【感想・ネタバレ】気概の人 石橋湛山のレビュー

あらすじ

戦前はひとり敢然と軍部を批判するなど壮絶な言論戦を展開。戦後は初のジャーナリスト出身総理となるも自らの信念に基づき僅か2ヶ月で退陣。その気骨あふれる生涯を描いた伝記文学の最高傑作。
――通勤電車の読書などで経済を独習し「日本のケインズ」といわれるまでになった自己改造の努力。日本が軍国化への道を進むなか、「小日本主義」を唱え、満州・朝鮮の放棄を主張した勇気。金解禁論争で世論に流されず、時の政権に堂々たる言論戦を挑み、時代を予見した識見。迫害を受けながらも、軍部を批判し言論活動を継続した使命感。そして戦後、総理大臣の地位に就きながらも、自らの信念にもとづき退陣した出処進退の見事さ。
――日本ジャーナリズム史に燦然と輝く、巨人の思想と生涯をつづった渾身の伝記長編1100枚!

※本書は2004年9月に東洋経済新報社より刊行された『気概の人 石橋湛山』を電子書籍化したものです。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

『小島直記伝記文学全集九巻 異端の言説石橋湛山』
            (中央公論社昭和62年版)
を読んだが、表記のものと同じ作品であると思う。
自分の読書生活のなかで、日本近現代の政治や経済の本を読むたびに気になる人物としてよく目に止まるのが石橋湛山であった。歴史的な事象の諸々の場面で話題になり、一時総理大臣にもなった人なのに、今までその経歴や思想は殆ど知ることがなかった。
にもかかわらず、何故か親しみを感じ共感を覚える存在であったことは不思議である。
その理由がこの伝記を読んではっきりとわかった。
彼は甲府第一中学(甲府一高)で2年落第したことが幸いし、札幌農学校1期生でクラークに薫陶を受けた大島健明校長に遭遇する。これを「奇跡の邂逅」といい、人生に転機をもたらす。
小島直記という伝記作家によって彼の一生が冷静に偏ることなく淡々と紡がれている。
遅ればせながらもこの伝記を発見し彼の生き方や思想、業績を垣間見ることができたのは幸運であった。
1990年代、勤務する会社の会長が全管理職にこの全集の7巻(松永安左衛門)と九巻を配ったのであった。箱入りの立派な装丁の二冊で数千円もするものだ。その人は海軍短現の魚雷艇乗りで終戦を迎え、盟友平岩外四経団連会長の副会長になるが不祥事で辞任した。自分はその意図も価値も全くわからず、配られてすぐ本棚の奥にしまい込んだ、誰のことが書かれているのかすら全く興味がなかった。この度、本棚の整理をしていて「石橋湛山」が描かれていることを知りびっくりしたとともに、これを読んで当時の会長の思いと見識の凄さに今更ながらに恐れ入った。経営者の意思である。
石橋の人となりについては、生い立ち、学び、東洋経済新報社での論説、思想、政治家としての活動、身の引き方等々時系列に詳しく丁寧に描写されている。
彼が関った課題についても、金解禁、小日本主義、戦時の軍部との確執、戦後保守党の派閥抗争等々わかりやすくそして的確に描かれている。特に金解禁はその経緯や本質が初めてよくわかった。現在も当局は超金融緩和政策からの脱却・正常化を模索しているが、歴史を辿ると、いつもこのような難しい課題があったことを教えられる。
戦時下、憲兵に見張られ、次男の戦死にもめげず信念を貫いた自由主義者の生き様に感じるものがある。
全編を通して今の政治・経済運営にも通じるものも多く、学者や出版人、指導者の在り方を問いかけ、読む者に厳しく迫るものがある傑作である。
石橋湛山は「日本のケインズ」に喩えられるようだが、自分にとっては、日本近現代史のなかで「明治の福沢諭吉に対する昭和の石橋湛山」という図式が思い浮かぶ。

0
2023年09月02日

「ノンフィクション」ランキング