あらすじ
絵葉書に冗談で書いた文章が,前途有望な青年の人生を狂わせる.十数年後,苦しみに耐え抜いたすえ,男は復讐をもくろむが…….政治によって歪められた1人の男の流転の人生と愛の悲喜劇を軸にして,4人の男女の独白が重層的に綾をなす,ミラン・クンデラ(1929-)の最高傑作.作家自らが全面的に改訂した決定版からの新訳.
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
好きな女の子の気を引こうと軽率な冗談を書いたために人生が狂ってしまった男の話。1950年代から60年代のチェコが舞台で、当時の歴史を踏まえた上で読むとチェコの歴史と主人公の姿がダブる。タイトルは主人公が書いた手紙を指すとともに、人々を翻弄する歴史も指している。
かつては冗談では済まされなかった手紙も自由を求める機運が高まる時代なら見逃される。しかし犠牲になった人生はやり直せない。誰もその償いをしてはくれない。ただ忘却されるのみ。かつては許されなかったことも時代が変われば問題視されない。価値観の変化、それが歴史の冗談だ。
登場人物たちの行動がことごとくその意図を裏切られる展開はコメディのよう。極め付けはかつて自分を追放した旧友との再会のシーン。いじめの加害者がいじめた記憶なんてすっかり忘れているように、彼は自分が昔したことを、当時はそういう時代だった、の一言で済ませてしまう。そして若い世代から見たら、かつて反目した二人の中年男は時代遅れな同類にしか見えない。
シニカルなユーモア精神が充溢している小説ながらラストシーンだけは切ない。消えていく記憶、戻らない時間を、演奏されたそばから消える音楽に重ね合わせるかのような描写は感傷的だが美しい。