あらすじ
一九四七年八月一五日,インド独立の日の真夜中に,不思議な能力とともに生まれた子供たち.なかでも〇時ちょうどに生まれたサリームの運命は,革命,戦争,そして古い物語と魔法が絡みあう祖国の歴史と分かちがたく結びつき──.刊行当時「『百年の孤独』以来の衝撃」とも言われた,二〇世紀小説を代表する一作.
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Posted by ブクログ
1947年、イギリスから独立したインドで誕生した作家であるサルマン・ラシュディが作家として注目を集めた長編小説。ラシュディといえば、イスラム教から名指しで命を狙われることになった『悪魔の詩』(特に日本においては邦訳を担った筑波大学助教授がキャンパス内で暗殺された点で有名でもある)が有名であるが、本作『真夜中の子供たち』は著者の出世作として圧倒的な物語世界が描かれている。
著者の作品を読むのはこれが初めてであったが、ガルシア・マルケスなどに代表されるマジック・リアリズムのインド版とでも言おうか、濃厚な物語である。1947年8月15日の深夜0時、独立を果たす瞬間のインドで生まれた500人もの”真夜中の子供たち”は、それぞれが特異な能力を持ってこの世に生を受ける。主人公のサリームもその代表格であり、彼がその特異な能力と共に苦労しながら成長する様が描かれる。
驚かされるのは、同じく0歳で誕生したインドという国家と、サリームという一人の人間を半ばDNAの二重螺旋のように相互の関係性を描き、双方にとっての希望ある未来を描くというこの途方もないコンセプト(誰が国家と人間を相似形にあるものとして描くだろうか?)と、それを取り巻く圧倒的な物語の面白さである。
Posted by ブクログ
チラチラ出しては隠される人物や出来事、散らかって進む話に不思議と苛立つこともなくひきこまれる。たびたび横やりを入れるパドマが読者を代弁していると思う。主人公のパドマへの眼差しは温かくて、そこに著者の読者への眼差しを重ねた。
緊迫したラストに、三巻構成だったのを上下巻にした意図が窺える。
現実感のあるところも無いところも、抽象的な記述でさえとにかく画面の浮かんでくる文章で、映画を観ているようだった。
Posted by ブクログ
ノルウェー・ブック・クラブによる「世界最高の文学100冊」にあがっていた一冊。折り良く岩波文庫に入ったので、読んでみた。
本作の主人公で語り手であるサリーム・シナイは、インド独立の日である1947年8月15日の真夜中きっかりに、ボンベイで生まれた。この暗合により、「歴史と手錠でつながれ、私の運命は祖国の運命にしっかりと結びつけられてしまった」私が、祖父の代からの一族にまつわる出来事を、千夜一夜物語のように、聞き手のパドマに語っていく。父と母の結婚、妊娠中の母になされた占い師による不思議な託宣、父の事業の崩壊による両親のボンベイへの引越し、そして、新生インド誕生の瞬間、語り手が誕生する。ーここまでが第一巻
首相ネルーからは「出生時間の幸福な偶然を、…お慶び申し上げます。貴君は年老いた、しかし永遠に若くあり続けるインドという国を担ういちばん新しい顔なのです」とのメッセージをもらう。
そして9歳のとき、あることがきっかけで主人公はテレパシー能力に開花し、世界を創造している想念に憑かれる。そして、自転車事故の衝撃をきっかけに、主人公の能力は更に高まり、〈真夜中の子供たち〉を知ることになる。彼ら、彼女らは、1947年8月15日の真夜中と午前1時の間に、主権国家インドの国境内に生まれ落ちた1001人のうち、1957年までに生き残った581人の子供たちであり、不思議な特徴、才能、能力を授かっていた。主人公は、自らがハブとなって、真夜中の子供たち会議を作る。
そんな中、主人公は友人に追いかけられ指を切断する大怪我を負ってしまい病院に運ばれたところ、思わぬ事実が明らかになる。(ここまでが文庫上巻)
語り手の語りが、語っている現在と、祖父、祖母、父、母等の出会いや関係、出来事が起こった過去との間を行き来するので、いつのことの話なのか慣れてくるまでに少し時間がかかる。一つひとつのエピソードは現実離れしているようでいて、あの底知れぬインドならばあり得そうにも思えてとても面白い。その辺りが、本書がマジック・リアリズムと評されている所以であろう。
ここからどうなっていくのか。占い師の予言が実現していくのだろうが、予言の常で、あの言い回しでは何だか分からない。