【感想・ネタバレ】英国クリスマス幽霊譚傑作集のレビュー

あらすじ

ヴィクトリア朝期、ディケンズ『クリスマス・キャロル』がベストセラーとなって以降、聖夜の訪れに伴って出版社は作家に怪奇小説の新作を依頼し、特別なシーズンの贈り物として大衆に届けた――幽霊をこよなく愛するイギリスの国民性に根ざす慣例から生まれた作品を、数々の怪奇幻想小説を紹介する翻訳家が精選する。古屋敷に招かれた男が鏡の中に見た幻影「鋼の鏡、あるいは聖夜の夢」、もの悲しい海岸の村で起きたゴシック的怪異を綴る「海岸屋敷のクリスマス・イヴ」、奇妙な下宿で女性が体験する恐怖の一夜「メルローズ・スクエア二番地」など、知られざる傑作から愛すべき怪作まで13篇を収録。集中12篇が本邦初訳。/【目次】クリスマス・ツリー チャールズ・ディケンズ/死者の怪談 ジェイムズ・ヘイン・フリスウェル/わが兄の幽霊譚 アメリア・B・エドワーズ/鋼の鏡、あるいは聖夜の夢 ウィリアム・ウィルシュー・フェン/海岸屋敷のクリスマス・イヴ イライザ・リン・リントン/胡桃邸の幽霊 J・H・リデル夫人/メルローズ・スクエア二番地 セオ・ギフト/謎の肖像画 マーク・ラザフォード/幽霊廃船のクリスマス・イヴ フランク・クーパー/残酷な冗談 エリザベス・バーゴイン・コーベット/真鍮の十字架 H・B・マリオット・ワトスン/本物と偽物 ルイーザ・ボールドウィン/青い部屋 レティス・ガルブレイス/編者あとがき 夏来健次

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Posted by ブクログ

ネタバレ

冒頭のディケンズはこういうのも書いてるんだなぁと思った幻想怪奇小説。
クリスマスツリーの描写が凄く細かくて素敵でほの怖い。
友人との約束で先に死んだ方がもう一人の元に姿を現すというのは、デカメロンにも類似の話があったのでふふっと。
・わが兄の幽霊譚
泊まった宿でセントバーナードが寄ってきたシーンが好き。
・海岸屋敷のクリスマス・イヴ
メアリさんの『自分としては、男と一緒になるならば、身の危険を感じることなく、その生き方を理解できる相手を選びたいのだ』が切実すぎて…。
・残酷な冗談
あんまりですわぁ…。
・本物と偽物
ケイトとの会話がほのぼのして小粋だったのになぁ。
というか、別に自分に襲いかかってくるわけではない幽霊でも、ショック死するほど怖いもの…?
まぁ幽霊と言うだけで、何かしらこの世に未練があって漂ってるんだろうけども。
・青い部屋
メロドラマ入りの怪奇小説きたー!
なんかいいね。ほっとする。

0
2024年09月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ゴーストストーリーが13篇。アドベントカレンダーのように、クリスマスまでに毎日1話ずつ読む、というのはどうでしょう。

どれもそれぞれに面白かった。

0
2022年12月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトル通りヴィクトリア朝期英国、それもクリスマス限定でなくちょうどこの時季を舞台にした幽霊譚13編。内12編が本邦初訳だそうだが、全体を通しての味わいは期待通りだった。

好みの作品いくつかについて。
・クリスマスの日の情景を描いたエッセー的なC.ディケンズ「クリスマス・ツリー」。ツリーや種々の飾りに纏わる思い出話は次第に昏い色を帯びていき……。ツリーが造り出すクリスマス、そして冬の夜の光と影。

・「海岸屋敷のクリスマス・イブ」E.L.リントン
イングランドの西端コーンウォールの家を購入し移り住んだ若い夫婦。妻は家の管理人ベンリースという男に言い知れぬ嫌悪感を抱く。その後悪夢を繰り返し見るようになり精気を失って行く妻。心配した夫は妻の母親を呼び寄せるが……。
荒涼とした冬のコーンウォールの雰囲気も相俟って何とも陰惨な話。ただし10年以上土中に埋められていた(ネタバレ回避)の描写には少しツッコミたくなるのだが、これもコーンウォールという土地の為せること?

・「メルローズ・スクエア二番地」T.ギフト
翻訳業を営む主人公が借りた一軒家で体験した怪異が綴られるが、風評被害を受けたと家主から訴えられたことに対する弁明―という体で書かれ、明確な解決もないまま新たな情報を求めている……というラストは何となく今流行りのモキュメンタリー仕立てに通じるものがあるようにも感じられる。尊大で何か秘密を知っていそうな不穏な雰囲気をまとう家政婦のキャラクターは「海岸屋敷の~」のベンリースと似たところもあるが、謎が多い分より印象に残る。

・「幽霊廃船のクリスマス・イブ」F.クーパー
沼沢地での鴨猟の最中、廃船で一夜を明かす羽目になった男の体験。
漆黒の闇の中、何か異様なことが起きている物音だけがするという不可解な怖さと、朽ちた船内で酷く不安定な足下と寒さという物理的危機。この二重の恐怖は―明記されていないにせよ―心霊怪談であると同時に“監禁テーマ”恐怖譚の巧みな変奏とも読めるような。

・「本物と偽物」L.ボールドウィン
クリスマス休暇に大学の学友2人を実家に招いた青年マスグレイブ。修道院の跡地に建てられたこの邸宅に幽霊が出るらしいという言い伝えの話が出たことから、幽霊の有無について論争になる3人。否定派のローリーは2人を驚かすある悪戯を企むが。
幽霊の存在について肯定、懐疑、否定の三派に分かれるがそれぞれの主張が面白い。彼らは近所に住む若い姉妹とも親しくなって、どこか青春もののような雰囲気も帯びるだけに、一気に暗転するようなラストが一層効いている。

・「青い部屋」L.ガルブレイス
四代続いて或る名家に仕える家政婦が語る、屋敷内で封じられていた部屋の逸話。
発表されたのがドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズ初期と時代が重なることもあってか、部屋の怪異を解き明かす人物のキャラクターは、ヘッセリウス博士とジョン・サイレンスの間を埋めるゴーストハンターキャラの魁とも読める。それだけに著者の経歴が不詳で作品も少ないというのが何とも残念(著名な作家の別名義ってことは……ないよなぁ)。聞き手(という体の作者)の補足によって怪異の正体が明かされるラストが鮮やかで、その真相もガジェット自体は古典的であるのにどこかモダンホラーに通じている印象。

冒頭の「クリスマス・ツリー」が発表されたのが1850年で掉尾を飾る「青い部屋」は1897年。半世紀の間に発表された作品を年代順に読み進めることで、描写されるヴィクトリア朝の英国人や社会通念、その推移みたいなものを、怪談そのものの変化と共に垣間見れる―ようにも感じられた。

定番として常に店頭で手に取れるようにしておいて欲しい1冊。

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2023年12月20日

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