あらすじ
仕事一辺倒に生きてきた瀬川拓海は、ある日、突然の余命宣告を受ける。失意の中、通院時に偶然知り合ったのは、天真爛漫な女性・葵だった。拓海と同様、余命いくばくもないという葵は「死ぬ前に結婚を経験してみたい」という突拍子もない理由で、拓海に同棲の話を持ちかける。ふたりは夫婦として叶えたい6つの目標を作成し、残された1年で疑似夫婦生活をスタートすることに…? 限りなく切なくて温かい、恋と愛の物語。
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Posted by ブクログ
余命1年と宣告された男女が“疑似夫婦”として過ごす365日を描いた作品です。主人公の瀬川拓海と瀬川葵は、病院で偶然出会い、同じ苗字”瀬川”という偶然と、同じ余命という運命を共有します。
そこから始まる「死ぬ前に結婚を経験してみたい」という突拍子もない提案は、読者に「この先どうなるの?」という期待感を抱かせます。
物語は、二人が夫婦として叶えたい6つの目標を立て、残された時間を共に過ごすことで、少しずつ心を通わせていく様子が丁寧に描かれています。
拓海は仕事一辺倒で不器用な性格、葵は天真爛漫で自分に素直。正反対のようでいて、どこか似ている二人がぶつかり合いながらも、互いを理解していく過程が胸を打ちます。
そして、物語に深みを与えるのが拓海の元カノ・ニコの存在です。彼女は過去の拓海を知る人物として、現在の彼との対比や、彼の変化を浮き彫りにします。ニコの優しさや思いやりは、物語にもう一つの温もりを添えてくれます。
物語の中盤、二人が「一緒に旅行に行く」という目標を叶えるために訪れた広島は、二人にとって「生きている実感」を強く与える転機となり、「この幸せが長く続かない」という切なさが静かに漂います。もみじ饅頭を食べながら他愛もない会話を交わす様子は、余命という重いテーマを一瞬忘れさせてくれるほど、穏やかで温かい時間でした。
終盤に向かうにつれ、読者は「限られた時間の中で人は何を選び、どう生きるのか」という問いに向き合うことになります。涙腺を刺激する展開もありながら、決して悲しみだけでは終わらない、希望と愛の物語として心に残ります。