【感想・ネタバレ】目に見えない戦争 デジタル化に脅かされる世界の安全と安定のレビュー

あらすじ

本書は、ビッグデータの専門家としてさまざまなメディアで活躍する著者の話題作です。
現代の戦争は、実際の兵器を用いた侵攻も含め、すべて「目に見えない戦争(インヴィジブル・ウォー)」である――これが本書で明らかにされる事実です。その実態が多くの具体的な事例や事件を題材にして語られます。
まずは、デジタル空間における国家の諜報・妨害活動。活動家、テロリスト、ハッカーなど、表面的には国家の委託を受けていない個人によるサイバー攻撃は、国際法上の「戦争」の資格を満たしていません。しかし、今や他国に対する攻撃の要は、相手国の国民の自国政府に対する信頼を切り崩すことにあります。その典型例が2016年のアメリカ大統領選におけるロシアの介入であり、2022年のウクライナ侵攻でも同じ手法が用いられているはずです。こうした情報空間の分断とデマゴギーがもたらす効果は何でしょうか。
続いて取り上げられるのは、自律型致死兵器システム。人の手を交えずに人命を奪う危険な新兵器です。ドローン兵器やキラーロボットなど、現在の戦場における主力兵器のそばに人間の姿はありません。しかし、その使用に規制をかける動きは鈍く、これらの兵器に対抗できる手段を開発するしかないのが実情です。その手段が攻撃してくる相手に対する「逆ハッキング(ハックバック)」ですが、その開発は国家ではなく民間企業によって行われています。
「目に見えない戦争」が一方の西側諸国、他方の中国とロシアという対立の中で進行していることに異論はないでしょう。両陣営は異なる戦略をとり、西側諸国は経済的競争力を高めることを、中国とロシアは経済的な価値のある資源を政治的・軍事的に管理することを目指しています。二つの体制の対立に直面する今、ヨーロッパは、そしてアジア諸国はどうすればよいのか? この喫緊の問いに答えるための材料を本書は惜しみなく与えてくれるでしょう。

【本書の内容】
[1]兵器としてのコード
[2]情報戦
[3]人工知能軍拡競争
[4]ハックバック
[5]主導権をめぐる戦い
[6]「条件つき防衛態勢」

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Posted by ブクログ

【私たちはグレーゾーンにいるのだ】(文中より引用)

デジタル領域が次第に地政学的影響を受けているという現状を検討した一冊。安全保障面から見たデジタル分野の法的な議論や欧州における事態の進展を踏まえつつ、求められる対策について詳述されています。著者は、ビッグデータの専門家でもあるイヴォンヌ・ホフステッター。訳者は、ドイツにおいての勤務経験もある渡辺玲。

欧州がこの分野で自身のことを「遅れている」と認識しているところに驚きを覚えました☆5つ

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2022年12月01日

Posted by ブクログ

 21世紀の戦争は、すべて「目に見えない戦争」である。そう捉える著者は、多くの事例を紹介して実態を明らかにしていく。
 まずはデジタル空間における国家の諜報・妨害活動について、2016年のアメリカ大統領選におけるロシアの介入例などが紹介される。続いてドローン兵器やキラーロボットなど自律型致死兵器システムの現について。これらの使用に規制をかける動きは遅々として進まず、対抗手段として、攻撃者に対する「ハックバック」は許されるのかとの問題について、国際法におけるデジタル時代の“防衛“の位置付けが論じられる。

 「目に見えない戦争」は「利益の論理」に立つ西側諸国と、経済的に価値のある資源を政治的、軍事的に管理することを目指す「レントの論理」に立脚するロシア、中国との対立の中で進行している。

 2つの体制の対立に直面する今、著者はいくつかの対応策を考察する。直接にはヨーロッパはどうすべきかを論じているが、日本の今後を考える上でも参考になると思われる。

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2022年08月04日

Posted by ブクログ

AIやデジタルについての国防に関する様々な出来事を書いている。学部生や院生の研究にはあまり役立つとは思えないが話題としてはいいのかもしれない。

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2023年03月28日

Posted by ブクログ

デジタルテクノロジーを中心とした安全保障政策に携わる人におすすめ。

【概要】
●IoEによる戦争の変化
●自律型致死兵器システム
●国際法におけるデジタル時代の防衛
●主にレントの論理によるデジタル戦略

【感想】
●デジタル技術の進展によって戦争の範囲が不明確になっている現状は理解する。これに鑑み国際法の整備が追いつかないがこれは仕方がない。そのような安全保障環境の中で国家は自国の主権を侵されることなく存続していく必要がある。
●そのために国は政策のどこに力を注がなければいけないのだろうか。自分たちがやらなければならないことについて何を優先させるべきなのか。そういったことを改めて考えさせてくれる内容であった。

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2022年08月20日

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