あらすじ
世界中見渡しても、こんなに優雅な文明を維持しながら、戦争や殺戮より平和な経済競争が優位を占める近代市民社会が成立するまで生き延びた国民は、ほかにはいない。ところが、これだけ幸福な星のもとに生まれた日本人が、自分たちはどんなに幸せな歴史を生きてきたのかということをほとんど知らない。皮肉なことに、おそらく世界中の知識人の中で日本の知識人がいちばん、ヨーロッパ文明こそ善(よ)き文明であり、義(ただ)しき文明であるというデマ宣伝を信じこまされ、ヨーロッパの文物に対する抜きがたい劣等感にさいなまれている。おそらく、一度もヨーロッパ諸国の植民地にされたことがなく、ヨーロッパ文明の中からいいものだけを自分たちの意志で選択的に取り入れてきたからこそのヨーロッパ崇拝なのだろう。だが、もうそろそろ真相に気がつくべき時期だ(本書「はじめに」からの引用)。呪われたヨーロッパの歴史をひもとき、「幸せな日本史」を描く。
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Posted by ブクログ
日本史に何があったか?ではなく何がなかったか?という視点で語る比較文明論。
着眼点そのものが面白いのはもちろんですが、本書はそれに留まらず、ステレオタイプな日本史観の読み替えを行うことを目的とした非常に壮大な試みであると言えます。
多くの日本人は「日本は明治維新をきっかけに近代的な国家になった」という史観、あるいは(日教組の大好きな)「戦後平和憲法を掲げたことで日本は平和に経済発展することができた」という史観を疑うことなく信じていると思います。ところが、本書で語られるのは江戸時代からすでに欧米以上に近代的な国家を築いていた日本であり、縄文時代からすでに争いとは無縁だった日本です。
欧米至上主義の歴史観を離れて眺めることで、日本の素晴らしい文明が見えてきます。
本書の核心となる着想は防壁に囲まれた城塞都市を築き争いの絶えなかったヨーロッパと壁のない街に暮らし紛争とは無縁だった日本の違いです。同じ着眼点の大石久和『国土学再考』を読んで感銘を受けた方なら共感できると思います。大石氏は悲観的でしたが、増田氏は超楽観的なのが両者の大きな差でしょうか。