【感想・ネタバレ】徳川家光(1) 三代の風の巻のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

人間の生長には転機がある。この本の主人公 家光の転機と言えば、家康の17回忌を済ますまでは、名君の名に値するほどの際立った人物ではなかった。というよりも、むしろ暴君に近く、慌てるとどもりの癖が出るなど、悪い方の存在であったろう。祖父を慕い、祖父の実力を認めてはいたものの、その功績の偉大さを十分に後世に活かすほどの卓抜した才能はまだなかった。

将軍の器量がどうであろうと、天下は天下のために治まる。その道理がちゃんと機構になっていなければならない。将軍家に適材がいなければ、適材を他に求めよと、求める範囲を決めて他界した家康は、尾張と紀州はその適材の範囲となった。

寛永11年は家光の治世というよりも、徳川幕府そのものの存在を確立した年となった。朝廷と幕府の間も筋の通った関係となり、大任を委任された幕府と諸大名の関係も、この家光の上洛によって軌道に乗ることになる。それは家光個人の器量が抜群であったからだけではなく、家光の許に集まった譜代大名などは家光を中心に次第に組織力を固めだしたのだ。奔放不羈な家光の上には酒井雅樂守忠世があり、土井大炊頭利勝があり、さらにその両者の下には松平伊豆守信綱、酒井讃岐守忠勝、堀田加賀守正盛、阿部豊後守忠秋、阿部対馬守重次、永井信濃守尚政、松平和泉守乗寿、三浦志摩守正次らの他に、板倉周防守重宗、林羅山、天海、沢庵という学者、宗教家までが揃ったので、少々の智恵者には手も足も出なくなった。その上、武道家には柳生但馬守宗矩があり、軍学者では法上安房守氏長と手が揃って、将軍家光の側近はいよいよ固まるばかりであった。むろんそれらの譜代大名だけではなく、外様の中にも、奥州には伊達政宗、上杉定勝、佐竹義隆らの重鎮があり、伊勢には藤堂が控えていた。その家光が、30万7千の総勢を従えて上洛したので、世間は粛然とするほかなかった。

ただ、家光のすごさは、その発想力豊かなことだろう。徳川家の財物などはみな民からの預かり物として、時々それをきれいに払わぬと、罪がたまって不幸になると言い、京の住民をはじめ、奈良や大阪、江戸にまで散財したのである。家光の良心は潔癖などと言うものではなかった。筋を通す。ということがすなわち家光の生きがいだと割り切っている。それ以上に、筋を外れて生きても意味がないものと決めてかかっている。また、日光の建て替えが100万両かかると言われるが、それも、大抵なら何か取り立てるようなことをするものだが、全くをもって自費で建ててのけた。使用人にも金を払い、食事も支給し、適当なことはしなかった。適当と言えば、適当に威張り散らし、適当に温かく、適当に法螺で、適当に涙もろい、そして一番身近に感じられるのは、無計算といってよいほど善意で親切な思いやりを持っているということだた。これは、豊太閤が幾分、計算高くやっていたのとは違い、根っからの親切だったと言われている。

家光の本質は、決して大胆不敵でもなければ、いわゆる放胆というのでもなかった。むしろ神経質な細心さを、勝気で包もうとする型であった。あるいは、人情などは人一倍厚いのだと言った方がよいかもしれない。
全4巻

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2016年01月13日

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