あらすじ
事件を呼ぶ本の虫・おせんが導く出版捕物帳
デビュー作『貸本屋おせん』で歴史時代作家協会賞新人賞を受賞、
業界最注目の著者による、看板シリーズ第2作!
文化年間の江戸浅草。
主人公は女手ひとつで貸本屋を営む〈おせん〉。
謎があるとつい首を突っ込んでしまう、事件を呼ぶ「本の虫」です。
表題作「往来絵巻」は、神田明神祭りが舞台。
宝くじが当たるより稀有でありがた~い、特別な「行列」を出すことになった与左衛門は、我らの偉業を絵として残そうと提案した。
金に糸目を付けず、1年待ってようやく仕上がった祭礼絵巻がついに完成。
しかし…… 絵には一人足りない人物が。消えた「あいつ」は何者だ?
〈おせん〉の推理がさえわたります。
蔦谷重三郎を巻き込んだ江戸出版界を揺るがす謎や、
〈おせん〉の父の死の真相、本仲間で絵師の「燕ノ舎」の最期……。
ちょっとビターで、心温まる、本好き必読の一冊です!
時代を超えて本好きを魅了する出版文化の豊饒さをお楽しみください。
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江戸時代に 貸本をたぶん籠にいれ風呂敷で包んで
貸して歩く なんて商売があったんですね。
若い女が背負うには 重い荷物です。
住んでる人は 来てくれるのを楽しみに
待ってる 貸本屋です。
今回は
らくがき落首
往来絵巻
まさかの身投げ
みつぞろえ
道楽本屋
の5編です。
みつぞろえ は信吉という女房子持ちの男が
女房と喧嘩して
貸本しょってるおせんに惚れる
あとついていくと 入った家で しっぽりやってる。
え、それ おせん?
信吉がおせんがらみで 歩いていると
汚いババアが 声をかけてくる。
女房以外の女に気をつけなされ!
と言われる。
悪鬼退散!
こっちが本物のおせん
そりゃそうだよねえ!
道楽本屋では
自死した父親の気持ちがわかったり
登は そばにいてくれるけど
当分は一緒になる気もなさそう!
一段と肝も据わり 見る目もこえ
しっかりものの おせんです。
友だちにしたいタイプの娘です。
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貸本屋おせんシリーズ2作目
実は一作目を読んでいないので、ちょっと不安だったけど、一話完結で、それだけで読んでもokだった。
気っぷの良い貸本屋おせんが、界隈のもめ事?出来事を解決していく。
江戸時代の貸本…大河ドラマの蔦屋重三郎を見ていたので、何となく仕組みとかが分り、かろうじて読み解ける感じかな。
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おせんが火事にあって、商売道具の本を無くしてしまったところからの、第二弾。貸本、地本問屋、戯作、そして禁制本などが、捕物になってぐんぐん読ませる。出てくる本もなかなか知れない本ばかりで興味が湧く。
中途半端な仕事しかできない植木職人の信吉が、おせんに惚れていく過程で、情けない男の心情が、手に取るように描かれていて、面白かった。しかもそこにはあっと驚くカラクリがある。「みつぞろえ」は楽しめた。
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『貸本屋おせん』の続編。
大河ドラマ『べらぼう』にも出てるくるが、江戸時代の出版のしくみがいろいろわかって面白い、が使われている言葉も難しく、なかなか私にはすらすらと読み進められないところもある。
当時の本は印刷されたものだけでなく、写本もあり、貸本屋は自分で写し、貸し出したりもしていたようだ。それゆえ、ちょっと出版したらまずいものも持ち歩いていることもある、ので貸本屋は少し怪しい職業と思われたりもする。
おせんはそこここで起こる厄介ごとにいつも首を突っ込み、まるで探偵のようでもある。この本は推理ものともいえるかもしれない。
そして、『べらぼう』でも、『貸本屋おせん』でも、内容はそれほど高尚なものではないかもしれないが、庶民が書物を求めている様子を見ると、そのころの日本って誇れると思う。
NHKあたりで放映されないかな。きっぷのいいおせんの江戸弁が聞きたい。
Posted by ブクログ
貸本屋おせんの第二弾。
せんは前作品の最後で火事によって商売道具である蔵書の全てを焼かれてしまった。
貸していた本が戻ってきつつあるが、商いのできる量の蔵書ではない。
だからというわけではないが、商売のかたわら、あちこちの書肆に出入りしても不自然ではないという立場を利用して、世話になっている本屋たちが巻き込まれた事件の謎を解いていく。
絵師の鋭い観察眼が、自覚なきままアリバイ崩しをしていたり、幻の本を巡るせんとセドリと岡っ引きの三つ巴の攻防があったり。
他人の努力の横取りで儲ける奴がいたり、はたまた小遣い欲しい若者が危ないバイト?
当時の職人たちの事情や、本屋の仕組みなどが自然に分かる。
謎解きも、その「仕組み」に密接に関わっている。
板木の彫師だったせんの父親、平治は、禁制の本に関わり、咎を受けたあと、大川に飛び込んだ。
父が何を考えていたのかずっとモヤモヤしてきた。
人々の事情に関わるうちに、父がなぜ川に飛び込んでしまったのか、何に絶望したのか、せんにも見えてきたことがある。
父と因縁のあった燕ノ舎に対する気持ちの整理もついたようだ。
【第一話 らくがき落首】
【第二話 往来絵巻】
【第三話 まさかの身投げ】
【第四話 みつぞろえ】
【第五話 道楽本屋】
今年の大河ドラマを見ていると、当時の本屋の店先が良く再現されていて、小説を読みながら情景が浮かんだ。
ますます江戸が面白い。
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貸本屋おせん第二作。北町奉行を揶揄する狂歌、祭の行列を絵にするが一人足りない話など連作短編集。
やはりいい。江戸時代の庶民を描く小説は多数あるけれど貸本屋が主人公のものは他にないだろう。書物の尊さ再認識。
Posted by ブクログ
「貸本屋おせん」を読み終わった余韻の冷めないうちにと、発売まもない二巻目の本作を手に取りました。
江戸の出版業界の内情が綿密に描かれていて、まずそこに興味が湧きました。特に、現代と江戸時代とでは「重版」という言葉の意味が全く違うことに驚かされました。でも、本を愛し、本から得る喜びをできるだけ多くの人と分かち合いたいという、本に関わる人々の願いは今も昔も変わりはないのだなとも思いました。
もう一つ特筆すべきは、本作では“おせん”のような貸本屋だけでなく、戯作者、絵師、版元、筆耕、彫師、摺師といった出版に関わる人たちの思いに、各話の中でスポットを当てているところです。
幕府によるご禁制の影響を受けながらも、力強く生きていこうとする“おせん”たちの姿に心動かされます。特に最終話で“おせん”が啖呵を切る場面ではホントに胸のすく思いがしました。これはもう本好きにはたまらない作品になっています。三作目にも期待大です。
Posted by ブクログ
往来絵巻
貸本屋おせん
著者:高瀬乃一
発行:2025年5月14日
文藝春秋
初出:
オール讀物
『落書落首』2023年5月号
『往来絵巻』2023年11月号
『まさかの身投げ』2024年5月号
『みつぞろえ』2025年1・2月号
書きおろし
『道楽本屋』
2020年のオール讀物新人賞を満場一致で獲得した「をりをり よみ耽り」を含む『貸本屋おせん』シリーズの第二弾。今回も5編の連作短編を楽しませてくれた。いつかは店を構えるぞと夢見て、一人荷を担いで回る貸本屋のおせん。住まう千太郎長屋の住人たちとの人情話、書物業仲間たちとのライバル心を抱きながらも協力しあってトラブルを解決する様子、現代社会にも通じるシチュエーションが冴えている。今回も1話で現代のSNSによる拡散を彷彿とさせるようなシチュエーションが設定されている。
このシリーズの興味深いところは、江戸時代の出版や書物に関する文化や商事情のことが分かる点。貸本には読んだ人の書き込みなどがしてあったり、物語や絵を独自に描いて挟み込む読者がいたり、ということがあるようである。また、戯作者や絵師の著作権という概念は確立していなかったようで、筆耕料など買い取りというか一時金を払うのみであり、あとは版元が自由に本を出して売ることができる。
そんなこんなは興味深いのであるが、この本の5作のいくつかは、少し分かりづらかった。種明かしによく分からない点があったのである。説明がうまくない傾向がある。説明的にするえきところと、読者想像的にすべきところの、判断がイマイチに感じてしまうのである。
せん:千太郎長屋の住人、和漢貸本梅鉢堂の経営6年目に、12歳で身寄りを失う、平治の友でもある喜一郎に引き取られる予定だったが縁者の反発で破綻
平治:彫師、「後れ毛平治」、禁制物に関わったとして指まで折られ、妻の出奔後に自死
母親:平治処罰の後に男と家出
(千太郎長屋:福井町)
忠右衛門:長屋差配
たね:せんが幼い頃から世話になっている
仙吉:たねの坊
弥八:5月末の火災後に入った店子、怪しい老人
登:浅草諏訪町の長屋に住む幼馴染み、野菜の振り売り
時蔵:登の父、桶づくり、病気がち
南場屋喜一郎:地本問屋「南場屋六根堂」主人、通油町の大通り
さえ:喜一郎の妻
寛助:南場屋番頭
卯吉:南場屋手代
辰吉:南場屋手代
伊勢屋徳一:南場屋のライバル
(町年寄)
樽屋藤左衛門:書物を担当
奈良屋:
喜多村:
1.落書落首
百姓に与力同心小田切られ主も家来もまごついた土佐
こんな北町奉行の失態を揶揄した狂歌が出回った。北町奉行所において、5月半ば過ぎに詮議を受けていた百姓が納得できずに乱心し、役人の脇差しを奪って下男や用人ら4人を切り捨てた事件がおきた。役人らは逃げ惑うばかり、捕まえたのは丸腰の下男だったという失態。6月の山王祭の賑わいが収束した頃、日本橋の高札場に一枚の落書きが貼り出された、それがこの「小田切落首」だった。北町奉行は土佐守小田切直年、大阪町奉行などを勤め上げた名奉行だったが、僅か31文字で失墜した。江戸のあちこちに同じ落首が貼られるようになった。
5月末の福井町火事で、おせんは多くの書物を失い、無一文になって店を構える夢が遠のいた。また出直し。千太郎長屋の店子は半分以上が移り、棟割り長屋が再建されると、店賃と下肥を取り戻すためにむやみに店子を増やして怪しげな者も入れた。なかでも弥八という老人は群を抜いていた。その弥八が井原西鶴『西鶴置土産 巻二』を買ってくれと言ってきた。道で拾ったという。人気本にはなりそうもないが、買い上げることにした。弥八は暇な時に文字を教えてくれとも。意外や、本を読みたいとのこと。天気の悪い日に限り教えることになった。
そうこうするうち、地本問屋「南場屋六根堂」主人の主人、喜一郎が捕まった。小田切落首を貼り付けた張本人だと疑われたのだった。しかし、喜一郎を知る人間たちは、とてもそれを信じない。喜一郎は小心者で、そんなことができる人間ではない。江戸中の書物仲間が力を合わせて冤罪を訴え始めた。
ある日、おせんは、買い上げた西鶴置土産から、小田切落首の絵を描いた紙切れや、文字が移ってしまった部分を見つけた。書物仲間に協力を求めると、貸本や古本に同じようなものが多く見つかった。読んだ人間が、世間で騒がしくなっている小田切落首に関して、面白がって自分なりの絵を描いたり、文字を書いたりして、その紙を挟んで広めたり、あるいは本に落書きをしたりしたのだった。
では、それを一体、誰が始めたのか?どうやら弥八が高札に貼ったのがきっかけだったようである。弥八は湯屋の板の間稼ぎで食いつないでいた。西鶴の本も脱衣駕籠から盗んだものだった。現代のSNSでの拡散につながる一話でもある。喜一郎はその紙切れなどの証拠の品により、無事、釈放された。
2.往来絵巻
佐柄木与左衛門:佐柄木町名主、佐柄木町御雇祭世話人、家康の駿府時代から研職(とぎしょく)にあり、研屋触頭を命じられた名跡で、後に江戸に移り、姓と同じ佐柄木町の名主役を命じられた
平太夫(へいだゆう):本町(ほんちょう)地本問屋「妙見堂」主人、
河内屋茂兵衛:滝沢馬琴『椿説弓張月拾遺』の版元
清兵衛:佐柄木町の茶飯屋主人、祭で篠笛吹いた3人のうちの1人、死亡
すみ:清兵衛の妻、茶飯屋を別のところで細々と営む
安藤重右衛門:絵巻を描いた絵師、元服したばかりで13,4歳、定火消同心、後の歌川広重
「文化六年巳年神田祭佐柄木町御雇祭(さえきちょうおやといまつり)絵巻」
神田明神祭は隔年9月15日に行われる(負担増により山王祭との隔年開催に)。36の氏子山車番組町の出し物が祭りを盛り上げる。氏子町が出す山車に付随する仮装、造り物、歌舞音曲行列は「附祭(つけまつり)」と称され、城下はのみならず場内の御上覧場まで賑やかに練り歩く。
「御雇祭」は、御台所や大奥の所望を受けた練り物「品替(しながえ)」を出せる特別な附祭であり、その世話番町は氏子を除く町から1町だけ選ばれる。文化六年は佐柄木町だった。富くじに当たるよりも有り難いことだった。名主の与左衛門は世話人として、自分たちの行列を絵に残すことに。そして、ついに絵巻が出来上がった。一年ちかくかけた大作。新年には佐柄木町祭礼絵図も三枚組で出来上がる。
与左衛門宅で件の絵巻の開帳があり、多くの者が首をのばして眺めた。見事な出来だった。昨年の夏ごろから、妙見堂の平太夫に言って絵師を探させ、1年かけて完成させた大作だった。年が明ければ絵図の開帳もある。そんな中、見ていた味噌屋の指摘で判明した。子供狂言に従う底抜け屋台の囃子方が9人しか描かれていない。祭礼番附には10人と書かれている。
与左衛門が妙見堂に来て、絵師にあわせろ、なにが間違っているかは直接言う、とクレームを入れてきた。絵師は武士が副業でしていることもあり、それは無理だと主人は言うが、間違いがただされなければ金は払わないと与左衛門。もし、絵師が確かに当日は9人しかいなかったと主張したらどうなるか?当日、なにかの事情で人数が違うことはよくあるが、芸人練子名前帳にある10人ひとりひとりに確認していけば判明することである。クレームのときに居合わせたおせんがそれをすることになった。
描かれていないのは、篠笛を吹いた3人だった。2人しか描かれていない。おせんが訪ねると、茶飯屋の清兵衛が死亡していることが分かった。祭りが終わり、帰宅すると病気で寝ていた妻のすみが回復していて安心し、酒を飲み、いつものように長屋の屋根に寝転んで夕暮れの富士山を眺めていた。しかし、そこから落下し、下にある祠の供物台に頭をぶつけて死んでいるのが見つかった。
おせんは帰りがけ、近所の煙管屋から清兵衛の評判を聞く。祭りとなると好きな賭け事も釣りも目に入らなくなるほどの熱の入れようだった。と妻は言うが、煙管屋が言うには、祭りが近くなり囃子の稽古が始まると血が騒ぎ、普段より酒癖が悪くなって、おすみをひどくなじったというのこと。おすみは暴力を揮われ、女遊びの金まで内職でまかなったようだった。おすみは後家で、色気がある。
3人とも笛を吹いていたことが分かった。おせんは絵巻をじっくり見ていると、あることを見つけた。諏訪町に住む幼馴染みの登が野菜売たちとともに、相撲の力士と喧嘩をする様子が描かれていた。早速、登に詳細を聞いた。喧嘩のせいで、行列は夕日が沈みかけていたころに再開し、散開したのは日が暮れてからであることが判明した。夜なのに清兵衛が帰ってから富士山を見るなんてありえない。
おせんが、おすみの茶飯屋を張り込んでいると、楽しそうな顔の与左衛門が夕暮れ一番に来た。おせんが立ち塞がると、与左衛門とおすみがウロウロ、なにか特別な関係?おせんが白状をさせる。
清兵衛は祭りの前日に死んでいた。全日にテンションが上がって酒に酔い、廁へ行くときに雨での泥濘に滑って頭を打ち、おすみが気づいた時には既に遅い。そこに与左衛門が。前日なのに笛吹きが来ないからと呼びに来た。非常事態を知り、慌てて医師を連れて来たが死んでいた。祭りに一人が欠けるなど縁起が悪いとばかり、医師やあとの2人の笛吹きを買収し、黙らせて清兵衛は祭りに参加したように見せかけた。
与左衛門は奉行所からこってり搾られたが、体面を守ったことは評価された。世間も妻などのことが評価され、三枚絵はよく売れた。
しかし、おせんは心の中で思っている。本当はおすみが清兵衛との暮らしに堪えかねて頭を硬い物(石など)で殴って殺したのではないか。おすみに入れ込んでいる与左衛門も分かりながら後始末で協力したのではないか。
最後に、これを描いた絵師におせんは出会う。後の歌川広重であった。
3.まさかの身投げ
(大筒屋)
みすず:女将、還暦過ぎ
藤吉郎:燕ノ舎、大筒屋の亭主?、病気、絵師、2年前に江戸に戻ってきた
*常盤町、小料理屋、酌婦を囲う女郎屋でもある
善市:岡っ引き
(鈴屋)
新右衛門:鈴屋主人、燕ノ舎とは書画を通じた古なじみ
*京橋、水引屋、髪を結ぶ元結(もつとい)を扱っているが、水引や香油などの小間物も売る大店
(船宿奥川)
おしま:奥川の女房
吾平:主人、芸者の菊乃と心中?、南場屋六根堂の喜一郎とは俳句仲間だった、
喜作:一人息子、営業復活のために動き回っている
*三十間堀、紀伊国橋そばにある
菊乃:置屋「新八」所属、芝神明宮の芸者、
勝次:下男、薬種問屋「信濃屋」の使いをしている、
せんの得意先の一人である、船宿奥川のおしまのところへ。貴重な本を貸していて、火事を逃れたのでありがたかった。それを返してもらったが、おしまは元気がなくて続きの巻が読めないという。夫の吾平が死んで一月半。芸者の菊乃と川に飛び込んでの情死だった。その3ヶ月前、川開きで、酔った薬種問屋「信濃屋」の主人が船頭にからんだために吾平が止めに入り、最後は川に突き落としてしまったため、鑑札の差し止めを受けた。やけになり、1月半前に菊乃と川に身投げして御法度の情死をしてしまった。
一人息子の喜作は、鑑札を取り戻そうと川船役所などを駆けずりまわっていたが、二重にいけないことをしたため認めてくれない。そんな息子がおしまとおせんを前に言う。親父は心中なんかしていない、と。吾平はその数日前に菊乃を訪ねている。それまで菊乃に会ったことがなく、客でもなければ情を交わしているわけでもなかった。菊乃は病気で2年ほど仕事をしておらず、自宅で療養していたという。
吾作は、その3ヶ月前に信濃屋主人を川に落としてしまったことを詫びたくて、いい仲だった信濃屋主人を紹介してもらおうとしていたのだった。ところが、信濃屋は川船役所の担当者に金を出して鑑札差し止めを行い、それでも腹の虫が治まらなかったのでとうとう吾平たちを殺したのだろう、と喜作は推測していた。それを聞いた母親のおしまは否定。商売人だから役人に金を渡すことはするかもしれないが、あの人は人を殺すような人ではない、と。
おせんが菊乃が住んでいたところを訪ねて近所の人に聞いたが、菊乃の評判は悪くなかった。そして、2人が飛び込んだところを見ていた人はいなかったことも判明した。吾平が死んだのは、新堀川にかかる金杉橋、日本橋から1里あたりだった。
後日、真実が判明した。岡っ引きの善市が巾着切りを捕まえた。金杉橋の下に暮らす物乞いだった。あの日、男女が橋の上で話をしていたので、近づいて男から紙入れを掏った。取り押さえられそうになったので、女に体当たりをして川に突き落とした。男は女を助けようと川に飛び込んだ。そして、2人とも死んだということだった。
ところで、おせんはある日、大筒屋の2階に住む絵師の藤吉郎(燕ノ舎)から使いを頼まれる。水引屋「鈴屋」主人の新右衛門に6両を届けてくれという。2人は書画を通じた古なじみだった。ことのおこりは、燕ノ舎が2年ぶりに江戸に戻ってきた。鈴屋は彼に仕事を頼んだ。病気で指が満足に動かせなかったから、普通なら断るところだが、昔、散々世話になった仲だから受けた。前金で4両、新右衛門は渡した。ところが、ちっとも絵が描けない。申し訳ないから4両を返した。すると、もう1両プラスして5両渡した。今度は6両にして返す。それを言付かったのであった。
このやりとりは続き、とうとう20両にまで膨らんだ。町でも話題になり、おせんはこのお金は大丈夫だったが、自分の巾着は掏られてしまった。
源蔵:参和、唐来参和(とうらいさんな)の『莫切自根金生木(きるなのねからかねのなるき)』=黄表紙。
4.みつぞろえ
隈八十(くまやそ):摺物読物板木売買の売り子
新吉:乗泉寺長屋、植木屋に勤める、植木徳松で修行したが中途半端に辞めた、今の勤め先は植木徳松の弟弟子
お糸:妻、実家は植木徳松(上野谷中)
ゆき:娘、生後六ヶ月
せん:飲み屋「まるふく」で会う女、25歳
新吉は谷中の植木徳松に弟子入りしていたが、仕事はあまり熱心ではなく、徳松も跡をつがせるのを諦めていたが、ある日、娘のお糸と駆け落ちをしてしまった。勘当したが、お糸の母親とは連絡を取り合っていた。父親も勘当はしたものの、自分の弟弟子の植木屋にたのんで新吉を雇ってもらっている。しかし、新吉は相変わらず仕事に身が入らず、酒や煙草にひたっている。娘のゆきがまだ小さい、苛立つお糸が内職で支える。
新吉はゆきが生まれて3月のとき、糸とつまらぬことで喧嘩した。居酒屋「まるふく」に吞みに行くと、せんという女と出会い、仲良く話をする関係になり、いつの間にか惚れてしまった。せんは梅鉢屋という貸本屋だという。ただ、せんは家まで送ろうとしても断るし、一線を画しているところがある。新吉はこのところ、占いのばあさんに声を掛けられるようになった。女に注意、など。
『艶道東国聴聞集』は天、地、人の全3巻からなるが、天と地は写本もあって珍しい本ではないが、最後の「巻之人」は幻の本だった。それだけ読むと男女が旅に出るところから始まる普通の本だが、天、地、人と読み進むと、それはロシアを舞台にした話で、御禁制の書であり、これを持っているだけでも重罪となる代物だった。文人や絵師などが密かに大黒屋などの料理屋に集って回し読みしていた。
幻の巻之人があるという話を知った隈八十は、大黒屋の主人からそのありかを聞き出した。5年前、善市親分が情報をつかんで読書会中に踏み込んできた。仲間の一人がそれを持って裏口に逃げ、そこにいた新吉夫妻にそれを預けて逃げた。必ず返してくれよ、と言いつつ。
巻之人を入手して金にしたい隈八十、取り逃がしたものを取り上げたい善市。2人は新吉を狙う。妻のお糸は返しに行くことを新吉に相談するのだが、新吉は興味なく上の空。それより「まるふく」でよく会う女のことで頭がいっぱいだった。ついに実家に帰ってしまうお糸。
実は「まるふく」に現れた梅鉢屋せんは、偽者のおせんだった。善市親分の手下で色仕掛けで本を奪おうとしたのだった。そして、警告を出し続けていたのは本物のおせんだった。化けて警告を発していたのだった。
善市は越境しての捜査だったので、真実がバレたときに偽者のせんと姿をくらませていた。本物のおせんは、隈八十に対し、天と地をよこしなさい、3冊そろい、みつぞろえで読んでから、あんたに渡すから、と言った。ただし、変なところには売るなよ、とも。
お糸も娘をつれて帰って来ていた。こちらもみつぞろえとなった。
5.道楽本屋
せん:千太郎長屋の住人、12歳で身寄りを失う、平治の友でもある喜一郎に引き取られる予定だったが縁者の反発で破綻
平治:彫師、「後れ毛平治」、禁制物に関わったとして指まで折られ、妻の出奔後に自死
母親:平治処罰の後に男と家出
忠右衛門:長屋差配
佐兵衛:彫師、若い頃は平治を手伝っていた、今は須田町で弟子を2人取る
芳一:弟子の一人、通いの弟子
楽介:地本問屋「弁天堂」を三河町で経営する二代目、石岡某の本に対して類板の疑いありだとクレームをつけてきた、業版が悪い
この短編は、おせんが12歳で孤児になったころの話からスタートする。このまま当時の話が続くのかと思ったが、イントロだけにとどめ、現在のおせんの話に戻る。
おせんの父・平治は腕のいい彫師であり、おせんも出版のことや板木のことなどに親しんできたが、平治が禁制の書に関わったということで、板木削りに罰せられ、右手の指を折られてもう彫れなくなった。おせんの母も男と出奔、やけになった平治は酒にあけくれる。家財や仕事の道具も売り払って酒に。おせんが誰かの手伝いをして小銭を稼ぐが、みそ汁に具も入れられない状態だった。少しでも仕事をしてくれたらいいのに、と思うが、破れ傘まで質に入れようというのか、持って出ていった。
佐兵衛という若い彫師が出てくる。平治が忙しいときに手伝いをしてくれた男であるが、落ちぶれた平治を心配して顔を出してくれる。しかし、破れ傘を持って出た日、とうとう平治は川に飛び込んで死んでしまう。傘は見つからなかった。孤児になってしまった、おせん。
物語は、今のおせんに。今回の事件は、喜一郎が主人を務める地本問屋「南場屋六根堂」で起きた。新春に出すものがなくて困っていた喜一郎。彼が懇意にしている置屋の女将が、石岡頼豪(らいごう)という筆耕が手書きで『天岩戸天竺敵討前編』を仕上げたので、女将が入銀して町版にしてやりたいと言ってきた。普通、開板にいたるには、戯作者への筆耕料のほかに、彫師の板賃、摺り代や仕立て代、紙代など膨大な諸事掛かりが必要だが、今回のように戯作者本人から町版として売り出して欲しいと頼まれた場合は、戯作者への筆耕代が不要となる。そればかりか、元入の一切合切を戯作社側で出してもらうことができ、利益はすべて南場屋に入るという、願ったりかなったりの話だった。
彫師は、今や須田町で弟子を2人取っている佐兵衛が担当し、いい仕事をしてくれた。ところが、売り出し寸前に「類板」の疑いありで差し止めをくらってしまった。弁天堂という版元が「模倣」だとして横やりを入れてきたのだった。板木で本を開けば、その本に関わる板株(本を出版する権利)を手にいれることができる。それを別の本屋がそのまま同じ本を作り出すことは「重板」となって最も卑劣な行いとして処罰された。一方で、本の一部を抜き出したり、外題替えにより売り出したりすることを「類板」という。仲間行事が申し出に対して吟味する。
弁天堂は、真似された証拠として、本ではなく古い板木を提出していた。しかし、そこにはからくりがあった。おせんが探りを入れると、無名の本元であり、何でも屋の一つとして本を出している弁天堂は「相板」が異常に多い。類板騒動の結末は、たいてい和解であり、趣向を真似た方が金を支払って解決するのが手っ取り早いが、弁天堂の場合は相板を申し立てていたのである。今回もそうだった。南場屋が本の諸事掛かり一切を出し、板株だけは弁天堂と折半するというじょうけんだった。今回の件も、何らかの方法で事前に石岡某の本の内容を知り、古い板木をつくったに違いない、とおせんは睨んだ。
もちろん、弁天堂の楽介はそれを否定した。事前に内容を知るなんてできない、と。
真相はこうだった。佐兵衛の弟子の一人、芳一がアルバイトで挿絵の彫りをしたことが判明した。もちろん、許可なく彫るのは禁止である。おまけに、追加で金を出すからという条件につられ、佐兵衛がしている仕事の内容を漏らしてしまったのだった。なお、挿絵の彫りは、古い板木を削ってそこに彫ったものだったので、盗んだ内容をそれに彫れば、古い出版に使った板木のように見えるのだった。なお、道具は傘屋で調達した刃物を使用した。
一見落着したところで、今度は幼馴染みの登が登場し、平治が死んだ日の思い出を語った。あの日、登が野菜を売り歩いていると、傘屋から出て来た平治とばったりとあった。平治は傘屋に行き、小刀などを調達しようとしたらしいが、そんな情けないことをするなと断られたようだった。平治は仕事を復活させようとしていたようだった。雨が降り出した。平治は登に破れ傘を渡して去っていった。
平治の死についての真相は明かされなかった。この貸本屋おせんのシリーズが続いたところで、明かされるのかもしれない。
Posted by ブクログ
『貸本屋おせん』のシリーズ二作目。全五話。
舞台は文化年間の江戸浅草。主人公は女手ひとつで貸本屋を営むおせん。
様々な厄介ごとに巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んで 解決していくおせん。
もはや『貸本屋探偵おせん』だ。
どの話もよかったが第五話の「道楽本屋」では新参の悪徳本屋に おせんが啖呵を切る姿はカッコよく、しかし腕の良い彫師であった父が十二歳のおせんを残して川に身を投げた本当の理由がわかった時のおせんの気持ちを思うとなんとも やりきれなかった。
それにしてもこの時代 本を出版するということはなかなか大変そうだ。
地本問屋がいて おかかえの戯作者が草稿を書いて それを地本問屋仲間で吟味して問題なしと認められたら筆耕に清書を依頼して それを元に板木が彫られ摺り師に渡り…… と本当に多くの人が関わって本ができている。
そしてお上の目もある。
大変で窮屈そうだけれど なんだかとてもイイ。
本は この時代当たり前にあった身分を問わないからかな。
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貸本屋のおせんが本に関わる争い事や事件に、頼まれたり自ら頭を突っ込んだりする五編からなる第二巻。おせんが探偵ばりに謎解きして悪人を懲らしめ問題解決、というわけではなく、江戸時代の本をめぐる事情だったり、町民の暮らしだったりを挟みつつ、おせんがいい具合にストーリーに絡んでいくのがリアルさを生み出し、おちに納得感を生んでいるように思う。ちなみにご時世柄か、二代目蔦重の名前も何回か出てくるので、大河を観ている人はなんとなく場面の映像がイメージしやすくなるかもしれないです。
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「貸本屋おせんシリーズ」第2弾。
「らくがき落首」「往来絵巻」「まさかの身投げ」「みつぞろえ」「道楽本屋」全5篇の連作短編集。
江戸の出版業界が窺い知れるこのシリーズ、金持ちは金持ちなりに、貧しいものは貧しいものなりに庶民が日々の楽しみとして書物に親しんでいる姿が生き生きと描かれる。
出版できない禁制本は古本屋が筆耕し密かに読みまわすとか、そうやってギリギリのところで庶民の文化が伝えられていたんだな〜感慨深い。
そしてこのシリーズの楽しみはなんといっても主人公・おせんのきっぷの良さ。その堂々たる啖呵の切りようには「よっ、梅せん!」と声をかけたくなるほど。
書き下ろしの最終章では14年前に自死したおせんの父・平治の死の真相が判明する。さいごの瞬間は父親ではなく、彫師として命を終えたとわかった時のおせんの心情が辛すぎる。
仕事への矜持ゆえだったんだろうけど、おせんの存在が最後の最後で父を引き留めるよすがにならなかったことが哀しい。
登とは相変わらず付かず離れず。シリーズが進む頃には何かしらの進展があるのか、そちらも楽しみ。