あらすじ
戦争に疑問を感じるすべての人へ
2500年変わらない、人が戦争に導かれる原理とは?
ウクライナ危機・米中対立にも共通する、人間の本質を映した
人類最古の戦争史『戦史』が分かりやすい新訳で登場!
人類最古の戦争記録である『戦史』は、栄華を誇った古代ギリシア世界を衰退へと導いた大戦争・ペロポネソス戦争を克明に記録した歴史書です。
人は何を懸けて戦争に向かうのか?
国のリーダーはどのように戦争の必要性を説くか?
敗色濃厚な作戦でも、国民はなぜ戦争を支持するのか?
強国に侵攻されたとき、抵抗するべきか? 降伏するべきか?
そこに書かれているのは、2500年経った現代でも何一つ変わらない、人間の本質を映す言葉と行動の数々。
その普遍性から、『戦史』は世界中の政治学者や地政学者が学び、未来予測にも用いてきました。
著者のトゥキュディデスは、戦争の法則を表す地政学上の概念「トゥキュディデスの罠」の名前の由来にもなっています。
※トゥキュディデスの罠:新興国が勢力を伸ばすと、それまで勢力を誇っていた覇権国との間に摩擦が生じ、衝突が起こるという地政学上の概念。世界史上の戦争勃発のなかで多数を占めるパターンとされ、『戦史』のなかでのアテネとスパルタの構図を、米中対立に当てはめて考えることができる。
本書はその『戦史』から、特に象徴的とされる6つの演説部分だけを抜粋し、分かりやすい言葉で新たに翻訳しなおした1冊。
巻末には、『戦史』から何を読み解き、未来の平和に生かすべきか、茂木誠氏の特別解説も収録!
ウクライナ危機、米中対立、そして訪れるかもしれない第三次世界大戦――
戦争が他人ごとではない今だからこそ読んでおきたい、
「人と戦争の本質」を知るための色あせない名著です。
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目次
序章 ペロポネソス戦争と『戦史』
第1章 戦争の正当化 (ペリクレス最初の戦争演説)
第2章 国のために死ぬこと (ペリクレスの葬送演説)
第3章 戦争の責任 (ペリクレス最後の演説)
第4章 正義と実利 (ミュティレネ討論)
第5章 強者と弱者 (メロス島の対話)
第6章 リスクと楽観 (シケリア討論)
特別解説 茂木誠 時代を超えた教訓に満ちた『戦史』
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Posted by ブクログ
ギリシアって、哲学者の名前とかを覚えさせられるけど、なぜギリシア世界が衰退していったのかについてはあまり印象に残っていない。
本書はギリシア世界が衰退していく原因となったペロポネソス戦争中の演説を、トゥキディデスの「戦史」から集めて、まとめた本である。
「序章」ではペロポネソス戦争の史実について簡単にまとめてくれている。
ペロポネソス戦争は、ギリシアがペルシアを撃退した後の、アテネとスパルタの覇権争いで、ギリシア世界がアテネ派(デロス同盟)とスパルタ派(ペロポネソス同盟)に分かれた血みどろの内戦だ。
民主主義国のアテネと軍国主義的なスパルタの争いであったため、「戦史」の演説は今でもアメリカなどの民主主義国の演説でも引用されるとのことだ。
しかし、忘れてはいけないのは、民主主義国アテネは敗れたのだ。
「トゥキディデスはスパルタの節度あるふるまい、伝統を固守する姿勢、静かなる平和に満足する姿を強調することで、革新的だが請求で落ち着きのないアテネの姿を浮き彫りにしている」(p43)。
そもそもの開戦において、アテネには大義がなかったことを忘れてはいけない。
武力がなければ正義は守れないが、正義がなければ勝利を得ることができない肝に銘じなければならない。
当然、戦争継続中にも敗戦の原因はあった。
「トゥキディデスはまた、ペロポネソス戦争の敗因は、ペリクレスの後継者たちの失策にあり、彼らが公共の利益のためではなく、票集めに奔走したのが原因だったとしている。」(p40)
民主主義のもっとも愚かな側面である。
群衆とは概して賢明ではないのだ。
第1章、第2章ではペリクレスの演説が掲載されている。
戦争に向おうとする指導者は、群衆の正義感や故郷愛など心の敏感な部分をくすぐる術を熟知している。
しかし、大日本帝国のように負けると分かっている戦争を始めてはならないのだ。
戦争を起こすからには必ず勝たねばならない。戦争に負ければ国民は全てを失うのである。
戦争に勝つためには冷徹な判断力が必要である。
開戦すべきか否か、開戦して勝てるのか否か。
どのように心揺さぶられようとも、冷静な判断力を失ってはいけない。
第5章では大国アテネと小国メロス島の交渉の様子が描かれている。
アテネの大使は言う「正義という概念が物事を決定する要因となり得るのは、お互いが対等な条件にある場合に限られる。」(p166)
こうして、アテネが傍若無人に一片の正義もなくメロス島に降伏か滅亡の二者択一を迫る。
「大国は都合の良いときだけ国際法を守る。」(p229)
ドイツの鉄血宰相、ビスマルクの言葉である。
この言葉は今も昔も真実である。
我々はメロス島になってはならない。メロス島のような状況にならないよう、日々外交に励み、軍事力を強化する必要がある。
大国は自身に都合の良いときしか国際法を守らないのだ。小国を正義という抽象的な概念のために助けてくれるお人よしなど国際社会にはいないのだ(結局スパルタもメロス島を助けてはくれなかった。)
人間の愚かさは今も昔も変わらない。
せめて「戦史」を他山の石として、我々日本人がメロス島やアテネのように滅亡しないよう、知恵を磨くことが急がれる。
Posted by ブクログ
古代ギリシアの歴史家であり、トゥキディデスの罠でも有名な著者。ペロポネソス戦争を纏めた『戦史』は簡単に読めるものでもないので、そのエッセンスに触れ解説する本書は貴重である。
ペロポネソス戦争はアテネとスパルタによるものだが、紀元前431年にこの戦争が勃発した原因として、最も真実に近いのは「アテネがあまりに強大になり、スパルタがそれを恐れたから」だと述べている。この新興国と覇権国の対立が最終的に戦争に突入する構造を〝罠“と言ったのだ。
ミュティレネ討論についても紹介される。ミュティレネは、名目上はアテナイ帝国の同盟国だったが、ペロポネソス戦争中にアテネから離反しようとし、鎮圧される。その処分を巡り全員処刑を主張するクレオンは、「恐怖によって秩序は保たれる」「情に流されれば国家は滅びる」と述べたが、結果は穏健派で、理性的な議論を展開したディオドトスが支持を得た。全員処刑は政治的にも非効率で逆効果なばかりか「他の同盟都市をより強く反アテネに向かわせる」と考えられた。
他にも、こんな話。中立を目指すメロスだったがアテネに対して「スパルタ側にも加担しないから中立を保つので、独立を認めてくれないか。 正義はないのか」と懇願。アテネの反応は、「正義とは、対等な相手に求めるものである」と交渉は決裂。
では、人はなぜ戦争を選ぶのか。
それは、人が理性よりも恐怖に、正義よりも力に、対話よりも支配に傾くからだと読める。そして、トゥキディデスはそれをただ記録し、後世に「これが人間の姿だ」と突きつけているようだ。