あらすじ
〇中国は振り子のように歴史を繰り返す。強固な共産党支配の貫徹、米国に取って代わる覇権追求がいつまでも続くことはあり得ない。「中国共産党は建国以来、やがて米国に取って代わることを企んできた。その野心を隠して西側を騙してきた」という「100年マラソン」説は誤りだ。中国は今後、どういう要因によって、どう変わるのか。それを正確に予想することこそ喫緊の重要課題だ。
〇世界も大きな変化に見舞われている。コロナ・パンデミックを契機に、世界の経済政策のトレンドが「自由貿易、小さな政府、ネオ・リベラリズム」から「政府の経済介入強化、大きな政府、配分重視」の方向へ転換した。同様の変化は1930年代にも起きた。世界も中国も「歴史は繰り返す」。
〇2020年、中国に大きな変化が起きた。米国と長期持久戦を闘っていく方針を固めたのだ。「米国は衰退に向かっている」という判断が「持久戦を闘えば、時間は中国に味方する」という楽観を生んだからだ。だが、「時間は中国に味方する」ことはない。貧富の格差、不動産バブル、「隠れた政府保証」がもたらす弊害、財政難、少子高齢化などの難問を抱えているためだ。GDPで米国を抜くことはなく、中国経済は崩壊しないものの、「中所得国の罠」への道をたどる。
〇政治面でも軌道修正が避けられない。共産党支配によるタテ単軸制御型システムの限界――「何でも党が指導」体制ではもうやっていけない。老いた文革世代がリードする「中華民族の偉大な復興」という看板は若者から支持されず、もう降ろすとき。
感情タグBEST3
2000年代頃はまだ経済的に日本の方が強かったので中国との対立といってもどことなくヘラヘラしたようなところがあった気がするが、2010年代の後半あたりから中国がアメリカにも対応しうる大国に成長し、対中関係の緊張感が格段に上がった気がする。
香港のこととコロナを経て今の日本人の中国に対する警戒感は凄まじく高いが、今後もずっと中国が膨張政策を取ることはないと著者は言う。膨張政策を取らないというか取れなくなっていくようだ。
文革時代の革命の嵐から改革開放時代の拝金主義まで中国はドラスティックに変化する国でもある。今の習近平政権下の中国の左傾化・保守化も下の世代に渡ればまた右傾化・自由化の揺り戻しが起こるだろうという推測は安心材料か。
コロナ後の世界で中国と米国の対立は今後どうなるのか大きな流れを俯瞰した良書。これまでの中国の民族としてのくせを読み解いて、中国がいずれGDPで米国を上回るということはないだろうと予測する。なぜそうなるのか、これからの世界で日本はどうやって生きて行けばいいのか、その手がかりを示してくれる。
Posted by ブクログ
新型コロナウイルス感染症の流行以降、米国と中国との対立があらわになった。これから中国はどう動くのか?同国で今起きている変化、課題を読み解き、その未来を見通す書籍。
2020年、米国は、コロナ・パンデミックの責任は中国にあると批判し、新疆ウイグル自治区での人権侵害批判も強めた。
一方、中国の対米政策も、米国と「長期持久戦」を闘っていく、という方針に大きく転換した。その理由は、次の2つだ。
・米中関係の回復は望めそうにない、と見切りをつけたこと。
・対米観に大きな変化が生まれたこと。かつての米国は仰ぎ見る存在だったが、中国の経済発展につれて、「中国の方が優れている」という考えが生まれるようになった。
中国国内では、“持てる者と持たざる者”という「資産」格差の問題が生まれている。その原因は、次の通りである。
・不動産価格が高騰し、不動産バブルが生じたこと。
・ゾンビ企業(自力では借金を返済できない不良企業)の処理を先送りし続けてきたこと。
中国はリーマン・ショック後、成長が低下する度に景気刺激(投資)を行い、高い成長率を維持している。だが、資金の多くは借り入れであるため、過剰債務が問題となっている。
中国は、「左派」(一党独裁、計画経済重視)と「右派」(権力の監督、市場の働きを重視)の間を揺れ動いている。1980年代は経済、政治の両面で改革開放が進むなど右旋回し、WTOに加盟した2001年頃から左派・保守派の声が優勢になった。
今後、中国が西側に親和的な方向に変化しても、それで「歴史の終わり」にはならない。民主化や権力の分散により党・政の腐敗が深刻化し、再び個人集権に向かう可能性がある。