あらすじ
今からおよそ600年前,和人が本格的に侵入する前の豊かな自然の中で,アイヌの人々はどんな暮らしを営んでいたのか.「いつも食べる物がある」という意味の名をもつアイヌの女性ハルコロの生涯を軸に,日々の手仕事や狩猟の様子,祭り,誕生と死にまつわる文化など,アイヌの世界を生き生きと描く物語.(解説=中川裕)※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
15世紀頃のアイヌの少女の物語の後半です。
ハルコロの成長・恋愛譚が中心ではありますが、後半はスピンオフしたエピソードの分量が割と多めでした。
見どころはコタンコロカムイを送るイヨマンテの荘厳な描写でしょうか。特にコタンの集会場で村人が一同に会し、幾夜もの間、名人の語る壮大なユーカラに静かに耳を傾ける場面は圧巻であり、この時代のアイヌの人びとが持っていた純粋さや、彼らが「カムイ」と呼ぶ人ならざる人を超えた存在への畏怖の念を、さて、21世紀の我々はどこかに置き去りがちではなかろうか? と思わせられるものがありました。
個人的には産婆さんの生い立ちエピソードも、決して現代視点でオカルトと片づけてはいけない崇高さが感じられてお気に入りです。
最終章で数十年の時が流れ、ハルコロの物語は子々孫々、連綿と続いていく長いアイヌの歴史の中のほんの一瞬の小さな出来事であったことを思い知らされます。1巻巻末の原作者の解説によれば、原作が続編を企図してこのようなラストとされたようです。このラストは余韻を残す一方で、Wikipediaでしかこの後の歴史を知らない読者としては消化不良に陥っていますが、今から続編は……さすがに無理ですかねえ。