あらすじ
イギリスの出来事が、その先の未来と、今の壊れた日本を予見する。ロックと英国の社会・政治を斬りまくる初期エッセイ。『アナキズム・イン・ザ・UK』の前半部に大幅増補。著者自身が体験してきた移民差別と反ヘイト。拡大するアンダークラス。イギリスの音楽から労働者階級のプライドを自覚した著者にとっても、音楽と政治は切り離せない。
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Posted by ブクログ
敢えてカタカナでタイトルを示したブレイディさんの過去のコラムをリエディット、再掲しまとめた書。音楽と政治、英国がもつシニカルで、机上のやりとりを楽しむ社会が面白い。労働党と保守党という政党間で揺れる、アンダークラスに焦点を当てた日本語の本としては非常にユニークでもある。だからこそ、彼女が国際結婚したジャーナリストとしてではなく、一人のイギリス人として社会に入り込んで行った過程で、政治を一緒に連れて行っていたことに価値を見出しているように思える。もちろん、政治の結果は散々であるけれど、セックスピストルズ、レイジなどの労働階級からも支持されたパンクは、英国の生み出した産物であり、米国のJazzやヒップホップと比較しても、いまだに異なる嗜好性をもっているのは面白い。純潔主義を貫くあまり、落としていった大切なダイバーシティやサステナビリティの感覚が欠如しているんだろうなと、読んでいって興味深いものがあった。
また、アメリカ、特にニューヨークにいて感じるものであるアジアの劣等感みたいなものは、ロンドンでは罵倒される言葉に表されている。ニューヨークは、肌の色や言語ができないことを理由に攻撃すれば、それは州法違反になるはず。誰からも、英語が下手だね、とも言われないし、もっとできない人もたくさんいて、それでもニューヨークを盛り上げようとみんな前を向いているエネルギーがある。お互いをけなし合うことは表向きはもちろんない。ロンドンは、表も裏も根っからの差別主義なんだろうなということが随所に伝わってくる。もう一つは、ママ同士だろうが、どんな階級だろうが、まず政治の話を放り込むというところだろう。ニューヨークで、あっていきなり天気と政治の話をしたら、おそらく友達がいなくなるんじゃないだろうか笑
アジア、中国への印象が悪すぎるということがあったとは言え、全てに流れるのは根暗な感覚だ。それをパンク的なエナジーに変えている人達を見て、どういうふうに解釈するか、どういう風に自分の中に入れていくか、それを友達のコメントや日常の出来事の中で起こるあれこれに関連して考察していく。皮肉さえ理解できないレベルの英語であれば、おそらくここまで書けなかったであろうから、すごくよけいに身近で、そして絶望感に満ち溢れている。言葉が喋れないんだったらくるなよ、来るならきちんと国や社会に貢献しろよ、最低限、それって社会に入ってくる人が持つべき義務や倫理観じゃないのかと。簡単じゃないんだけども、それが現実なんだろう。筆者の方も、おそらく同じ意見だろうと思っているけれど、これは日本人向けの本であり、また日本にいてよかった、日本にいた方がいい、なんてこれを読んで思ってほしくはないなと。