あらすじ
『さくら』で彗星のように華やかなデビューを飾った西加奈子の第4作にあたる長編小説。冬の大阪ミナミの町を舞台にして、若々しく勢いのある文体で、人情の機微がていねいに描かれていく。天性の物語作者ならではの語り口に、最初から最後までグイグイと引き込まれるように読み進み、クライマックスでは深い感動が訪れる。このしょーもない世の中に、救いようのない人生に、ささやかだけど暖かい灯をともす絶望と再生の物語。この作品で第24回織田作之助賞を受賞している。
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Posted by ブクログ
大阪ぽさというか、この小説に出てくる人物はとても面白かった。普通に声を出して笑った。
その中でも、バイトの新人の出産、マメに振られること、オタク風男の自殺未遂など、嬉しさ、悲しさ、むなしさなどの感情が揺さぶられた。最後のわずかな希望を残す感じもとても良かった。
個人的に「疲れたら自転車降りて歩こうな。」という言葉を素敵だと思った。
Posted by ブクログ
輝いていない人々に、夢も希望もない淡々とした日常がなぜこんなに面白いのか。すごくリアルですべて実在する人物のようだった。
太字で書かれた夢の話が、絶妙に本人の状況や不安を言い当てていて、怖くて面白い。
だんだん明かされていく主人公二人の人生が、実は過去に同じ日々を共有していたのがたまらなかった。近くにいるのにお互いがお互いを気づくことはなく、でもあの瞬間は確実に影響を与え合った。
この自殺未遂事件が起きて、特に何かが前進したり解決するわけではない。でも日々がそうやって続いていくリアルを書いていて、男は自転車泥棒ということになってしまったし、たぶん店員の女とも何もない。でもそういう人生もある。孤独で自由。その自由を欲していようといまいと、それは続いていくのが慰めのように感じた。
Posted by ブクログ
「夢に向かって頑張ってないと駄目なのか。」
「愛してくれるのだろうか、ではない。愛そう。」
誰にも知られず、泥臭く日々を生きる全ての人に力をくれる物語。
Posted by ブクログ
ディープな大阪を舞台にする登場人物像たちにリアリティがあって、自分も大阪に迷い込んだような感覚になりました。キラキラ要素がゼロの男と女の物悲しい人生。雪の降る日に出会った2人が、偶然、雪の降る日に、同じ通天閣を眺めるやや滑稽なシーンでは、まぁでも生きなしゃーないしなぁ、といった前向きさと物哀しさがごちゃ混ぜになったような気持ちになりました。
Posted by ブクログ
大阪、ミナミのパワー。
グリコと道頓堀がお出迎え。
・・・
20を越えてから初めて踏んだ大阪の地は、東京生まれ・東京育ちの私にとってはおよそ「異世界」という言葉では尽くしきれない、尋常ならざる世界でした。
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天王寺公園の青空カラオケ。
週末に行くたびにお祭りが多い町なのかと勘違いしました。
その先の露天では靴片方とかが売っており、売り子のおっちゃんに理由を聞くのすら怖い笑
そばには朝っぱらから男性が倒れている。酔っ払っているのかか死んでいるのか・・・
そんな場景を見下ろすのが、通天閣。
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本作は、そんな通天閣の横にすむうらぶれた40代の男性と、そんな通天閣付近の場末のスナックの黒服を勤める女性の話であります。
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巻末の津村記久子さんが、絶妙で的を得た解説をしているのですが、本作結局なんなのかといえば、世の厳しさを描写をしつつ、ほんのわずかな希望も描く、という文学作品です。
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男性主人公、彼の行き先は暗い。
フリータとして40を過ぎ、バツイチ。この先人生は変わらない。それでもいいと思っている。
とんがっていたのに何となく新人バイトに優しくし、新人が盗んだ蕎麦屋の自転車を代わりに乗って危うく罪を着せられそうになる。通天閣で自殺未遂をおこした赤の他人の隣人に偶然遭遇し、自分がピエロになり全力のアピールで自殺を食い止める。
どうにも締まらず、空回りする。なんだかなあ、という人生。
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かたや主人公女性。
同棲していた男性は米国に留学し、彼を待ちつつ黒服として働く。彼とつながる国際電話の頻度は次第に少なくなり、自分の心が徐々に不安定になる。
最後の電話は別れの電話。
わたしの何がダメなのか、惚れた女のどこがいいのか。なんでアメリカくんだりまでいって日本人の女なのか。
自分の恋愛もうまくいかず、男にだらしなかった母親を思う。
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でそんな文学文学した作品、じめじめしてばかりかというと、軽妙な関西弁に乗せられ、いかにも大阪的なユーモアがちりばめられています。
主人公男性が勤務する工場で作られている懐中電灯の「ライト兄弟」。そのネーミング! またこの男性が可愛がってしまった新人。ドモりなのだが、どもるのが「ア行」だけ。何だそれ?笑
女性主人公の勤めるスナックのママ。
スナックという喧騒に包まれた勤務地にもかかわらず、致命的に声量が小さい。語尾が聞き取れない。それを生かしてスナックのオーナーがぼったくると決めたら会計に立つのはママ。何しろ色々応えている(無視はしていない)のに声が聞こえない。
そう、つっこみ所満載なのです。
きっと関西圏出身の方だと突っ込みながら読むんではないかと思います。ある意味親切設計、でありました。
・・・
ということで西作品でした。
本作は彼女のキャリア三作目、割と初期のものですが、(普段印象的な)言葉のたおやかさより、ストーリ展開がスムーズであったという点が印象的でした。
関西を感じたい方、大阪にゆかりのある方にはお勧めできるかもしれません。
Posted by ブクログ
「40代の男と20代の女が主人公で交互に視点が切り替わりながら物語は展開していく。男は工場勤めでいつも他人を見下す節があるが、自分の人生のコンプレックスを自覚しているからこその八つ当たり的なものをその行動から感じる。多分自分のことが嫌い。女はマメという彼氏と同棲していたが、彼氏が映像家の夢叶えるとのことで、ニューヨークへと単身で留学してしまう。おいていかれたという事実を受け入れられず悲しみを背負いながら、スナックでアルバイトをしている。最終的に男も女も自分の人生を受け入れ、前に進む決意をする」というのが大まかな内容。ありふれた日常を特別なものに感じさせる書き方のできる西加奈子だからこそかけた作品だと思います。
Posted by ブクログ
西加奈子さん、ずーっと前に読んだ「サラバ!」が面白かったので、他の小説を読みだしました。なんか…違う。
巻末の解説で…
「この世に生きるどうしようもない人々を輝かせることに成功している。」と、書かれていた。
そうですね。ちょっと、いい加減にしてよと思う感じの世界観。切ないなぁ…この人達と思いながら読み進め…交互に物語が進むので読みやすい。
後半に感動ポイントもあり、読後感は悪くないかもです。
大阪を舞台に、44歳男性と、20代女性の物語が交互に語られる。二人とも、自堕落に淡々と日々を過ごしている。20代女性は、アップダウンのある生活かな。
この二人、昔、義理の親子として過ごした時期があったのね…。
愛されることじゃなく、
自分から愛すること、
それが大切。
自分の幸せは、人に与えられるものではない。
そんなことを気付かせてくれるお話でした。