【感想・ネタバレ】うつくしが丘の不幸の家のレビュー

あらすじ

海を見下ろす住宅地『うつくしが丘』に建つ、築 21 年の三階建て一軒家を購入した美保理と譲。一階を念願の美容室に改装したその家で、夫婦の新しい日々が始まるはずだった。だが開店二日前、偶然通りがかった住民から「ここが『不幸の家』って呼ばれているのを知っていて買われたの?」と言われてしまい……。わたしが不幸かどうかを決めるのは、家でも他人でもない。わたしたち、この家で暮らして本当によかった──。「不幸の家」で自らのしあわせについて考えることになった五つの家族の物語。本屋大賞受賞作家による、心温まる傑作小説。/【目次】第一章 おわりの家――美容室開業に選んだ家を「不幸の家」と言われた女性。/第二章 ままごとの家――不仲の夫、家でした娘、反抗的な息子、迷える妻。/第三章 さなぎの家――男に騙された女性と、幼い娘を抱えたシングルマザー。/第四章 夢喰いの家――不妊治療がうまくいかず、離婚届を書いた年の差夫婦。/第五章 しあわせの家――恋人が置いていった子供と、かつて父に捨てられた私。/エピローグ/解説=瀧井朝世

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

すごい好きだった!
現在の居住者から、その前、さらにその前と時間を遡るように前の居住者の話になっていて、小さなつながりが見えて面白い。
確かにみんな様々な理由を持って出て行ったけど、清々しく、この家との思い出を胸に出ていった姿が印象的。
特に2章と5章が好きだった。
枇杷が物語のアクセントになっているのも良い。
惣一の友人のユズが、譲だと分かった時は、ハッとして私も嬉しくなった。

人と人との繋がりは、一本の糸ではない。いろんな縁が交差して絡み合って、独自の模様を作りながら太くなっていく。という信子の言葉も印象的だった。

0
2026年09月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

よい読後感でした。
荒木さんもきっと幸せになったんだろうなと思えました。
割とクソ男が多いし、焼きそば頭女も変わらず住み続けているのでしょうが、それでもこの家に住んだ人たちは各々の「しあわせの家」を持てたんだろう、と思えるくらい、綺麗にまとまっており納得感もありました。
エンディングも気分が良い終わり方です。

0
2026年05月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

解説
・町田そのこさん。WEB本の雑誌の連載「作者の読書道」でのインタービュー : 「私、読み終えた後に「明日も頑張ろう」って思ってもらえるものを書く、というのが原点なんですよ。私が氷室冴子さんの本でいただいたものを、自分の本で誰かにお返ししたい、とまで言うのはおこがましいかもしれないですけど、私の本を読んだ後に「明日も、ちょっとだけでも頑張ろう」って思ってもらえたら。
・町田作品には本屋大賞受賞作「52ヘルツのクジラたち』や「星を掬う』のような必涙作品もあれば、『コンビニ兄弟』のようなコミカルで笑わせる小説もあるが、どの作品にも共通点がある。ひとつは、時に今この社会のどこかで誰かが実際に体験しているような厳しい現実が盛り込まれること、もうひとつは、そんな現実と向き合う姿を描いて、最後には必ず読者の背中を押してくれること。本作もまた、間違いなくそんな一作なのである。


〜読んでて元気をもらった、心が温かくなったところ〜

第一章 終わりの家
・「もしかしてと想像を巡らすのはとても楽しい遊びだけれど、わたしは面白い空想で楽しみたいものだわ。種を明かせば、とても他愛ないことなのよ。枇杷の薬効を求めて、病人が訪ねてくる。薬を自宅の庭にも欲しいと思って種を植えても、枇杷の成長は早くて十三年。その間に死ぬ人も出てくるでしょう?そういうことよ」「たった、それだけですか」
美保理は思わず、呆れた、と声に出した。言い方ひとつの問題ではないか。
「たったそれだけ。そういうことって意外と多いのよねぇ。一生乗り越えられないだろうと思ってた問題だって、あるとき急にぱっと拓けたように解決することだってある。それって見る角度とか自分の心持ちとか、こんなことで?って笑えちゃうような比細な理由だったりするの。この年になっても、いちいち驚いちゃうのよねえ」
・「やっぱり。椋本さんって、舌の教育を受けていない方なのよね。分かりやすくて濃い味を大量に食べることが何より素晴らしいと思ってる。たくさんの手間と食材を使った料理を味わって、その料理にどんなドラマがあったのか、どんな技巧が凝らされたのか、そんな風に料理を楽しむことを、可哀相なことに教わってないのよ」
本当に、残念な方なの、と信子は心底隣れむように言った。舌に載せるものを吟味する、ってことができないのよねえ。
ーーー
「誰にどんな事情があるのか、どんな理由でそうしたのか、そんなことは簡単に分かるものじゃないのよ。自分がまずたくさん経験すること、そして何度となく想像を巡らすことでようやく、真実の近くまで辿り着くことができるの。それを怠ってる人に、そういう適当なことを吹聴されたくないわ!」
だからあの人って嫌い!子どものように言い放って、信子は唇を尖らせた。
「じゃあ、『不幸の家』って、嘘ですか?」
倉子のあまりの変わりように失念しかけていたけれど、大事なことだ。美保理がおずおずと訊くと、倉子は少し考えた後に「少なくとも、わたしはそんな不愉快な呼び名は知らないわ」と苦々しげに言った。
「枇杷と一緒よ。強い言葉ばかり独り歩きしたのね」
ーーー
「それにねえ、あなたはしあわせがどうこう言うけれど、しあわせなんて人から貰ったり人から汚されたりするものじゃないわよ。自分で作りあげたものを壊すのも汚すのも、いつだって自分にしかできないの。他人に左右されて駄目にしちゃうなんて、もったいないわよ」
「いつだって自分・・・・」


第四章 夢喰いの家
・「いいきっかけにはなったと思う。幸太郎と、新しい模様の紐を編んでいけるもの」「はあ、ヒモ、ですか?」
意味が分からなくて首を傾げると、信子が腰に巻いた飾り紐を摘んでみせる。
「これと同じってこと。ひととひととの繋がりって、一本の糸じゃないのよ。いろんな縁が交差して絡み合って、独自の模様を作りながら太くなっていくの。わたしは今日、幸太郎と新しい思いを繋ぐことができたと思うの」
するりと紐を解いて、信子は忠清に手渡す。色味のうつくしい組紐は、間近で見ればずいぶん使い古されているのがわかった。色が褪せている箇所もあれば、切れている箇所もある。けれど、組み上がった紐は強い。「夫からの贈り物なの」と信子が笑う。
「幸太郎と思うような関係が築けなくて苦しんだ時期があったのよ。わたしは幸太郎の産みの母ではないでしょう。どうやって母子の関係を築いていけばいいんだろう。そもそも、そんなことできるのかしら......。わたしは本当に勝手でね、自分のせいで複雑な関係になったというのに、その扱いに困って夫に泣きついたのよ」
容子に幸太郎を返すべきなのか、それとも自分がいなくなればいいのか。泣く妻に夫は、ー本の組紐を渡した。
「繋がりなんてのは、最初は細く頼りないものなんだ。一本一本糸を手繰り寄せ、それを組み上げながら太く確かなものにしていく。幸太郎との繋がりの糸を探しなさい。全く無い、なんてことはないはずだよ。あのひとはそう言ったのよ」どんな此細なことでもいい。これも、あれも、と糸を見つけては自分の中で紐を編んでいった。編まれていく紐を思い浮かべるだけで気持ちが落ち着いた、と信子は穏やかに言う。
「わたしはいまも、幸太郎との紐を編んでいるの。きっと、一生をかけて編み続けるんだと思う。今日みたいに悩むこともあるけど、でもその分だけ紐が強くなるんだってじてる」忠清は、手の中の紐を見る。
「あなたたちも、そうよ。自分たちなりの糸で、自分たちだけの紐を編み続けていく。それが、一緒に生きていく、ということだと思うのよ」
あるだろうか。蝶子と、自分との間にまだ編める糸はあるだろうか。太い繋がりに変えることは、まだできるだろうか。
顔を上げると、倉子は恥ずかしそうに「偉そうにごめんなさい」と言う。こんなこと言えるほど幸太郎と上手くいっていないのにね。年寄りのおせっかいだと、思ってちょうだいな。
「いえ・・・・・・ありがとうございます」
ふたりでもう一度やり直すことができるだろうか。紐を握りしめて、忠清はじっと考えた。

エピローグ
・「すみません、怪しいですよね。実はオレ、以前ここに住んでいたんです」男は頭を下げ、昔住んでいた家を見てみたくて来ました、と微笑む。
「外からも見えましたが、裏庭の枇杷の木、驚くほど大きくなりましたね。嬉しいなあ」美保理は笑みを作って、「いつごろ、ここに?」と訊く。
「二十四年前です。まだこのあたりは開発途中で、空き地ばかりでしたよ。バス停留所の前は畑しかなかったのに、コンビニやカフェができていて驚きました。ずいぶんお洒落になったもんだ」
「そんなに前なんですか。あ、もしかして、一番最初の居住者さんかしら」男は「たぶん」とはにかむ。
「実は枇杷を植えたのも、オレなんです。あの当時友達だった奴が苗をくれたんですよ。大きくなったら一緒に実を食べよう、って」
「へえ。枇杷」
譲も、桃杷が好物だ。そして二十四年前あたり、譲もここにいたはずだ。確か、夏休みだけだと言ってたっけ。
「少し裏庭を見せてもらっても構いませんか?あの枇杷には、思い入れがあって」美保理が頷くと、「ありがとうございます」と頭を下げて店を出て行った。
やっぱりあれ、嘘だったのね。しみじみと、美保理は思う。この家に住み始めたとき、ここは『不幸の家』と呼ばれていると聞いた。倍子がそんなことはないと断言してくれたお蔭で気にしないようにしてこられたが、やはりあれは嘘だったようだ。今の男性は嬉しそうに笑っていたではないか。不幸になる家であれば、笑って戻ってくる住人がいるはずがない。
「お待たせ。お茶請けはパウンドケーキでいいよね・・・・・・どうかしたの?」降りてきた譲が、ぼうっと立っている美保理を見て首を傾げる。美保理は譲に、今、裏庭にいるはずの男の話をした。
「あの枇杷の木を植えた?」
譲は驚いた声を上げつつ、何だか微妙な顔をしている。どうかしたのと訊けば、「何か、このへんがもやっとしたんだよね」と胸のあたりを撫でて曖昧に言う。
「というより、枇杷の苗っていうのにひっかかるものがあったっていうか」まあいいや、と譲は頭を掻き、「裏庭にいるんだね。様子を見てくるよ」と言った。
「変な感じの人じゃなかったけど、念のためにお願い」譲が外に出て行くのを、見送った。
数分後、裏庭で笑い声がおきた。


解説
・家族の形も含め、人間関係はそれぞれが独自のもの。それは、他の事柄に関しても言えるだろう。たとえば、どんな場所に住み、どんなふうに暮らしていくかもまた、紐を一本一本手繰り寄せるように個人個人がひとつずつ選んで編みだしていくものだ。うまくいかない時、編み続けようとする努力は大切だが、どうしてもそぐわない時は手繰り寄せた紐を手放す勇気も必要だと、本作は教えてくれている。作中、断ち切られる関係も描かれるし、そしてなによりこれは、一度はここに住むと決めた家を出ていく人たちの物語なのだから。
著者が主人公たちの暮らす場所を丁寧に描くのは、それがいつも、居場所を探す人たちの物語だからだろう。本作でも他の作品でも、人々は、時には途中で居場所を変えて、自分がどこでどのように暮らしていくのか決めていく。

0
2026年08月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「強い言葉ばかり独り歩きしたのね」とつぶやきつつ、彼女は続ける。 それに
「 ねえ、あなたはしあわせがどうこう言うけれど、しあわせなんて人からもらったり人から汚されたりするものじゃないわよ。自分で作り上げたものを壊すのも汚すのも、いつだって自分にしかできないの。他人に左右されて駄目にしちゃうなんて、もったいないわ」
信子さんの言葉が沁みる…

0
2026年09月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

各章ごとに今まで同じ家に住んできた人たちの住んでいた背景、引っ越した理由が描かれています。

どんな人たちも色んな思いをか抱え今を生きていて、何が幸せなのか?自分はどうなりたいのか?人生って自分歩んでいくものだから、自分を大事にしなきゃ!と思わせてくれました。

最初の章から読み進めるにつれて、その前に住んでいた人はどんな人だったのか、少し謎解き要素もあっておもしろかったです。

町田そのこさんを感じる優しさで溢れる小説でした。

0
2026年04月01日

「小説」ランキング