あらすじ
ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは決まって一冊の本が抜き取られていた――。客室係の「私」だけが秘密を知る表題作など、静謐で豊かな小説世界が広がる、“移動する”6篇の傑作短編集。
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Posted by ブクログ
小川洋子の短編小説を初めて読んだ。
小川洋子作品に流れる静けさや文字の美しさは、文字や小説という体系を超え、感じたことのない感覚にさせてもらえる。
ここで好きだった作品は、「寄生」と「巨人の接待」。
この2作品に感じたのは、一見不快感を抱く言葉やものが見方を変えただけで、大切で重要なものに見えてくるという点だ。
寄生する、亡くなる、枯れるという言葉は、あまりいい思いはなかったが、小説の中で違った角度で照らされており、大切に感じることができた。
小説家って凄い。
Posted by ブクログ
いつもの小川さんらしく、登場人物たちには名前がなくて殊更注目されるような人物ではないんだろうなと思っても、登場人物たちの仕事はぴったりとその世界に収まっている。
代わりがおらず、万が一他の人がその仕事をすればそれは取り返しがつかないほど全く違うかたちにその世界を変えてしまうんだろうなというくらいに。それに、変わってしまった世界になると前のことなどすぐ忘れられてしまうだろう。
そんな些細な人の一瞬を切り取る小川さんの目線は優しい。薄っすらと漂う狂気や、抑え込まれないグロテスクも、この尊さはなくならない。さすが小川さんだ。
普段、自分のしている仕事は代わりがきくと思っていて、仕事のためにはそれが良いんだろうけど(不測の事態があっても続く、とかで)、時折こんな仕事が羨ましくなります。登場人物たちの働き方にはプライドがあるし。
「ダイアナとバーバラ」「黒子羊はどこへ」「巨人の接待」が特に好きでした。