あらすじ
些細な日常の出来事や着想から「霊感」を得、大きな一つの作品世界を構築していく作家・辻邦生の仕事ぶりを、半世紀を共にした夫人が彫琢の文章で綴る作品論的エッセイ集。
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Posted by ブクログ
#中公文庫 #辻佐保子
たえず書く人 #辻邦生 と暮らして
各作品の舞台裏を語った本
多作のイメージが強い辻邦生だが、著者曰く「基礎的な理論の構築を終えるまで 小説を書き始められなかったため〜執筆は60代半ばから一挙にはじまった」らしい
「フーシェ革命暦」の三部を書き終わらなかった理由を、阪神淡路大震災やオウム事件など終末的な悲劇の世相のなか、残酷な恐怖政治を書き続ける気持ちになれなかったから、と推定している
「春の戴冠」は ボッティチェルリの絵を見てから読んでみたい。「銀杏散りやまず」も面白そう
われわれは実存の孤独な夜の深みに徹することによって、はじめて存在の呼びかけを聞くことができる〜「永遠の桜草」が地上の「生」のなかにあるのでなく、「生」こそが「永遠の桜草」のなかにある
「嵯峨野明月記」
旧制高校の恩師古川久先生に捧げられている〜古川先生が大切に秘蔵していた「嵯峨本」を一度見せていただいたことがあったから〜遠い昔の記憶や映像が、ふとしたきっかけから呼び覚まされ、他の様々な偶然の要素と絡まりあいながら、最終的に一つの作品へ凝集してゆく
自作朗読を依頼されたとき、好んで読んだのは「嵯峨野明月記」の鶴の大群が舞う夕暮れの場面だった
「背教者ユリアヌス」
現在の年齢に達してようやく初めて感じられる〈宿命〉という言葉の重さに愕然とし、魂を強くゆすぶられた
著者の手をいったん離れた作品は、それ自体でひとつの独立した生命をもつようになるという辻邦生がよく口にしていた言葉を心底から実感した
「春の戴冠」
ボッティチェルリの作風が、周辺の精神風土や時代環境の変転のなかに位置付けられている
*ポーライウォーロの徹底した写実性とフィリッポリッピの甘やかな洋式との間で引き裂かれる葛藤
*描線の性格がしなやかで自在なものから堅い銅版画風のものへ変化する経緯
*晩年近くの人体の動感のみを誇張した空虚な画面構成
*沈痛な改悛や畏服の想いに溢れた祈念画
「眞書の海への旅」
辻邦夫の本質を形成する「海」と「船」が主題
「銀杏散りやまず」
父の死を契機として、親子二代にわたり〜長らく逃亡し続けてきた過去と故郷をふたたび見出すまでの現実の記録
Posted by ブクログ
読むのはいつもあとがきばかり
あとがき−心の闇あるいは水面下の氷山−
過ぎ去る時と留まる記憶
八ヶ岳から軽井沢暮らしになるところが懐かしく、また、知らなかった人間関係も見えてきた。辻邦生の松本高校時代の恩師であり結婚の証人になった関屋光彦氏の綾子夫人の兄が森有正氏だった。
著者は私のなかでは「A」として「パリの手記」に出てくるイメージしかない。
辻邦生の文学を現実に引き戻す存在としてAのネタばらしは楽しい(引用を見てね)。
Posted by ブクログ
2011/05/25 中公文庫「『たえず書く人』辻邦生と暮らして」(辻佐保子 著)
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辻佐保子という著者は、作家・辻邦生夫人である。
この著作を初めて見たのは、もう数年も前の事になる。四六小版の薄いハードカバーであったと記憶している。その時読んでみたいと思ったのだが、単行本であったため購入しなかった。
その後やはり読みたいとその本を探したのだが、既に本屋の棚から消えていた。売れたのであろうが、手に入れられなかったのが残念に思っていた。
そして今日、朝日新聞の広告欄に中公文庫の出版案内が掲載されており、それらの文庫の一つとして、この作品が紹介されていた。やった!欲しい本が文庫として出版される。嬉しくなり出かける時に買おうと思った。
果たして購入したのだが、…いつから読み始めようか?
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以下は中公文庫のWebサイトに紹介された記事である。…
〈些細な出来事や着想から大きな一つの作品世界を構築していく作家・辻邦生の仕事ぶりを、半生記を共にした夫人が綴る作品論的エッセイ。〉
書誌データ
初版発行日2011/5/25
判型文庫判
ページ数248ページ
定価540円(本体514円)
ISBNコードISBN978-4-12-205479
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