あらすじ
かつて「天才高校生作家」の触れ込みで華々しくデビューした榛名忍は今、燻っていた。そんな折、東京五輪の開催が決まり、担当編集者からスポーツ小説を勧められる。なりゆきで競歩の小説を書くことになり、大学の陸上部の練習を見に行くと、ただ一人の競歩選手・八千代篤彦が黙々と歩き続けていた――。競歩の面白さを余すところなく描いた、青春小説の傑作!
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Posted by ブクログ
天才高校生作家のスランプ。夢見ていた舞台に立てず足掻く競歩選手。
好きなものが怖くなる、楽しめなくなる気持ちはなんとなくわかる気がして、ちょっと苦しくなる。
誰よりも速くゴールへ向かわなければならないのに走ってはいけない。たしかに矛盾した競技だ。ルールに縛られ、その中でもがいてゴールを目指す。
“天才高校生作家”というラベルを貼られ、書くことが苦しくなって、自分の立ち位置も分かっているのになかなか前に進めない忍と、
箱根駅伝を諦めざるを得なくなり競歩に転向して、でも心の奥では納得できなくて、苦しみながらも歩き続ける八千代と、
何かに縛られながらも、時間をかけてもがきながらも、一歩一歩進んでいく2人の物語が、競歩という競技とリンクしているように思えた。
忍を見守ってくれている、百地さんの存在も良かった。寄り添い方が優しく、さりげなく導いてくれる。
蔵前さんの「意外と苦しいと楽しいって両立するものなんですよ」という言葉も良かった。
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「競歩」
決して走ってはいけない人間らしい"歩く"という行為を人間らしいルールで凝り固めた競技
長くつらい道のりをゴールを目指して1人で歩く
その中で本当に辛い瞬間があって、応援してくれる人がいて、少しの乱れが自分を苦しめて、やりきってもやりきれない時もあって、それでもゴールテープを切る爽快感は何事にも変え難い
本当にまるで人生みたいな競技だ
そんな競技に結果がふるわずとも真剣に打ち込む八千代と挫折を知った主人公の出会い
お互いの中に負け続ける自分を見てお互いのできることをぶつけ合うことで進んでいく
劇的なことは起きない
この小説はまさに主人公の書いている上手に夢を見れない人への小説だと思った
わたしもわたしを諦めたくない
なんだか無性に歩きたくなった
Posted by ブクログ
2024/03/17
競歩という競技を題材にした小説なんですが、ただの競歩小説じゃなかったのがこの小説の面白いところだと思います。
高校生天才作家と持て囃されて、ライバル作家の存在によって創作活動に行き詰まっていた大学生作家の榛名忍、また、彼と同じ大学に所属している八千代篤彦は箱根駅伝を諦めて孤独に競歩という競技に挑む選手。彼らを引き合わせる新聞部の福本愛梨と彼らの周りの人達がだんだん競歩という競技にそれぞれの形で絡んでいく話(?)
競歩に対して知識のない人でもとても読みやすくなってるし、読者目線の競歩初心者にも自然と解説が組み込まれていて競歩について知りながらその競技の醍醐味を味わうことができる構成になっていると思います。
最初は榛名も八千代も仲が悪いのですが、競歩という競技が段々と彼らを引き合わせていく過程で、それぞれのライバル事情だったり、諦めようとする挫ける気持ちだったりと言った葛藤が二重、三重にもなって描写されているので読んでて先が気になると同時に、あー自分もこれに似たような経験あるなと心のどこかで感じることができるような追体験をできる小説じゃないかなと思います。
Posted by ブクログ
感想
タイトルから完全に競歩選手に焦点を当てた作品だと思ったが、売れない作家と伸び悩む競歩選手を重ね合わせて物語が進行していくところは新しかった。
少し恋愛要素のようなものも入ってたような入っていないような。そこはハッキリさせて結末もビシッと書いて欲しかった。
あらすじ
元天才高校生作家である榛名忍は、慶安大に入ってデビュー作以来、ヒットがなくモヤモヤした日々を過ごしていた。
オリンピックを3年後に控え、編集者の提案と自分がふと見た競歩を題材に小説を書くことになった。同じ大学の八千代を対象に取材を始める。
人見知りの八千代と今ひとつ吹っ切れない忍は、時が経つにつれて心を通わせていく。忍が世界選手権に出た選手にインタビューしたことをきっかけに、指導者のいなかった八千代を練習に混ぜてもらえるようにお願いする。
忍は八千代に付き添って応援するようになった。八千代は最後のインカレで結果を出せず、忍から20kmから50kmに転向してはどうかと提案される。一悶着あったものの、八千代は50kmの大会に出て初出場で失格になったが、二位の好成績をおさめて手ごたえを感じる。
忍は苦しみながら、歩王を書き上げる。八千代もスランプだったが、大会前に忍の小説を読んで、気持ちをリセットして大会に望む。八千代は、自分を教えてくれた蔵前とデッドヒートを繰り広げて競り勝ち、初めての世界選手権出場を果たす。
忍が観戦を待っていたのは八千代が目指していた東京オリンピックだった。八千代は50kmの代表選手として出場するのだった。
Posted by ブクログ
こちらもまたフォローしている方のレビューを読んでのチョイス。
天才高校生作家という触れ込みでデビューしながら既に行き詰まった大学生小説家が、担当編集者から勧められるままなりゆきで競歩の小説を書くことになり、同じ大学の陸上部の練習を見に行くと、そこには箱根駅伝を走るという夢破れ転向した競技で東京五輪を目指す、ただ一人の競歩選手が黙々と歩いていた、という出だし。
五輪や世界陸上で競歩の中継があると必ず観ており、ルールも概ね頭に入っているが、他の種目からの『転向ありきのスポーツ』だとか「人に見られること」が重要なスポーツなのに一人で練習するしかない選手が多く、だから、『所属とか関係なく集まって合宿して、みんなで強くならないと駄目』だというようなことは知らなかった。
競歩の選手たちのゴールした後の勝者を祝福したり互いに称え合ったりする姿には他の競技以上に相手に対するリスペクトや親しみが溢れるところがあるように見受けていたが、そこにはそういったことが根底にあるかもしれないな。
小説家の書けない苦しみや痛み、ウォーカーの競技に対する屈託や伸びない記録に対する焦燥感などがシンクロして描かれ、それぞれがもがいた上に紡ぎ出す一文と踏み出す一歩の臨場感がなかなかに良い。
競歩の面白さも存分に描かれ、終盤の輪島の50kmレースの展開はベタではあるがウルッとさせられた。
この本を読んでいた時、今年も日本選手権の35kmは4月に輪島で行われることになっていて、無事開催されるのだろうかと思っていたが、1月30日に中止が発表された。止むを得ないのでしょうね。
被災地の方々が1日でも早く平穏な生活に戻られることをお祈りしています。
Posted by ブクログ
元天才高校生作家で現在絶賛スランプ中の忍と、箱根駅伝を諦めて競歩に転向した八千代。
全く別の道ながら、同じような苦悩を抱える2人の出会い。
落ち込んでいるときや、絶望しているときって、どうしても自分が世の中で一番のどん底にいると思えて、他人が輝いて見えてしまう。
小説家のことは全く分からないわたしだけど、売れてる作家も売れない作家も、賞を取ったら取ったなりの、それぞれに多様な地獄があると読んで、それは世の中全ての人に当てはまると思った。
最も人間らしい”歩く”という行為が、ルールでガチガチに縛られた競技。確かに(笑)
Posted by ブクログ
天才高校生作家とかつて呼ばれた榛名
箱根駅伝を諦めて競歩の道に進んだ八千代
今に苦悩する2人が「歩む」先は栄光か挫折の続きなのか
単にスポーツ小説とは言えない感じが、この物語の深さでした
だって、主人公は小説家だから
今は書けない小説家だから
立場は違えど、壁にぶち当たっている2人だからこそ語れる言葉が心地良い
強引に涙を誘う展開ではなく、恋愛要素も多少のスパイス程度にしてるのも、2人の感情に光を当て続けられた要因かと思う
それが私には丁度良かったです
とても爽やかな、そして前向きになれた素晴らしい作品でした
Posted by ブクログ
今作も文句なく面白かった。額賀さんのスポーツものって、単にその競技の話だけじゃないところが本当に素晴らしいと毎回思う。今回も鳴り物入りでデビューした若き学生作家と、やむなく駅伝から競歩に転向したあるアスリートの2人の人生が絡み合う形で、非常に面白かったです。知られざる競歩の世界も興味深い!ただ一つ、主人公に絡んでくる新聞部女子のキャラが微妙だったな…主人公との関係の結末も含めて。そこ以外は大満足!でした。
Posted by ブクログ
天才高校生作家としてデビューした小説家の忍が出会った競歩選手の八千代篤彦。小説家としてデビューしてから徐々に部数を減らし行き詰まっていた忍とオリンピックを目指しながらもタイムが出ない篤彦。お互いのなかに自分を見、共感するようになって協力していく二人。小説家を競歩を続けていく難しさや苦しさを認め合いながら、競歩を題材に小説を描く覚悟を決めた忍とその思いを知った篤彦の二人の気持ちが臨場感たっぷりに描かれている。競歩のルールや難しさ、面白さが忍と篤彦のやりとりから存分に伝わってくる。夢見たものとは違うところで始まったものがいつしかそれが夢そのものになっていて周りの人を巻き込んで大きな力になっていく過程にグッとくる。競歩選手の小林快さんの解説も素晴らしくて解説も含めてひとつの作品になっていると思う。