【感想・ネタバレ】ローズ・コードのレビュー

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Posted by ブクログ

 この作品にはどこにもブレーキが付いていない。読み出したら止まることができない。約750ページに渡る長大な本なのに、どこにも。それだけでも凄いのだけど、この作家の歴史に材を取った取材能力も努力も凄い。あらゆる歴史的事実の上に重ねてゆく個の物語は、途轍もないエネルギーを持つ。それを抱えた主人公たちは、実在の人であれ、架空の人であれ存在感が半端じゃない。そこがケイト・クインという作家の最大の強みなんだ、と三作目でも改めて再認識。

 そもそも複数主人公を並行させ、それぞれの物語を疾走感たっぷりに交錯させたスケールの大きい物語を作るのが上手い作家なのだが、本作では、大戦中の英国を舞台に、個性豊かな三人の女性、オスラ、マブ、ベスの物語を交錯させつつ、それぞれのラブストーリーと運命とを描き分けてゆく。

 壮大なスケールの作品である。第二次大戦において英・独の戦略を分けた、知られざる暗号解読戦争。そこに携わった人々の運命。綴られるのはそうした確たる事実の上に載せられた物語と個の人間たちの魅力。

 実際にあった暗号解読の秘密施設は<ブレッチリー・パーク>ことBP。この場所は、戦中はトップ・シークレット下に置かれた極秘の施設であり、暗号解読戦争の勝利を英国にもたらした基地なのだが、用済みとなった戦後は、多くの職員ともども用済みとされ、放置され、廃墟化したようである。現在は、マル秘事項が多分に解除され、丁寧な復元の上公開されている大変美しい場所となっているので、是非訪れて欲しいと作者があとがきで保証している。

 物語はもちろん史実を題材にして個々のストーリー時は作者の創り出したフィクションである。しかし現実の記録や歴史に基づいたところが多く、実名で語られている関係者も多い。驚くのは現エリザベス女王が幼少の頃から登場すること。夫であるフィリップ殿下の、婚姻前に実際に交際していたのがヒロインの一人オスラであること。フィリップ殿下の若かりし頃がとても活き活きと描写されてとても庶民的で親しみやすい存在に描かれていること、なお戦地となった大西洋で従軍していること。オスラは実在の人物を作者が慮って、苗字こそ架空とされたが、実在の人物をモデルにしていること。

 ケイト・クインという稀有な作家の、史実に材を取った小説の面目躍如たる豊穣な想像力が多分に活かされた作品なのである。

 またトリッキーでミステリアスな作品構造も魅力である。1939年12月にメイン・ストーリーは始まるのだが、1947年11月「ロイヤルウェディングまで11日」というような謎めいた章が挿入される。そこでは短いページ数の間で、三人の女性のそれぞれの運命が暗示されているかに見える。中でも暗号解読の中核にいるベスは<時計の中>という別立ての章を用意され、彼女だけは奇怪な場所で拘束され、ロボトミー手術まで暗示されている、という異様で危機的な状況にあることが、初期時点で描かれてる。いつもながらの意味深な凝った構成である。1939年のメインストーリーが1947年の現在に追い着くまでの壮大な物語を読者は辿ってゆくことになるだろう。

 暗号解読という困難な仕事を引き受ける特殊だが実在したという機関ブレッチリー・パークは、それにしても魅力だ。読んでいるうちに愛着さえ覚える。ここに集まる職員たちの強い個性とそれぞれの能力。それ以上に、きつい労働条件と秘密保持の制約の中で結束する仲間、師弟の絆の強さ。ラスト近くでこのことが確認される。涙腺を刺激される感動的なシーン。

 職場では、章が変わる毎に登場する<ブレッチリー空談>という数行のユーモラスで謎めいたコラム。<いかれ帽子屋お茶の会>という名の仲良し職員たちによる青空読書会では世界の古典が取り上げられ、一部人気や書評が聴かれるので、この辺りも読書子にとっては電気的刺激もの。何と多面的に楽しむことのできる物語だろうか。

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2022年11月29日

Posted by ブクログ

「戦場のアリス」の著者が描く、第二次世界大戦下のイギリスの暗号学校を舞台にした750ページ近い大作。平易で簡潔な文体と圧倒的にリアルな描写に最後までハラハラしながらも、あっという間に読み終えた。700ページ過ぎる辺りからは登場人物たちに会えなくなる寂しささえ感じた。ロマンスに裏切りに愛国心、友情とミステリ、どれをとってもどこを切り取っても素晴らしい作品だった。

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2022年09月12日

Posted by ブクログ

第二次大戦下のイギリス。暗号解読機関に在籍する3人の女性の物語。以前の作品でも人物描写が素晴らしかったが、本作でも主役の3人だけでなく登場する人物がみな特徴をもって描かれて素晴らしい。かなりの長編だが息をつかずに読み切った。

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2023年04月13日

Posted by ブクログ

第二次大戦中、イギリスにおいてナチス・ドイツの暗号解読の研究を行っていたブレッチリーパーク。
ここを舞台に、その才能や、戦争の早期終結のために国に奉仕するという意思を買われて暗号解読に加わった三人の女性、オスラ・ケンドル、マブ・チャート、ベス・フィンチの活躍を描く小説。

物語の進行は、二つの異なる時点が、交互に語られる。
一つは大戦初期、三人が出会い、ブレッチリー・パークで働き始め、戦況と暗号解読の進行が語られる。
もう一つは、戦後数年が経っていて、オスラとマブの三人は別の人生を歩んでおり、ベス・フィンチはどうやら心を病んで、病院で拘束されているが、そのベスが送ったメッセージがオスラに届くところから始まる。

最近の小説は異なる複数の時代が交互に語られて、それぞれに話が進みながら、やがて一つにつながるという形式が多い気がするが、これもその形式。

特に大戦初期から始まる流れの方は、それぞれの登場人物の人となりが描かれるので、情報量も多いし、さまざまなエピソードが語られる。とても「濃い」小説で、確かに面白いのだが、ちょっと情報が多くて読み疲れる気もする。

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2024年04月24日

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