あらすじ
冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われる。だが実際はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けて、ある特殊作戦に抜擢された。その作戦の目的とは、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。そう、文学の力で人々の意識を、そして世界を変えるのだ。一冊の小説を武器とし、危険な極秘任務に挑む女性たちを描く傑作長編!/解説=大矢博子
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Posted by ブクログ
CIAが対ソ連に対し、プロバガンダとして「ドクトル・ジバゴ」を世に送り出す。その一連の動きと、「ドクトル・ジバゴ」の作者ボリス・パステルナークを取り巻く愛人と家族の話とでも言おうか。
実際、スパイというのは静かな行動をするもの。「ドクトル・ジバゴ」の原本や翻訳本が、誰かに燃やされるわけでも強奪されるわけでもなく、静かに粛々と計画されて出版にこぎつける。
タイピストたちは傍観者、もしくは見届け人か。決して表には出ないが、沈黙を守れる高度な教育を受けた女性たち。
もっと彼女たちの活躍が見られると思ったが、ちょっと肩透かしだった。
彼女たちはこれらの作戦をどこまで知っていたのだろうか。または「知らないでいる」ということを選んだようにも思えた。彼らの周囲で起こった恋愛事も口を出すことはせず、推測は推測のままで、でも決して敵ではなかったこと。その立場を貫くことが、当時の処世術だったのかも。
「ドクトル・ジバゴ」は読んだことはなく、このメロドラマがそんな役割を果たしていたとは驚き。冷戦時代の水面下で、宇宙開発に1歩も2歩も遅れたアメリカが、言葉の力と思想を武器にしたことは面白かった。
ただこれに参加している男たちは、そんな高尚な思いがあるようには見えないけど。。。たぶん、そういうことを考えた一握り(もしくは一人かも)の人物がこの小説には出てこなかったのだろう。
ソ連側のボリス・パステルナークの話も興味深かった。彼がもっと若かったら違った結末があったかもしれないが、信念を揺さぶられ、民衆に振り回され、臆病になってしまったことは、結果的に幸いだったかもしれない。
それにしても愛人オリガはたくましい。強制収容所での生活はあまりにも悲惨だったのに、それを乗り越え、最後までボリス・パステルナークを裏切らないし諦めない。
実際の話でも、彼についての本も出しているようだし、ちょっとそちらの方に興味がわいてしまった。