あらすじ
世界が物価高騰に襲われている。この高騰は、景気の過熱に伴う「デマンドプル・インフレ」ではなく、景気後退・政情不安を招く「コストプッシュ・インフレ」の性格が強い。その背景にあるのは、グローバリズムの終焉という歴史的な大変化だ。このようなときには安全保障の強化や財政支出の拡大が必須だが、それらを怠ってきた日本は今、窮地に陥っている。世界秩序のさらなる危機が予想されるなか、もはや「恒久戦時経済」を構築するしか道はないのか。インフレの歴史と構造を俯瞰し、あるべき経済の姿を示した渾身の論考。
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Posted by ブクログ
昨年12月に刊行されたので、もうすぐ1年というところである。著者の書籍は初めて読んだが、その指摘がその後に起こった変化を含め現状をよくとらえている点に驚いた。
まず冒頭に「グローバリゼーションはリーマンショックで終わっていた」という衝撃的な主張が。確かにリーマンショック後、ロシアのジョージアやクリミア侵攻や中国の南沙諸島や尖閣への介入が強まる。この間、北朝鮮も核実験を加速させていた。一方のアメリカはオバマの下で融和政策を取り続けた。10年以上に渡る前段階があってから、ウクライナ戦争や習近平独裁確立によって現実的な脅威となった。グローバリゼーションが世界を平和にする、という主張は空想的だったことが明らかになった。
とはいえ、この本のメインは経済の話である。インフレがコストプッシュなのかディマンド・プルなのかで対応策が変わるはずという主張は、渡辺努『世界インフレの謎』でも指摘されていた通り。この本ではグローバル化はデフレを、インフレは世界の大変革を引き起こすという経験則を、歴史から導いている点が目を引いた。インフレは格差を増大させ社会を不安定にし、反乱・内戦・革命・戦争を招き寄せるのである。
70年代以降に起こったインフレを、共産圏諸国は配給制によって乗り越えようとしたが失敗し、冷戦が終結する。その後はグローバリゼーションが加速、旧共産圏の安価な労働力が入ることでインフレが抑制された。
ところが現在のインフレは格差が増大し国際情勢が不安定化する中で襲ってきたものであり、アメリカもEUも国内・域内に政治的分断や難民問題・債務問題などの多くの悩みを抱えている。その影響はこれまでのインフレよりも深刻なのだ。
ではどうするか。筆者の主張は「恒久戦時経済」への移行である。戦時経済とは総力戦を遂行するために、経済のあらゆる面に政府が介入し統制するということだ。もちろん現状で日本は戦争状態にはないが、エネルギー、食糧、技術、労働力までもが希少化する現状では、そうした統制をかけなければ我々は生き残れない、と著者は主張する。確かに中国は今、自由主義経済を捨て戦時経済に移行していると見れなくもないだろう。これから軍事力をかさに様々な材を横取りしようとしてくるはずだ。
しかし著者の主張に一つだけ反論するとすれば、統制経済などという国民に不自由を迫るような政策を、今の日本政府が実行できるかという点である。そのような気骨のある政治家がいるのか。残念ながら、未来はあまり明るいとは言えないようだ。