【感想・ネタバレ】地下の鳩のレビュー

あらすじ

暗い目をしたキャバレーの客引きと、夜の街に流れついた素人臭いチーママ。情けなくも愛おしい二人の姿を描いた平成版「夫婦善哉」。

大阪最大の繁華街、ミナミのキャバレーで働く「吉田」は、素人臭さの残るスナックのチーママ「みさを」に出会い、惹かれていく(「地下の鳩」)。
オカマバーを営む「ミミィ」はミナミの人々に慕われている。そのミミィがある夜、客に殴り掛かる(「タイムカプセル」)。
賑やかな大阪を描いて人気の著者が、街の「夜の顔」に挑んだ異色作。

※この電子書籍は2014年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

西さんらしさと、らしくなさが混在した一冊。

関西弁の登場人物や“自意識"についての描写が多いのは通常運転だったけど、文体が普段よりなんとなく暗く、最初は(アレ、これ西さんの作品だよな?)と表紙を見返すということを2回ほど繰り返した。

他の人のレビューを読むと評価は様々だったけど、私はすごく好きで、星5とかなり迷うくらいだった。

ちょっとイタい男、吉田と両目の大きさが極端に違い、不思議な魅力を持つみさをは、お互いが2人の関係を一過性のものと考えているのが、切なくもなんとなくわかるし、つい応援したくなった。
不恰好でイビツだけど、真っ直ぐな2人の関係は美しかった。
みさをの目に関しては、人によって持つ印象が違うのも面白かった。

収録作品の「タイムカプセル」は、「地下の鳩」に登場する"オカマ"(差別的な意味ではなく、キャラクター本人が1番しっくり来ている呼び名)のミミィの過去について描かれた作品。

イジメは、人を雁字搦めにする。
本当にそう。
 

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2022年07月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

二つの物語が巧妙にリンクしながら、過去を背負いながらも、化けている自分と本当の自分はどこに向かうのか、自分の経験に照らせなくてもどこか懐かしい苦しさが沸々とわいてくる物語。

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2021年06月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

西加奈子版「夫婦善哉」という惹句の表題作…なるほど、そういうことな、と読んでみて納得。

面白いという感想を持つ小説ではない、純文学っぽいかなと思いつつ、無頼を装う部分もあるなぁとも思う。平たく言ってしまえば、大阪ミナミでもガラ悪い地域でキャバレーの呼び込みをする中年男とスナックのチーママをする中年女の冴えない恋愛物語。有り金全部呑んで食って、ただそれだけの筋だけ追えば醜い話でもある。なのに何かが尊い、こんな人生絶対イヤやけど、最悪かと言われたら最も悪くはない、最低とは思うが…。

後半収録のもう1作は、表題作にも出てくるおかまバーのママの物語。こっちの方は短編小説らしいしっかりした筋書きを持っていて、紆余曲折もあって、読んでいて得心できる。

正直だけで生きていけるほど世の中単純じゃない。ウソつくことだって山ほどあるが、自分のついた嘘に忠実に生きるという正直さもあるんだと勇気づけてくれる2編。

西加奈子らしいなぁ、重みも苦みもあるけど、味わいってそういう雑味も含めて美味いんやな

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2021年01月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

む。むむむむむ。むむう。なんか、いい。なんかしらんけど、ええなあ。って感じの本でした。不思議な本だな、って。なんかしらんけど、ええなあ。そんな表現が、いっちゃん、しっくりきましたね。自分の中では。うむ。この本、好きです。

この認識が正しいのかどうかは謎ですが、「うーん、、、ハードボイルド」って、思いました。一読して。こんな感じは、なんだか、自分の中では、ハードボイルドなんだな、って感じ。西 加奈子さん、こんな話も書くんだなあ、ってのが、なんか、驚き。

関西弁が。というか、大阪弁?が、抜群に良いですね。僕が住んでるのは京都なんで、大阪とはちょっと、言葉が違うのかもしれませんが、この物語で語られる関西弁、というか大阪弁?には、なんだか、嘘偽りのかけらもない、って思いました。マジで自然。マジで普通。

今すぐにでも、阪急電車に乗って、梅田に行って、駅のベンチに座っていたら、こんな感じの言葉、そこらじゅうから聞こえてくるだろうな、って感じの、ホンマにこの場所に根付いた言葉、って感じ。好きです。

「かなわんなー!」ではなくて「かなんなー!」なんですよ。「ありがとー」ではなくて「ありがとぉ」なんですよ。この感じ。マジで関西弁、好きなんですよね。

あと、夜の街の雰囲気。そこで働く人々の雰囲気。バリ出てます。すげえな。って思った。西 加奈子さん、実際に、夜の街で働いたこと、あるんか?ってくらいに、すげえこう「この人たちはマジで生きている」感がヒシヒシと。リアルすぎる。素敵ですね。

「地下の鳩」
この話で言うと、みさをが働いている「群」のチーフの女性、すげえ好きです。あの、カメラ持ってる場面、マジで良い。勝手に、このチーフの女性、映画化したらならば。江口のりこに、演じてほしいなあ。とか、思った。合いそうだ。

あと、主人公?の吉田は、リリー・フランキーが似合いそうだ。なんだか、そう思ったんですよね。みさをは、、、誰に演じてほしいかなあ?ちょっと、直ぐにはでてこないなあ。安藤サクラ?リリー・フランキーと安藤サクラだったら、是枝監督の「万引き家族」やんか!でもまあ、万引き家族は、大傑作だと思いますね。何の話だコレ?

それにしても、みさをは、何故にあんなに、食べては吐き、吐いては食べ、を、繰り返したんだろう。謎だ。意味不明だ。意味不明だけど、なんだか、まあ、バンバンにリアルなんですよね。いやあ、好きな話だなあ。

「タイムカプセル」
苛めはマジでヤバい。という事が、よく分かる。そんな話ですね。というか、苛め、は、絶対に、ある。残酷な話ですが、「苛めた側」と「苛められた側」が、大人になった時。その時に、何を、どう、消化したうえで、大人(らしきもの)に、なっているのか?ということですよねえ。この話も、バンバン好きですね。

オカマバーには、まだ人生で、一度も行ったことがない。今後も行くかどうか?となると、行かない気がするのですが、ミミィのお店は、好きです。うん。

それにしても、40歳付近、という年齢で、死を意識するのは、吉田もリリィも、そうなんだよなあ。数百年前は、40歳付近で、人生あっさり終わってても、不思議じゃないわけなんだもんなあ。そう思うと、2020年現在の日本。超高齢化社会。すげえな、って思う。自分も今、42歳なんですが、何だか身につまされました。まだまだ、死にたくねえなあ。でも今後、どんなふうに、生きていこうかなあ、そう考えさせるって意味では、やっぱこの本、読んでよかった。

西 加奈子。お見事ですね。そんな作品です。いやあ、好きだなあ。

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2020年07月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これまで西さんの作品というと、関西弁コテコテ+純文学、という印象でした。今回も舞台は大阪ですが、より純文学へシフトした印象を強く感じました。

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本作は中編ともいえる「地下の鳩」「タイムカプセル」の二編からなります。

表題作「地下の鳩」は、昔はそこそこイケてた40男の吉田が、スナックでチーママを勤めるみさをと出逢い、破滅的に共依存していく話。

続く「タイムカプセル」は、奄美大島出身のオカマのミミィ(おかまバーのオーナー)が、彼(女)の半生を振り返りつつ、自己のジェンダーについて自身は正直であったかを振り返るような作品。

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で、先にも書いたのですが、実に「文学だなあ」と感じたのです。ま、何を文学であるかと定義もしないでお話するのも申し訳ないのですが。

勝手な感覚でいうと、「読者に判断が任される」ような作品については、私はより一層「芸術」性、芸も術も感じます。換言すると、解釈の余地が適切に確保された作品。

、んなことを言うと、エンタメ的作品をバカにしとるんか、と怒られそうなのですが、飽くまで私の個人的な好み、であります。

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「地下の鳩」は40にもなって未だに女性に対してはイキがった態度をとる吉田、彼を恋人未満なヒモとして住まわせるみさを。この二人が出会い、もつれてゆく情景が淡々と描かれます。今回は珍しく、オチもユーモアも殆ど見かけませんでした。

「タイムカプセル」も、オカマのリリィの回顧を経て、最後は小学卒業時のタイムカプセルを掘り起こし、自分が偽って書いた文章を確認してゆく話が淡々と描かれます。

どちらも結末・オチが用意されず、本当に、ふと、終わります。

とすると、読者はやはり「何なんだこれ?」って思うんじゃないでしょうかね。でも、こうやってオチの部分だけさっぱり切り落とし、そこまで上手にしっとり読ませるということでは秀逸であったと思います。

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ちなみに、これまで西さんの作品は関西弁の多用の他、擬態語や擬音語の使い方に可憐さを感じていましたが、本作ではそうした擬態語・擬音語も見られませんでした。何かありました?西さん?

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ということで久しぶりに西さんの作品でした(数えてみたら五カ月ぶり!)。

関西弁のアクの強さやユーモラスさが影を潜めているのですが、文学作品としては私がこれまで読んだ作品のなかでは一番完成度が高く感じました。

ストーリーの展開ではなく、文章の美しさを鑑賞することが好きな方にはお勧めできる作品です。

はたして皆さんは本作品、どのように読みましたでしょうか? 他人の感想・評論が気になる読後でありました。

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2024年02月18日

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