【感想・ネタバレ】セリエA発アウシュヴィッツ行き~悲運の優勝監督の物語~のレビュー

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Posted by ブクログ

多くのユダヤ人が虐殺された第二次世界大戦下のヨーロッパ。
犠牲者の一人であるアールパード・ヴァイスの足跡を辿った一冊。

最終章でアールパードがサッカーの名監督(スクデット3回獲得)であったことから、彼の人生を試合に例えているのですが、あまりにも前半と後半の明暗がくっきりしていて辛い。イタリアで監督としてのキャリアをスタートさせ、スクデット獲得という栄光も手にした彼が、政治に翻弄され逃亡するしかなくなってゆく後半。
タイトルにある「アウシュビッツ行き」から連想したように、死から逃れることはできなかった。それを予想、確信しながら最後に向かって読み進めてゆくのはとても辛い。
辛いという感情を抱くのは当然であり、彼やその家族、多くのユダヤ人が理不尽に受けた災厄を繰り返さないために、後世の自分達はどうすべきかを考え続けないといけない。繰り返してはいけない。

アールパードという人物の歴史を紐解くことは、イタリアサッカー史としても有意義なものであると感じました。ジュゼッペ・メアッツァの名前が出てくるとは。彼の名前は伝説の人物として知ってはいましたが、アールパードという監督の存在があったということは知りませんでした。本来というか戦争がなければ、両者ともに輝かしい功績と名誉を表彰されたであろうに、人種で区別をされてしまったために片方は長い間、過去の人物ということすら忘れられていたというのは、あってはならないことではないと思います。それは、功績を残した残していないではなくて、市井の中の一人でも、変わらないことではあるのですが。

栄光と平穏の前半といえど、確実に不穏な危機は始まっていて、個人では抗えない大きなものが押し寄せてくる感覚が、とても怖気を誘います。最大に高まったのがオランダでの生活。理知的な人間であったと描かれているアールパードでも、自分と家族の小さな社会を守るために、結果的に大きな社会から目を背けることになってしまったのは、どうしようもないことだったのか、と考えてしまいます。
後世の視点からものを言っているのは重々承知ですが、どこかで逃れることができたのでは、とifを探してしまいます。
なぜ逃れることができなかったのか、それも考え続けなければいけないことか。

悲劇を起こさないために、巻き込まれないために、加害者にも被害者にもならないために、過去から学び続けなければならない。考え続けなければならない。

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2023年02月05日

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