あらすじ
大ヒット映画「オデッセイ」のアンディ・ウィアー最新作。映画化決定!未知の物質によって太陽に異常が発生、地球が氷河期に突入しつつある世界。謎を解くべく宇宙へ飛び立った男は、ただ一人人類を救うミッションに挑む! 『火星の人』で火星でのサバイバルを描いたウィアーが、地球滅亡の危機を描く極限のエンターテインメント
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Posted by ブクログ
めちゃくちゃ面白い…!!!
オーディブルで聞いた。
主人公が宇宙船の中で目覚めるところから話が始まる。何光年も移動している間、昏睡状態だったので、記憶があやふや。自分の名前すら思い出せない。
というところから、だんだんと自分が誰でなぜここにいるのか思い出す過去編と、宇宙空間での現在の出来事とが交互に入るストーリー構成になっている。
主人公のライランド・グレースは、生命には必ずしも水は必要ないという論文を書いたせいで学会追放になり科学教師をやっている。流行りのパーティー追放ものっぽい設定…なんだけど、主人公が科学教師だからこそ、主人公が生徒に説明するシーンを通じて読者としても何が起こってるのか理解しやすいし、主人公が人にものを教えたり、噛み砕いて説明したりするのが上手いというところに説得力が出るし、新たなものを学ぶのが、教育理論のプロセスを理解してるからこそ上手い感が出てる。
登場人物みんな有能で、足を引っ張る無能みたいなのが出てこないから読んでて気持ちがいい。科学者たちそれぞれが信念を持ち葛藤したり、利害が対立する国々があったりする中で、人類を救うという一つの目的のために団結してる過去編がアツい。ストラットさんが、高慢なところはあれどそれに見合うだけの辣腕と、その後の自分の未来が明るくないことを理解した上での覚悟を持ってるところがかっこいい。
地球外生物体とのファーストコンタクトが、知的生命体ではなくアストロファージ、恒星のエネルギーを食べる微生物のようなもの、という設定が面白い。でも確かに、その方が理にかなってるような気もする。
現実的な科学理論や生物学に即してSFが組み立てられてて、リアリティラインが高いので読んでてドキドキした。作者は…天才的では…?!
アストロファージが太陽のエネルギーを食ってしまい、地球に届くエネルギーが30年後には10%下がるとわかる。そうなると地表の生命は生存できない。
アストロファージは太陽以外の恒星にも感染しており、感染範囲は8光年だが、鯨座のタウだけは感染していない。
タウが感染していない理由を探るために、ヘイルメアリー号を送り込み、乗組員3人のうち唯一昏睡から回復できたのがライランドだった。
ヘイルメアリー号による恒星間航行を可能にするエネルギーが、アストロファージという展開が面白い。太陽のエネルギーが消えても、地球温暖化のせいで地球の冷却に多少の猶予があるという展開とか、アストロファージを燃料にするためにサハラ砂漠に大規模なプラントを建設したら、地球環境が悪化して26年後には人類が滅亡する目算になってしまったこととか。それを止めるために人工的に地球温暖化を起こそうと、南極の氷を核爆弾で溶かすことになり、プロジェクトに参加してた環境科学者がやるせない涙を流すことになる展開とか、すごく面白い。
ライランドは、タウ星の軌道上で、ライランドは別の宇宙船に出会う。それはエリダニ40という恒星の惑星に住む宇宙人だった。エリダニも同じくアストロファージに感染しており、なぜタウだけ感染してないか調べるために船を送り込んだ。エリダニ星人ロッキーも1人きりで、はじめにクルーは23人いたが、エリダニ人は宇宙の放射線の存在を知らなかったため次々被曝して死んでしまっていた。ロッキーのみエンジニアだったから、アストロファージ燃料に囲まれた空間におり、アストロファージは放射線を通さない性質を持ってたので助かった、とか。
ロッキーは蜘蛛のような形をした異星人で体は主に鉱物でできてる。アンモニアの大気を呼吸し、住む世界の温度はすごく熱い。
ロッキーもライランドも科学者だから、共通の言語を探り合って交流し、共にアストロファージ問題を解決しようと画策する。だんだんロッキーが可愛く思えてくる。ロッキーが「君の船に行きたい!」というところで上巻はおわり
Posted by ブクログ
抜群に面白い。
科学で謎を解明していくワクワク感がたまらない。
特に“異星人の宇宙船との遭遇”の場面は、「うっそだろう!」と一緒に叫んだ笑、ロッキーかわいい。
下巻が楽しみ。
Posted by ブクログ
読んでも読んでも章ごとの起承転結が自分の想像する結びに至らず、小説の終わりまでまさにこの物語の重力に引っ張られ続けた。
そしてまた、この作品がどうしてネタバレ厳禁と言われているのか、どうして誰にも何も話せないのにとにかく読んで!としか言えないのか、気持ちが心から理解できた。
何かを成し遂げるには結局一歩一歩地道なトライアンドエラーの繰り返しをしていくしかなくて、それはこれまで生きてきて強く実感しているが、その地道なトライアンドエラーを繰り返した人類の過去があったから今この世界の発展があり、そしてその発展は人類がよりよく皆で生きるために遂げられてきたものなのだということを、作者が伝えたいんだと作品から感じた。
主人公のグレイス博士がロシアのオーラン宇宙服を着続けていることも、そもそも搭乗者として、中国、ロシア、アメリカの人間が乗っていることも、全体的に今のポピュリズムとナショナリズムの吹き荒れる世の中への問いかけのように思う。私たち人類が力を合わせればこんなこともできるのに、どうしてそんなに他国を排そうとするのかと。
そして科学への信頼がメインテーマの一つとしてみっちり語られる中で、もう一つのメインテーマが前述と地続きの異文化接触とエンパシーなのが素晴らしくて素晴らしくて。最後のグレイスの決断が人間が持ちうる善の部分を美しく描いていて目が潤んでしまった。あの場面、物語のクライマックスとしても素晴らしいし、最初の彼らの邂逅と最後の彼らの邂逅、ブックエンド構造になっていて読んでてぞくぞくしてしまった。最初はロッキーがシリンダーを投げてきて、最後はグレイスが自分で宇宙空間へ飛び出してロッキーの宇宙船へ飛びつく。この距離感と接し方、彼らの過ごした濃密な時間と、彼らが持つ互いの目標への理解と、互いの専門に対する姿勢へのリスペクトと、互いの惑星へ持つ気持ちへのエンパシーと、それらが混ぜ合わさって生まれた友情の表現になっているのが素敵すぎて最高だった。
終わり方も想像を巡らすことができる終わり方で、私は最終的にはグレイスが地球人と会うか交信くらいはできたらいいなと思っているがどうだろうか。地球人はアストロファージがうまく使えるようになったからこそ、金星へ行ってタウメーバをばら撒けたのだろうし、太陽が元の光を取り戻したということは少なくとも元の水準の文明は残っていて、国際協力もできる体制が残っていたはずなのだから、アストロファージを使った無人機をエリドへ向かわせることくらいできないもんだろうか。グレイスはエリドのことも伝えているはずだし。
しかし、グレイスが地球に戻るか否かよりも、グレイスがエリドても自分の培ってきた知識を後世へ伝えることに喜びを覚えているという描写がとてもよくて、しかもそれがエリドの言葉で、音楽のように教えられているというのが、科学がどれほど楽しいものなのかを暗喩のように伝えてきていて面白い。
素晴らしかったなー。もう一度読みたい。