あらすじ
まだテレビ中継がなかった時代――。
玉音放送を担当し、NHK「話の泉」の司会で国民的人気を博したアナウンサー・和田信賢。
彼は戦後初めて日本が参加する夏季オリンピックに派遣されることが決まる。
念願だったオリンピック中継だが、無頼な生き方を貫いた和田は、
長年の無理がたたって体調を崩していた。
「どうしても、オリンピックを中継したい」
その一心で、男は、大会の舞台・北欧ヘルシンキへと向かう。
現地から「日本人を鼓舞する」中継を続けるも次第に病は重篤になり、ついに――。
戦争に敗れ自信を失った日本人に、夢と誇りを抱かせてくれたヘルシンキ五輪。
スポーツ小説の名手・堂場瞬一が、選手以上にその生きざまに惹きつけられたという
主人公の魅力とは?
※この電子書籍は2020年4月に文藝春秋より刊行された
単行本の文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
警察小説やスポーツ小説で数々の作品を著している著者が、評伝小説に挑戦した作品といっていいか。
過去に編集者から「作家は評伝を書いてこそ一人前」と言われたことが頭に残っていたことがこの作品につながると、「あとがき」で述べている。
主人公は、NHK「話の泉」で司会を務める和田信賢。他の登場人物もすべて、実名のようだ。
体調に不安を抱える和田は、躊躇いながらもヘルシンキオリンピックの取材と中継のため北欧へ向かう。
しかし、飛行機の旅も体に合わず、這々の体で現地に着く。当初は何とか業務をこなしていたが、終盤になって体調の悪化が著しく、担当を放棄せざるを得なくなる。
オリンピックの後、アメリカ視察が予定されていたが、それも叶わずパリで入院し、そのまま客死となる。
全編、吐き気、めまい、発熱と、彼の体調の悪さが綴られ、読み進むのがしんどくなる。
ドキュメント風なこの小説、病身の和田を献身的に支える後輩の大原(当時の熱い人間関係が活写されている)。彼のメモが、随所に挿入されているが、これも実在するものなのだろうか。