あらすじ
仁木雄太郎・悦子の素人探偵兄妹が巻きこまれた奇妙な連続殺人事件。
怪しげな電話、秘密の抜け穴、蛇毒の塗られたナイフ、事件現場に現れる一匹の黒ネコ。
好奇心溢れる悦子のひらめきと、頭脳明晰な雄太郎の推理が真相に迫っていく。
鮮やかなトリック、心和む文体。
江戸川乱歩賞屈指の傑作が新装版で登場!
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
仁木悦子と仁木雄太郎の兄弟が下宿をする箱崎医院で殺人事件が起こる。
メインとなる殺人は平坂殺し。箱崎医院の医師、箱崎兼彦が平坂の癌を盲腸炎と誤診したため、治療が遅れてしまう。平坂の性格を知る箱崎は、自身がこの誤診により破滅すると考え、看護婦の家永と協力して平坂を殺害し、その身元が分からないよう細工する計画を立てた。
家永の声の質が平坂に似ていることを利用し、再生速度を遅くした音声を使って平坂が生きているように装うトリックが使われる。また、身元が割れないよう平坂の遺体を水死体として偽装した。
事件を目撃した桑田老婦人が殺害され、その孫ユリは指輪と現金を盗まれる。犯人は箱崎兼彦の次男、敬二。敬二は滞納していた家賃を払うため現金を使用し、指輪は換金できず隠した。この盗難事件が平坂と桑田老婦人の間で取引されようとしていた茶壷に関する話と絡み合い、事件が複雑化する。登場人物の嘘や隠し事がクリスティ的な要素を思わせる。
悦子が偶然にも抜け穴の入口を封鎖してしまったことで、家永殺しが外部犯ではあり得なくなる。さらに工藤夫人がかつての平坂の悪行を恨み、平坂を毒殺しようとしていたというミスディレクションがサスペンスの緊張感を高める。
箱崎兼彦の長男英一が平坂の妻清子と恋仲だった過去も、英一を犯人に見せかけるためのミスディレクションとして機能している。最後に、動機が巧妙に隠されていた箱崎兼彦が真犯人であると明かされる展開は、オーソドックスながら見事である。
仁木雄太郎と仁木悦子が探偵として活動しやすくするための登場人物として、老警部というあだ名の峰岸周作という人物が登場する。そこまでキャラクターが立っているわけではないが、この人物がいることで仁木雄太郎、悦子に情報が入り、変死体の調査をしてもらうなど、筋が進む。このキャラクターの存在が御都合主義的ではあるが、許容範囲内
家永殺しでは、猫を利用した物理トリックが使用される。「蛇の毒を塗ったナイフを眠らせていた猫が動かすことで発射される」という仕組みは古典的ながらユニークで印象的だ。タイトルの『猫は知っていた』はこのトリックを象徴している。
ひと昔前のミステリらしいトリックといえる。家永が「ネコ、ネコが…」といって死ぬが、これが何かという謎ではなく、ネコがトリックに使われているという、そのままの意味というのが、逆に新鮮でもある。
箱崎兼彦が犯人だということを示す伏線は結構張られている。チミではないネコが気絶していたり、幸子が寝小便をしていたことから、母が行方不明であり、とても寝れそうにないはずの敏枝夫人が熟睡していた=睡眠薬を飲まされた=箱崎兼彦が飲ませた、など。
入院患者の一人の付添人である桐野夫人は、「もう一本はどうします」という旨の証言を聞く。決定的なことを思い出す前に…という意図で殺害されかけるが未遂に終わる。
まとめると以下のとおり
● 平坂殺人→メインの殺人誤診を隠すために殺害。
● 桑田老婦人殺害→目撃したため殺害
● 家永殺人→猫を利用したトリック。共犯殺害
● 桐野夫人殺人未遂→証拠隠滅
トータルの感想は、古い作品ながら、クリスティ的な作風のよくできたミステリ。箱崎兼彦が、医療ミスを隠すために、身元が分からないような形で平坂を殺害。このシンプルなスジに、箱崎兼彦の次男、敬二がユリが持つ指輪と現金を盗むという犯行が重なり、結果として平坂と桑田老婦人が取引をしようとしたことが重なる。これを利用して、箱崎兼彦が平坂を殺害しようとするが、結果として犯行を目撃した桑田老婦人も殺害される。
家永殺しは、ネコを利用した物理トリック。最後の桐野殺しはトリックらしいトリックはないが、読者が箱崎兼彦が犯人と推理できるようにするための犯行ともとれる。
古い作品ながら、伏線もそれなりに張られており、軽いミステリのお手本のような作品となっている。今、読んでもそれなりに面白く、★4とまではいかないが、★3で。