【感想・ネタバレ】生涯弁護人  事件ファイル2 安部英(薬害エイズ) カルロス・ゴーン 野村沙知代・・・・・・のレビュー

あらすじ

安部英(薬害エイズ事件)、カルロス・ゴーン、野村沙知代・・・・・・マスコミを騒がせた問題人物は本当に罪を犯したのか。「悪人」に仕立てられた人たちの知られざる素顔と事件の真相。絶対的に不利な状況から数々の無罪判決を勝ち取り、「無罪請負人」と呼ばれる弘中淳一郎弁護士が初めて公開する全事件簿。マスコミと刑事司法が作り出した虚構のストーリーの裏に隠された、知られざる物語に、あなたはきっと驚愕する。

村木厚子事件(厚労省郵便不正事件)、小澤一郎事件(陸山会政治資金規正法違反事件)、鈴木宗男事件、マクリーン事件、クロマイ・クロロキン薬害訴訟、医療過誤訴訟、三浦和義事件(ロス疑惑)などを扱った「事件ファイル1」も同時刊行。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

生涯弁護人
事件ファイル2
安部英 カルロス・ゴーン 野村沙知代・・・・・・

著者:弘中惇一郞
発行:2121年11月30日
講談社

日本における最強弁護士のひとり、弘中惇一郞氏による記録。ファイル1では、厚労省の村木厚子氏、政治家の小澤一郎氏、鈴木宗男氏、ロス疑惑の三浦和義氏を弁護した時のことを書いていた。村木、小澤はまったくの冤罪を見事に晴らし、ロス疑惑も銃撃事件は無罪、殴打事件を有罪としている。鈴木は有罪で実刑判決。

この本を読む前まで、高い弁護料を払えば無罪を勝ち取れるんだなあと思っていたけど、ファイル1、ファイル2を読んで、それは誤解であり、弘中弁護士は高額な報償をもらって動く「無罪請負人」ではないことが分かった。

ファイル1では、上記の他、薬害のクロマイ事件やクロロキン事件、医療過誤事件も。その中で、検察による実にえぐい「人質司法」を訴え、マスメディアによる不公正な報道批判を展開した。ファイル2でも、安部やゴーン、野村など副題にある有名人のほか、下館タイ女性殺人事件や小学生交通事故事件など、弱者とともに裁判を闘った記録も紹介している。また、誰もが巻き込まれる可能性がある痴漢冤罪事件などもあり、周防監督にも協力してもらった事案も出てくる。それが、映画「それでも僕はやってない」にもつながっていく。

無罪を勝ち取ったものだけでなく、取れなかった案件も結構出てくる。また、まるで手弁当、弁護士報酬なし、交通費だけ出してもらったという案件も。支援者の一人がパチンコの名手で、交通費が必要になると勝負を賭けて必ず勝ってきたそうだ。著者も感心しきりだった。

著者は浩瀚な2冊の書を通し、終始、検察批判をしている。およそ先進国とは思えないような「人質司法」により、長期の拘束と脅しなどを交えた厳しい取り調べで精神的に追い詰め、用意された検察のストーリーへと無理矢理持っていく。国際的には常識である取り調べにおける弁護士立ち会いも認められず、押収した資料は独り占めし、弁護側から公開請求があっても都合のいい資料しか出さない。日産の事件では、契約した業者にコピーさせているから1年かかると、信じられないような口実で資料を出しを渋ったことも書かれている。

最も勉強になったのは、刑事弁護において決して「ヤメ検」弁護士を雇ってはいけないという点だ。ヤメ検は検事の気持ちがよく分かるだけに、どうしても検事側にあわせてしまう部分があるそうだ。完全無罪が勝ち取れる案件も、執行猶予付きでまとめてしまう、なんてこともあるのではないか。

検事の〝天下り〟も著者は厳しく批判している。社会のいわゆる上流階級で「優秀な刑事弁護人を教えてほしい」と声がけをすると、紹介されるのはたいていヤメ検だそうである。その理由について推測を交えながら書いているが、東京では4大とか5大とか言われる大手法律事務所が上場会社の顧問の大半を引き受けている。検察官を退職して弁護士登録すると、そのような事務所が受け入れてくれる。そうした「ヤメ検ネットワーク」で仕事が回り、大企業の顧問弁護士や監査役として安定収入を得る。「検察には私の後輩がいるから心配いらない」と。これは警察OBがパチンコ店や風俗店に入るのと同じだと指摘する。政治家や大企業のトップが関わる有名刑事事件には、最初はたいていヤメ検がつくのも、こうした理由からだそうだ。

2冊の本を読んでいると、あんな事件までテクニックで無罪にしやがって、不公平だ、と思っていたものについて、やっぱり無罪だな、これは、と思えてくる。もちろん、弁護側の一方的な主張だからという頭はあるが、それでも読者を味方につけてしまう。さすがは最強弁護士である。カルロス・ゴーンの件も、裁判をしていれば無罪に近い判決が出たのではないかと思えてきた。

そんな中、ただ一つ、これだけは無罪だと思えないものがあった。薬害エイズ事件だ。一審無罪は許せないと、この本を読んでも思う。

●薬害エイズ事件

1980年代~90年代初頭、血友病患者に投与された非加熱血液製剤によりHIV(エイズウイルス)に感染し、エイズを発症して死亡する事例が発生した。帝京大学附属病院で内科長を務め、帝京大学の副学長でもあった安部英は、適切な治療方針を樹立しなかったとして業務上過失致死罪に問われた。治療に当たっていたわけではないので、あくまで内科長としての治療方針を問われたのである。

彼は1996年8月に業務上過失致死容疑で逮捕され、9月に起訴された。また、それに先立つ7月には衆議院での証人喚問も行われている。
著者は公判での弁護人や証人喚問での補佐人を務めた。その結果、2001年3月に一審で無罪判決が出た。

無罪判決が出たとき、僕は激しい憤りを覚えた。90年代、仕事でエイズに関して随分勉強し、横浜での国際エイズ会議の取材もした。安部英の傲慢な人間性や昔ながらの考え方(権威主義、俺が絶対)によって引き起こされたようなものだと思っていた。彼が製薬会社から資金援助をしてもらっていたという報道もあった。しかし、本書を読むと最初から著者は彼の無罪を信じていたようだ。そして、ジャーナリスト櫻井よし子(右翼思想の持ち主でジャーナリストと言えるかどうか疑問)、毎日新聞、新潮社などのマスメディアのあり方を厳しく批判し、いかにも安部を悪人に仕立て上げようとしていると指摘している。

それはそうかもしれない。マスメディアはそういう面が今回に限らずある。しかし、著者が批判するマスメディア的な印象操作は、この本で著者自身も行っていることがわかる。
・厚生省が設置したエイズ研究班会議において、安部が東大第一病院時代に出会った血友病患者Aの症例について検討が行われていた。帝京大附属病院に下痢、発熱、発疹などの症状で入院していたが、アメリカの文献を読むうちにエイズかもしれないと考えた安部は、研究班会議で「エイズの疑いが強い」と何度も強く主張して認定を求めた。しかし、塩川優一医師ら田のメンバーから強硬に反対され、認定されなかった。
・後にその患者Aはエイズ感染していたことが判明したが、もし認定されていたら日本におけるエイズ認定患者第一号になっていた。
・塩川医師は安部と東大医学部で友に学んだ同窓生。結局、その後、日本におけるエイズ認定患者第一号に認定されたのは塩川が教授を務める順天堂大学の患者だった。
・エイズ研究班の解散後に新たに設置された「AIDS調査検討委員会」の委員長に塩川がなり、安部には声がかからなかった。

こんな風に著者は書いている。P49-50。これを読むと、塩川は認定患者第一号に関して自分の名前を残したいがために安部の患者について否定したといわんばかり。厚生省もグルだった。そんな印象操作を著者自身が本書しているのではないか。僕はそう感じた。

また、「血友病の場合は内臓や脳で出血したらすぐに止血しないと命にかかわるため、多少の不安があっても(HIV感染が疑われている)非加熱製剤を簡単にやめるわけにはいけなかった」と書いているが、僕が当時取材した中では、そうであっても非加熱製剤を使わないでくれと頼み込んでいた患者も大勢いたのである。著者は本書でそういうことには触れていない。当時の医学でいえば、血友病も命にかかわるが、HIV感染も命にかかわる大病発生の可能性が高かったのである。だから、著者のこういう書き方は極めて偏った言い分なのである。まあ、弁護士だから当然だが。

他にも薬害エイズに関することは、ツッコミどころが多かった。

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2022年10月19日

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