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Posted by ブクログ
能の歴史を概観している本です。
能についての解説書では、多くのばあい能の大成者である世阿弥に多くのページがあてられていますが、本書は700年におよぶ能の歴史の全体像を提示しています。とくに、豊臣秀吉や徳川綱吉が能に傾倒したことや、明治維新以降に幕府の庇護をうしなって苦境に陥った能が、天覧によって復権の手がかりをつかみながらも、その後の政治に翻弄されていったことなどが説明されています。
巻末の「むすびに」で著者は、「能は、具象性を極限まで削ぎ落とし、抽象性の極致にある芸能だ」といい、そうした能の本質を理解する観客をそだてていくことが、これからの時代に能が受け継がれていくための道ではないかと語っています。そして本書は、そうした能についての理解をひろめていくことをねらいとしています。
ただ、本書の叙述はもっぱら歴史的な事実を説明することに終始しており、著者の理解する能の本質がいったいどのようなものなのかということについては、明確に語られていないように思います。「能は、具象性を極限まで削ぎ落とし、抽象性の極致にある芸能だ」と著者が語る理由について、もうすこしくわしく語ってほしかったという気がします。