出+輸出より、
支出減っても、輸入減るなら(生産には)問題ない

いま、アメリカではITとバイオテクノロジーが注目されている
水平分業が進む→望ましい国際分業へ
(巨大市場が存在するとはいえ、一人あたりGDP低く、同じものを持って行っても成功しないことに注意)

*これからの日本
日本停滞の原因
1.冷戦終結と中国工業化
2.金融とITの革新(に対応できていないこと)
3.21世紀型グローバリゼーション(に対応できていないこと)
  (これは、年功序列的組織構造下で、
   過去の成功者が決定権を握っている→現状維持至上主義)

これに対処すべく、
1.古いものの生き残りに支援を与えないこと
  (変化へのインセンティブを消滅させる)
2.21世紀型グローバリゼーションの実現
  (変革を引き起こすには、刺激、特に外からのものが必要)
  (日本のいい所を見直す ではダメ)
3.専門分野での教育→付加価値の高い物の生産
  (例えば、社会人の勉強を支援しないし、MBA保有者への賃金も低い)

勤勉さと外国に学ぶ率直さを、もう一度呼び戻すべき

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2013年04月28日

Posted by ブクログ

1970年代のニクソンショック以降の世界経済の流れを解説し、将来の展望が描かれた本

歴史の流れ・背景などがとてもよく分かった。読むのに結構パワーいるけど、おすすめ。

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2012年08月19日

Posted by ブクログ

前半の70年代から90年代に至る歴史のパート、IT・金融のパート、まとめのパートに分かれている。金融のパートは金融に無縁の人にはとっつきにくい内容になっているので飛ばしてもよさそうだ。しかし、前半の歴史のパートだけでも読む価値は大いにある。

経済や指導者の変遷が現代にいたるまでどう必然性を持って推移してきたかが各国横串で解説されている。70年代のアメリカがベトナム戦争で苦しんでいる頃、イギリスは、フランスは、ドイツは、ソ連は、日本は、というように国の政治や経済が有機的につながりを持ち頭に理解を促してくれる。

なるほど、イメージとしてはアメリカの80年代というのは数々のハリウッド映画やレーガン大統領のイメージから華やかなイメージがあったが、かなり疲労している状態にあった。イギリスにおいても同様だ。というのもこれらの国は脱工業化を図り、生産性が人口に比例しない産業へシフトしようとしていたのだ。それがITや金融というものだ。
日本は戦後の荒廃からの復興と人口増加と工業化のタイミングが一致することで高度成長を成し遂げ、バブルへと突入した。その裏でアメリカやイギリスは脱工業化をしていたのだ。

このような強烈な成功体験は日本人の中で強く印象づけられ広く共有された。「ものづくり」や「家族のような会社」「年功序列」「終身雇用」の成功もあの時代だから最適な産業であり、組織形態だったと言えるだろう。

日本も脱工業化を図るべきという主張ではあるが、その先がITか金融かは日本という国民性に適しているのかは検討が必要なものだろう。この成熟した社会はもう一皮向けて新たな波を生み出せるのだろうか。

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2012年08月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

中国が工業化し世界の工場としての役割を担うようになり、製造業からの脱却は必然の方向であった。所詮製造業に固執しても低賃金で生産される中国製品にはかなわない。アメリカはいちはやく経済構造を製造業から金融業中心に変えた。リーマンショックの震源であったにもかかわらずGDPの落ち込みを日本などに比べれば、はるかに軽微に抑えることができた。他方、日本は、失われた20年の間、金融緩和と円安政策により輸出を増加させ、実力以上に景気を回復させてしまった。輸出中心の産業構造から脱却できず、虫の息であった鉄鋼業さえ息をふきかえさせてしまった。脱工業化できなかった日本経済は、リーマンショックによりなすすべもなく地盤沈下し、過剰な生産設備を抱えた製造業の受けた被害はまことに甚大深刻なものとなった。構造改革を怠った代償はあまりにも大きく、外需に依存する経済成長は永続できないことが明らかとなった。高賃金ではあるが、高い技術力を持つ日本の比較優位を生かすことができる国際分業の姿は、機械などの資本財や部品などの中間財に特化することである。にもかかわらず政府の施策はあいもかわらず古い経済構造を温存するものであり、新しい経済構造への転換を促すものではない。現在、再び新興国の活況により輸出産業が元気を回復しているが、好調な時こそ構造改革の好機であり、この時を逸してしまえば日本復権の道はまた遠のいてしまう。40年前、日本は東洋の小さな島国であった。ただし、40年前は「明日は今日より豊かになる」という確信があった。しかし、今は希望がない。謙虚さというものをすっからかんに失ってしまっている。他方、隣国、韓国は今も外国に学ぶという謙虚さをもって奮励努力しており、様々な分野で赫々たる成果をあげている。今の日本に最も求められること。それは謙虚さを取り戻し優れたものに学ぶ勇気をもう一度もつこと。著者の言葉重く心に響く。

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2013年01月09日

Posted by ブクログ

70年代からの世界の経済活動の歴史を順に紐解いていくことにより、浮かび上がる日本の今の状況。
読みやすく分かりやすい。住宅ローンについて他に幾つか読んだが、この本の説明が一番わかりやすかった。

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2012年01月13日

Posted by ブクログ

日本のGDPが伸びなかった理由は、90年代以降の世界経済の大変化に、日本が対応できなかったことである。
①冷戦終結と中国工業化という変化が生じた。これは、製造業の労働力が急増したのと同じことであり、製造業を中心的な産業とする日本経済に本質的な影響を与えた。しかし、日本はこれに対応できなかった。
②金融とITの面で、大きな変革が生じた。ITは個々の産業に限定されない一般的な技術であったが、日本は対応できなかった。また、新しい金融技術も、アメリカやイギリスの経済活動を一変させた。しかし、日本は受け入れなかった。
③新しいグローバリゼーションに対応できていない。これまで日本がおこなったきたことは、製造業の製品を輸出することだ。しかし、21世紀の世界においては、資本と人的資源に関して、新しいタイプのグローバリゼーションが進展している。しかし、日本はほぼ鎖国状態を続けている。

----------以下感想----------
製造業に関わる私にとって耳の痛い話になってしまった。
会社のメンバーは「危機感」は持っているだろうが、
「自社の戦略や市場に対する危機感」であって、
「世界における日本の構造上の危機感」
ではない。

会社生活残り30年。

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2011年04月23日

Posted by ブクログ

経済危機のルーツ
著者 野口悠紀雄

1970年代からリーマン破綻後の2010年までの世界の変遷を経済を中心にまとめた本。繰り返し読みたい良本。

80年代の日本は、自らの強さを過信した。アメリカのバブルが、IT業界に資金を投入したのに対して、日本のバブルは、金の余った銀行が投資先を見つけられず、不動産に投資しただけというのが何とも皮肉である。

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2011年04月07日

Posted by ブクログ

70年代からの世界経済の変遷を説明し、なぜ今日本経済が低迷しているかを解説している。
特に製造業に勤めている自分としては考えさせられる内容

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2011年02月26日

Posted by ブクログ

70年代以降から現在に至る世界経済の流れから現在日本の低迷を分析。工業製品輸出型の成功から目が覚めていないのが一番の問題と。

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2011年02月16日

Posted by ブクログ

アメリカはなんだかんだ言っても民主主義のおかげで
世界で最も成功している多民族国家。
これが競争力の源。

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2020年08月20日

Posted by ブクログ

市場経済はなぜ歴史遺産を残せるのか。
→文化を残すのは市場。多くのひとの判断が反映される分権社会では極端に間違ったことは起きない。

技術上の変化と経済政策の思想の変化、どちらが大切か。
→技術。特に90年代のIT情報技術。しかし、分権や自由という概念と技術の進歩は密接に結び付いている。

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2012年06月04日

Posted by ブクログ

分かりやすかったです。第一次産業⇒第二次産業⇒第三次産業へと経済成長に伴い国の軸は移っていく。第二次産業は新興国が強いのが当たり前で、いつまでもモノづくりに固執してるとダメですよ。もっと外を見てオープンになりなさいっていう話だった気がする。ウインブルドン効果とか初めて知って、そーゆうのもアリなのかと思った。モノづくりから金融中心に日本が移り変わったとして本当に雇用は大丈夫なのだろうか。著者はビルの清掃とかそういう仕事がいくらでも増えるって言ってたけど、日本の国土面積と人口の状況が米英とぜんぜん違うことを考えるとやや疑問に思った。ただ、この本を読んで歴史に学ぶことって重要だと思ったので、イギリスの歴史を勉強してみようと思う。過去の歴史に学ぼうとばっかするは馬鹿だって言う偉い人もいるけど、やっぱ知っているのと知らないのでは全然違うと思う。判断するのはそれからなんじゃないかな。

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2010年10月28日

Posted by ブクログ

野口さんの書かれる本は本当に深く、そして幅広く、様々な点で頷かされ、そして納得させられます。この本も是非読むべき1冊だと思います。

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2015年08月03日

Posted by ブクログ

本書は「経済危機のルーツ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか」となっている。アメリカ、ロンドンの金融革命の解説とそれにモノづくり社会から抜け出せず、適応できなかった日本について解説されている。グーグルは、あまり出てこない(笑

「おわりに」で著者は本書はある意味で自分史であると書いている。

“60年代の末に最初に留学したとき、私は目がくらむばかりのアメリカの豊かさに圧倒された。

そして、日本がほとんど問題にされていないことを、認めざるをえなかった。だから、私は、「東洋の小さな国から来た留学生だ」という思いを持ち続けていた。
…いま統計データを見ると、その当時(メイドインジャパンが世界を席巻した70~80年代)の日本経済が本当に実力を持っていたかどうかに、大きな疑問がわく。80年代に日本が持っていたのは、高い生産性と高い利益率ではなかった。単に量的に拡大しただけだった。グローバリゼーションとはいうものの、工業製品を売っただけで、資本や人的資源のグローバリゼーションは、何も進まなかった。むしろ、70年代の初めまで持っていた対外志向が段々弱くなり、閉じこもり志向が強くなっていった。
一方、アメリカやイギリスの底力を感じ続けざるをえなかった。都心は廃墟のようになっていったが、郊外はますます豊かになっていった。そこに立ち並ぶ住宅の豊かさ!そして何よりも、大学が強いということを認めざるをえなかった。住宅と大学については、とてもかなわないという思いから、どうしても脱却できなかったのである。80年代に日本が世界経済を制覇してゆく過程においても、その思いは少しも変わらなかった。
私はいま、40年を経て元の地点に戻ってきた思いを強く持っている。日本は再び世界から忘れられ去られ、東洋の小さな島国に戻りつつある。
ただし、いまと40年前のすべてが同じであるわけではない。最大の違いは、40年前にわれわれが持っていた「希望」が、いま日本にないことだ。40年前のわれわれは、「明日は今日より豊かになる」と確信していた。
それは、われわれが貧しかったからである。貧しさこそが、われわれの希望の源泉だった。
それから日本は豊かになった。もはや、そのときの貧しさに戻ることはできない。では、豊かになってしまった日本に希望はありえないのか?決してそうではあるまい。”

こう述べて著者は、謙虚に外から学ぶ姿勢を今忘れてしまっているのが問題ではないかと説いている。その通りだと思う。老害がいつまでもいるようではダメだと言うけれど、自己批判と謙虚さと学び続ける姿勢が無ければ何歳だってダメだ。50過ぎたら給与がガタ落ちしていく大企業のシステムは現実的なのかも知れないけれど、それで組織、会社、仕事として是として生きていたら、そりゃあ社会から希望が無くなってもしょうがない。

・共産主義国家との対決で、アメリカは一歩もひかぬ姿勢を貫いていた。62年のキューバミサイル危機を克服したアメリカは、熱核戦争を現実の脅威として捉え、それに勝ち抜くつもりでいたのだ。
核シェルターが、大学のどの建物の地下にも設置されていた。高速道路の休憩所には、核戦争の際の注意書きが掲示してあった。「突然強い閃光を見たら、何でもよいから遮蔽物の陰に隠れろ」という警告である。
>>/> こういう、直接的な強さがあるよな、アメリカは。

・クラウゼヴィッツは、『戦争論』のなかで、「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」という有名な言葉を残したが、第四次中東戦争におけるアラブ産油国は、この逆を実行したわけだ。つまり「原油禁輸」という「他の手段」をもって、戦争を継続したのである。
>>/> 逆の見方と並べる視点は好きなのだけれど、違和感。近代国家では珍しいのかもしれないけれど、思考としてはいくらでもあるような。テロとかネオナチとか、武力があれば本当はいくらでも戦争したいと思っている輩。それはおくとして、戦争を政治の手段として有機的に捉えられる、把握できる政治家って想像つかない。政治屋と戦争屋の組織の隔たりが大きい気がする



・市場経済がそもそも解決しえない問題が存在することは、もちろん認識されている。それは公共財と外部経済が存在する財に関しての資源配分だ。そして、市場が実現する所得分配は、必ずしも望ましいとは言えないということも認識されている。さらに、現実の経済においては、情報の非対称性が存在すること、また市場価格が時としてバブルを引き起こすこと、などの欠陥も認識されている。
…こうした考え(それでも市場を否定すべきでない)は歴史的に見れば、20年代の経済体制論争にまで遡ることができる。そこでのテーマは、「社会主義国家の中央集権的計画経済は、市場メカニズムに代替しうる資源配分メカニズムになるうるか?」ということであった。
これに対するオーストラリアの経済学者ルドウィヒ・フォン・ミーゼスの結論は、「中央集権型の社会主義経済では、経済計算は不可能である。したがって、合理的経済活動を行うことはできず、必ず破たんする」というものだ。この考えは、ミーゼスの弟子であったフリードリッヒ・A・フォン・ハイエクによって、さらに深められた。とくに経済主体間の情報の交換について、きわめて深い洞察が示された。そして「インセンティブと両立し、しかも情報の効率性を実現する仕組みは、何らかの意味で価格に頼ったものにならざるをえない」という命題が、第二次大戦後にレオニード・ハービッチによって数学的に厳密な形で示された。
>>/> 難しい。情報の効率性を担保する別のインセンティブが必要、と理解したのだが正しいのか。wikiで調べたらレオニード・ハーヴィッツ、になっていた。メカニズム・デザインの研究でノーベル賞を受賞している。大阪大学教授安田洋祐氏のブログによると、完全競争市場を前提とした従来の経済理論と異なり、設計された様々な経済制度を統一的に分析できる視点とのこと。面白そう。研究を紹介した本が無いかな~?

・共産党の宣伝文書に「現在のソ連は社会主義経済だが、やがて発展して共産主義経済になる」とあるのだが、社会主義経済と共産主義経済はどこが違うのか?」と疑問を抱いた男が、「共産主義経済でも盗みはあるのでしょうか?」と尋ねた。
それに対する答え。「共産主義社会で盗みはないでしょう。なぜなら、社会主義の時代にすべて盗まれてしまっているからです」
このアネクドートを聞いたとき、「社会主義経済に対するもっとも正確な説明だ」と感心したのだが、オリガーキーのことを知って、この理解は浅かったと思い知らされた。ソ連社会主義経済において、国営企業は盗まれずに残っていたのだ。
>>/> オリガーキーに国営企業を盗まれて、資本主義経済に発展してしまいました(笑

・70年代に、住宅金融公社に集められたモーゲッジ(住宅ローン)を対象として、「証券化」が行われるようになった。これは、多数のローンをまとめ、それを担保にしてMBSと呼ばれる証券を発行する仕組みである。
…このころに行われていた証券化は、元となる住宅ローンの元利金をそのまま証券購入者に支払うものであるため、「パススルー型」と呼ばれる。これには、いくつかの問題があった。最大の問題は、リスクと利回りの点で、投資家の要求に必ずしも応じられなかったことである(経済情勢の悪化で住宅ローンの不履行の影響を受ける割に、利回りが高くない。金利の低下で満期になってしまい、自分で必用な時期を選べない。そこから償還の順位に従って証券を三つに切り分ける方法が開発された。シニア・メザニン・エクイティで順にリスクと利回りが高くなる。)
…これは、金融の効率性を引上げる技術革新だ。住宅購入者のコストが年間170億ドル(1兆7000億円)節約されたという研究がある。このように、住宅ローンの証券化は、消費者にも多大の利益を与える、明らかに有意義な金融革新だったのである。
…しばしば、「証券化やCDOは、金融工学を駆使して作られた」と言われる。しかし、これらの金融商品を作るだけなら、金融工学もファイナンス理論も必要ない。理論が必要なのは、これらの資産がどれだけの価値があるものかを評価する「価格付け」なのである。そのもっとも重要なところでファイナンス理論が使われず、「格付け」という不完全な手法が使われた。それが問題だったのである。
>>/> そう!ニュースなんかでサブプライムを見ても、こういう体系だった知識は本当に手に入らない。2007年から、えー7年ほど経ってやっとですが(T_T)。情報入手経路がマスコミである事の恐ろしさ。。

・「リスクの移転などあまり大した問題ではない」という意見があるかもしれない。しかし、長期的に見れば、社会がリスクにどのように取り組めるかは、国や経済圏の命運を左右するほど本質的な重要性を持つ。
15世紀末の世界で、工学的・自然科学的技術では中国に劣っていたヨーロッパが大航海を行い、活動範囲を飛躍的に広げて近代を拓けたのは、保険や分散投資などの「社会科学的技術」によってリスクに挑めたからだ。また、サイズの小さい国が多数存在し、商人の力が強かったことも大きな意味を持った。それに対して、火薬や羅針盤などの工学的技術においてはるかに進んでいた中国が太平洋に向かっての大航海を行わなかったのは、極度に中央集権化された国家体制がリスク挑戦を回避したからである。その後「発明」された株式会社制度も、ヨーロッパのリスク挑戦能力をさらに拡大することとなった。
>>/> これは大きい。アメリカも大きな大陸で州の力が弱く、大国として歴史を重ねればそうなったと思う。ロシアも中央集権的で、長い目ではそれがリスク回避傾向を持つだろう。松岡正剛も言語の成り立ちの例でinsurance(保険)という言語一つとっても、とこの時期の話を例証してスピーチしていた。日本もjapan(S)を意識すべきである。本当に。

P:336 推定文字数:24880(34行×40字×P) 抜き書き:2198字 感想:1026字 付箋数:7
(対ページ付箋:1.91%、対文字抜き書き:0.88%、対抜き書き感想:46.6%)
※付随して読みたい本「愚者の黄金(ジリアン・テッド)」

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2014年06月15日

Posted by ブクログ

少し古いが70年代からリーマンショック後までの経済を広く浅く総復習するにはちょうどいい。

それぞれの話の根拠には大抵数字を引用されているため事実は信頼できる一方で、記載されていない背景や前提を考慮せず、主張がやや歪められている箇所がある印象は否めない。

但し、金融立国への方向転換を示唆するなどテクニカルな話だけでなく、日本人(日本社会)の閉塞感の脱却がブレークスルーとも帰結する彼の熱意に共感したい。

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2013年01月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

野口悠紀雄  経済危機のルーツ
■90年代の大繁栄
第一…ITと金融における技術革新
第二…経済思想と経済体制における大転換
80年代の社会主義経済の失敗→社会主義経済内の膨大な労働者が資本主義経済の枠内に参入→製造業の生産コストが大幅低下
■石油ショックの本質は?
原油価格の上昇にあわせて金の価格も同程度上昇した。
72年から74年へかけて、原油価格は5.47倍に、金の価格は4.55倍に。
金表示の原油価格は不変であった。つまり、石油ショックとは、ドルの価値が金や原油に対して低下した過程だった。
■英国の凋落と西独・日本の躍進
第一…英国はすでに工業化されていたこと。
高成長の基本は、農業経済から工業経済への移行
第二…人口成長率。日本・西独は若年層が多い分、生産性が高かった。
第三…労組の性格と労使の関係。日本・西独は労使協調的。
■70年代の社会主義経済圏
石油自給できたがゆえに、省エネ、産業合理化が進まなかった。
■市場リスク
債務担保証券 COD
切り分けによってさまざまなリスク特性の金融商品を作り出すことができる。
しかし、市場リスクに対しては、証券化は機能しない。
債務者の病気や災害などによる破綻、つまり個別リスクには対応できるが、景気悪化による住宅価格の下落のような「市場リスク」には、分散投資といえども機能しない。

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2012年08月18日

Posted by ブクログ

知らないことがたくさん書いてあったから、情報集としてはいい刺激になった。けど、数字の並べ方とかが、露骨に事実を歪めてそうで(比較する対象じゃないものを並べたり、技と必要な数字出さなかったり)読みながらちょっとこれ見せ方歪めてない?っていちいち気になったのが内容が良かっただけに余計残念。
あと彼はきっと昔の日本人のトップを走って近代的(なんなら昔は語学ができたり海外に行けるのはそれこそ特権階級だったんだろうから余計に)特別な生活を送ってたんだろうなっていう自慢がちらほら。本当に恵まれたお金持ちだったんだろうからしょうがないし、だからこそいろいろ知っててこの本が書けるんだろうけど、まーなんていうか、庶民が本当はどう思ってどんな生活をしてたのかはこの本からは見えない。
あと金融の話が、知らない人にはわからんよね、っていうていで書いてるから、本当にわかんなかった。かみぐだいてくれてるけど、あたしには足りなくて理解出来ず。
ドイツとロシアが興味深かった。アメリカとイギリスのことこそメインなのかもしれないけど。ものに面白かったことには間違いなし。

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2011年12月11日

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