【感想・ネタバレ】月人壮士のレビュー

あらすじ

「全き天皇であること」
――その何人にも推し量れぬ孤独。

756年、東大寺大仏を建立した首(聖武)太上天皇が崩御。
道祖王を皇太子にとの遺詔が残されるも、
その言に疑いを持つ者がいた。
中臣継麻呂と道鏡は、密かに亡き先帝の真意を探ることになるが、
ゆかりの人々が語り出したのは、
母君との尋常ならざる関係や隔たった夫婦のありよう、
御仏への傾倒など、死してなお謎多きふるまいや
孤独に沈む横顔ばかりで――。

国のおおもとを揺るがす天皇家と藤原家の相克を背景に、
聖武天皇の真実をあぶり出す!
〈螺旋プロジェクト〉の1冊としても話題。

【電子版巻末に特典QRコード付き。〈螺旋プロジェクト〉全8作品の試し読みができます】

※〈螺旋プロジェクト〉とは――
「共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなでいっせいに書きませんか?」伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8作家朝井リョウ、伊坂幸太郎、大森兄弟、薬丸岳、吉田篤弘、天野純希、乾ルカ、澤田瞳子による前代未聞の競作企画

〈螺旋〉作品一覧
朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』
天野純希『もののふの国』
伊坂幸太郎『シーソーモンスター』
乾ルカ『コイコワレ』
大森兄弟『ウナノハテノガタ』
澤田瞳子『月人壮士』(本作)
薬丸岳『蒼色の大地』
吉田篤弘『天使も怪物も眠る夜』

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Posted by ブクログ

ネタバレ

螺旋シリーズ7冊目。

唯一の欠点は、登場人物の名前と読み方や出てくる漢字の読み方が一向に覚えられないこと!最後まで家系図のところに栞挟んで読んでたわ。
それ以外は果てしなく良かった!
螺旋シリーズで一番良かったかも知れない。
何が良かったかというのは正直はっきりとは語れないんだけど、なんかこう、しみじみと、良かった。
良かったと言ってもハッピーエンドとか爽快感とか勧善懲悪とかスッキリとかそういうのではなくて、ただただ良い物語を読んだという、良い読書をした、読書って良いなぁ、という、良さ。

天皇の話なのに基本ネガティブで、大っぴらに話してたら不敬罪に当たるのでは?とかの不謹慎厨めいた感想を持ってしまったのがなんか我ながら嫌だったりした。
話のメインは、結局天皇は男性でなきゃいけないということ。今考えると普通にド炎上しそうな内容なのに、天皇が男性であるということは現代でも当たり前のように扱われている。そう考えるとなんでなんだろう、という根本的な疑問を持ってしまう。今でもできていないのに狙って子供の性別を決めるなんてできるわけがなく、そんなときに限って男子が生まれなかったり早逝してしまったりする。だから本妻だけじゃなく側室なり愛人なりを作りまくって、男子が生まれたらその子を天皇にするという、改めて説明されるとおかしな話ではあるんだけど、文化としては別に日本に限った話ではなく世界中で起きてることなんだよなぁ…。男性の肉体的優位は否定できないけど、支配者になれるかならないかという能力は男女に差があるわけではないのになぁ、としみじみと考えてしまう。
しかも、そう考えると今でも天皇はやはり男性でなきゃいけないのに、現代の倫理観から側室も愛人もなにも無理となると、皇后様のプレッシャーたるや凄まじいのでは。と、天皇家を見る目がちょっと変わってしまう。変な意味ではなく。

そして螺旋要素としては、それほど表に出てこない。あくまでも補佐的な使われ方で、とても良い。ただ、後半から藤原氏が海、天皇家が山ということがはっきりと明示され、それに翻弄される聖武天皇と周りの人たちが読んでてとにかくつらい。おおる、おおるという泣き声の使われ方も一番印象的だったし、巻き貝の飾りもどこで出てきたかちゃんと覚えている。

語られ方としては、章ごとに一人の人物がひたすら語り倒しているだけ、それを10章続けていくだけという、特に凝った仕組みではないのだが、なんかミステリーというか京極夏彦でよく読む感じの文章構成というか、まあなんかこの形式を表す文学用語はあるんだろうけどとにかく引き込まれるおもしろい形式だった。色んな人が聖武天皇について語っていき、人となりが分かっていくように見えて急に違う展開になったり。でも結局他人から見たことなので、真実かどうかは誰にもわからないという…

あ、あと火の鳥とか読んで仏教嫌いになっている自分だが、今作でも仏教が割と敵みたいな感じに描かれていて、共感してしまった。いや、文化としては好きなんだけどやっぱり日本古来の文化の方が好きというか。
まあともかく聖武天皇という、天皇家であればそれ自体が宗教みたいなもののトップが仏法を尊ばれたというところの違和感をきちんと描いているところも良かった。良いとかダメとかではなく、たしかに不思議ではあるよね、という。

あ、あと道鏡が話の聞き手として出てくるが、話しそのものには全く関わらない。というかテキスト的には一言も発しない。割と有名な人じゃなかったっけ…

まあともかく天皇家に天皇以外の血が入った(初めてなのかどうか知らないが)出来事を海と山に絡めてくるというのは素晴らしかった。わかりやすいし、悲しいし。今思うと海族が局地的過ぎはしないかという気もするけど。

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2023年03月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

聖武天皇の遺召を探すために、選ばれた中臣継麻呂と道鏡。

 それは本当に存在しているのか?
 何故、帝になった安部帝はそれにこだわるのか?

 天皇家(山の一族)と藤原家(海の一族)の血を引いた聖武天皇が何を思い、自分の中にある対立するものをどう受け止めていたのか。

 螺旋プロジェクトで書かれた作品の一つです。

 日本人は血族主義ですから、彼の立場は辛かったのかもしれないなぁと読みながら思ってました。

 大仏に関してはいろんな史料があるので、改めて、あの大きな廬舎那仏を作った彼の気持ちは本当はどうだったんでしょうね。

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2023年02月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

〈螺旋プロジェクト〉の一冊。

〈螺旋プロジェクト〉とは
「共通のルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなでいっせいに書きませんか?」伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8作家=朝井リョウ、伊坂幸太郎、大森兄弟、薬丸岳、吉田篤弘、天野純希、乾ルカ、澤田瞳子による前代未聞の競作企画である。
ルール1 「海族」vs.「山族」の対立を描く
ルール2 共通のキャラクターを登場させる
ルール3 共通シーンや象徴モチーフを出す
(中央公論新社HPより)

これは、読む人を相当選ぶ小説だと思います。
何しろまだまだ分からないことの多い奈良時代の、聖武天皇の死について、です。
聖武天皇と言えば、仏教に深く帰依されて、全国に国分寺を建立し、奈良の大仏を建立した天皇です。
おかげさまで国庫がすっからかんになり、庶民の暮らしは困窮したのですが。

中臣家の三男継麻呂と道鏡が橘諸兄に呼び出され、天皇は死に際して遺詔(遺言のようなもの)を残さなかったか探れ、と命じられます。
というのも現天皇(孝謙天皇)は、アラフォーの聖武天皇の実の娘で、5日前に聖武天皇は、皇太子を道祖(ふなど)王とするようにとの遺詔を発したばかりだが、血統の違う道祖王を指名することに違和感を覚えたからだ。

中臣家はもともと藤原氏系統のおおもとであるが、血筋としては格上だが、今は不比等の一族に押しやられ、かつての栄光は見る影もない。
橘諸兄もまた、消えゆく橘氏の残り香であり、中臣家ともども藤原氏にはよい感情を持ってはいない。
道鏡は、まだ天皇家の人々に仕えて間もない新入りで、そのあまりにもまっすぐな心根に「足元をすくわれないように。機会があればすぐに宮廷を去るように」と言われるのですが、真っ当すぎて宮廷を去るタイミングを逃し、後々足をすくわれるのは歴史の知るところ。

ともあれ、生前の聖武天皇に近しい人々に話を聞き、その人物像を浮かび上がらせる。
古より国土に根を張り天地のすべてを統べる高貴な天皇家の血を父から受け継ぎ、朝廷での権力を握ってはいるもののたかが臣下でしかない藤原氏の血を母から受け継いだ聖武天皇は、己の中で混じり合うことのない二つの血筋に悩まされる。

それは、律令完成後の新しい世界で初めての、全きの完璧な存在である天皇を、己の血筋から生み出したいという持統天皇の強い願いと、一見持統天皇に協力している風でありながら着々と自らの血筋を天皇家に注ぎ込む藤原氏の思惑が絡まり合った結果なのである。

骨肉の争いが絶えることがなかった奈良時代の物語は、上手の手にかかれば実にワクワクするものになる。
奈良時代好きとしては、ありがとう!澤田瞳子先生!という感じなのだが、さすがに万人向けではない。
人名も役職も建物も、分かりにくすぎる。(作品内で聖武天皇は首(おびと)大王であり、孝謙天皇は阿倍女王である)

そして〈螺旋プロジェクト〉としても、これは異色の作品だ。
天皇家(山)と藤原氏(海)に一応分かれているが、その根拠は極めて薄い。
耳がとがっているわけでも、目が青いわけでもない。
二つの部族の対立は聖武天皇の中にしかない。(孝謙天皇の中にも、後の藤原氏の女性が生んだ天皇も、この対立に関しては無自覚なので)

そんなに藤原の血が天皇家に入っているのが嫌なら、さっさと長屋王にくらいを譲ればいいのに。
持統天皇が、自分の血筋にこだわった結果、数代あとには天武天皇系統は絶滅してしまう、天智天皇系統が復活することになるのだが、持統天皇は天智天皇の娘なんだよね。
愛する夫の血を残すために、甥やら姪やら殺しまくり。怖~。
で、数代後に絶える。
諸行無常ですな。

関係ないけど、乙巳の変について澤田瞳子さんに書いてほしいという野望を持っている。
あの当時絶対忌み嫌われた血という穢れ。
ましてや、天皇の前で入鹿を惨殺って、ありえない話のはず。
殿中でござるのよ。
刀を持って天皇の御前に参れるはずがないのに、どうしてそれが可能になったのか?
そして中大兄皇子の罪は問われず、後に天智天皇になってしまう。
人殺しなのに。クーデターなのに。
その謎を、納得できるような形で小説にできるのは、澤田瞳子さんだけだと思っているのよね。
ぜひ、いつか、お願いします。

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2025年08月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

難しかったけど面白かった。
海と山の戦いが、こういう表現もあるのかと思った。
夕暮れの話とか、共通認識になってるシーンが分かりにくくて、どのシーン!?と何度かページペラペラしてみたけど、あまり分からなかった(⁠+⁠_⁠+⁠)
登場人物たちがこのお話のあとに辿った運命を思うと切なくなった。

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2023年02月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

螺旋プロジェクト第2弾。

この「月人荘士」も最初は苦戦しました。人名・地名と役職名が難しかった。ので、フリガナが書いてある所まで、何回も戻ってっていうのをやって。苦戦でした。

でも、この「月人荘士」の世界観になじめると案外読めるようになって。また、おもしろく感じれるようになりました。

主人公は首(おびと)天皇(聖武天皇)。ただ、物語はこの首が崩御されたところから始まります。この首のご遺詔を探し求め、その過程で主人公の首の人間像に迫る、っていう形で進んでいきます。インタビュー形式で物語が進んでいくんですが、新鮮な感じがしました。

螺旋プロジェクトのテーマには「超越的な存在」の出現がありますが、最初は山族たる皇族の血と海族たる藤原家の血を併せ持った首天皇がこの物語の「超越的な存在」かと思ったんですが、そうではなかった。

首は、全き天皇であろうとするのに、自分の中の藤原家の血を憎んでいる。ただ自分が天皇になれたのは藤原家の血があったからこそ、っていう葛藤とか、親族への愛憎などの矛盾を一人で抱え、苦悩していた。日本古来の日輪の裔である天皇でありながら、外国から渡来した仏教に傾倒していったのも矛盾に満ちていたんだと思う。

螺旋プロジェクトは海族と山族の対立が大きなテーマですが、この「月人荘士」は直接的な対立ではなく、首天皇の内なる海と山の対立が描かれていました。

このストーリーの「超越的な存在」は首天皇その人ではなく、佐伯今毛人(さえきのいまえみし)という、一介の地方官吏。ただこの佐伯今毛人は「ウナノハテノガタ」のウェレカセリと同じような身体的特徴を持っていました。

佐伯今毛人はすごいことをやってのけたのではないけど、東大寺周辺の自然のバランスを図らずともやっていたのがなるほど、と思いました。その近くに大日女(おおひるめ)という猟師の少女がいたのが印象的。大日女とは天照大神の別称なんだそう。「超越的な存在」と天照大神を並べて描くって巧いなぁと感心しました。ただ、ここに出てくる大日女と天照大神の関係はないはずなんですが、もしかしたら・・・?って思う何かを感じた気がしました。実際、この佐伯今毛人の章だけ、他の章と雰囲気が違っていたような。

この「月人荘士」も、最初は読み進めるのに苦労しましたが、「ウナノハテノガタ」同様、慣れれば割と読めるようになったし、世界観を楽しめるようになりました。

面白かったです。

螺旋プロジェクト、続けて読んでいきます。

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2023年01月28日

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