あらすじ
落合陽一氏が「老い」と高齢化にフォーカスした初の著書。解剖学者・養老孟司氏との対談を皮切りに、デジタルネイチャー(AIやロボットとの共存が当たり前の時代)において、「老い」がどう変容していくか思考する。“豊か”な生や老いを享受するためのヒントが詰まった1冊。
※本電子書籍は同名出版物(紙版)を底本として作成しました。記載内容は、印刷出版当時のものです。
※紙版とは異なる表記・表現の場合があります。また、電子書籍としては不要な情報を含んでいる場合があります。
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Posted by ブクログ
この本が発売されることは知らなかったですし、「老い」というものがテーマであまり積極的に読もうと思わなかったのですが手にとって読んでみました。すると普段自分がもやもやと感じていることに対して解決の方策が書かれていることに気が付きました。
落合陽一さんは最近"民藝"というワードを使って「手触りのあるもの」「一回性」のようなものをどう感じていくかを語っていることが多いように思います。本書で取り上げられている介護の世界では人と人との関係が密で、介助する側の負担が大きいわけですが、テクノロジーによって緩和させなくてはいけないし、それができるということが書かれています。
自分の友人や親戚にも介護福祉職の人がいるのでこの職の負担が大きいということは理解しているつもりですが、状況を改善させるには給与水準の低さや重労働がどうしても足かせになります。以前どのようなことが大変か友人にきいたら、仕事が終わった後に「利用者のヒヤリング状況を報告書にまとめないといけないが、紙に書いてあるものをPCから入力する」といった作業を行っているそうで、テキストマイニングのアプリなどを教えてあげましたが、なかなか福祉業務用に使える状態にはないのですぐには使えなかったようです。現場の人は慣れたやり方で半ば根性で乗り切っているのです。しかしそれは介護される人、利用者の人口が増えれば立ち行かなくなってしまい、介助する側が疲弊してしまうでしょう。
落合さんはこれまで試験導入された様々なプロダクトを紹介しながら、これからは「現場で必要なものをITの力で生み出していくようになる」と予想しています。2010年代はSaaSが流行り、どちらかというとカスタマイズのない画一的なサービスを提供するモデルが浸透しました。しかしこれからはそれ以前のカスタマイズともいえるサービス提供が始まるということなのでしょうか。少なくとも1990年代~2000年代前半と違うのは、低コスト、短期間で現場で必要なものを作ることができるようになる、ということなのでしょう。この予想については自分としては少し意外で、しかし普段感じていたもやもやを解消してくれるものでした。今のSaaSによるサービスはユーザーの要望を取り入れているとは言え、結局本当に現場が必要とするものは十分には提供できていないのです。そして現場でカスタマイズするための手段は提供していても、現場の技術的スキルの不足により結局実現できないのです。しかしこれからは必要となる技術的スキルがさらに低いものとなるということなのでしょう。
一番共感したのは、現場の介助する側(支援する側)が介助される側(支援される側)の状況に深く入り込みすぎて精神的な負担が大きすぎる、という点です。これは医療の現場でも似たような状況なのかもしれませんが、もう少し精神的な負担を減らす仕組みをITで実現できると思います。例えば認知症患者との会話はロボットがある程度対応するといったことです。人間よりもロボットとの会話によって患者が流暢になった、反応があったという事例も紹介されていました。
少し話が変わりますが、真夏の工事現場で作業員の身体を冷やすような作業着が導入されたり、重いものをもちあげるときに腰を補助する機械が導入されたりしています。ああいったものを見ると、まだまだ作業者を支援する仕組みは作れるし、根性に頼らない仕組みを作っていかなくてはいけません。介護や福祉の世界でも同じことだと思います。
Posted by ブクログ
『テクノロジー』
・ARカメラや、360度撮影可能な全天球カメラを組み合わせた遠隔操縦自動運転車いす
・空間に映し出された文字のほうを向いて付属のボタンを押すと、音声として読み上げられるスマートグラス
・ヘアピンのように髪の毛に装着し、振動と光によって音の特徴を感じることができるインターフェイス
・関節を動かすモーターやバッテリー、コンピューター、センサーを搭載しているサイボーグ義足
・途上国で使用されることが想定された、安価でクオリティの高い途上国向け義足
・障がい者アスリートの経済事情を改善する為作られたオーダーメイドの競技用の義足
・500円玉大のパッチ式センサーを上腕に貼るだけで、採血なしに血糖値を最長14日間連続測定できるデバイス
『近い将来介護はどうなっていくのか?どうなるべきだろうか?』
まず、介護職を「3Kきつい、汚い、危険」「低い賃金」といったネガティブなイメージから解き放ち、人手不足な現状を打破する。デジタルテクノロジーを導入し、働くうえでモチベーションや成長意識を維持できる環境をつくり、満足度をあげる必要がある。
介護現場に根強く残る根性論。「自分が頑張らなければ現場が回らないんだ」と強すぎる責任感を持っていることに敬意を感じるとともに問題も感じる。デジタル化により関節業務がどんどん代替えされ、介護職がトータルコーディネーター、ライフコーディネーターとして役割を果たすようになっていけば、現場にはびこる根性論は影を潜め、クオリティを上げるためにスキルを磨くほうへと、変化していくはず。
介護におけるスーパースターも誕生するはず。たとえば、歴代総理を看取った介護職の人がいれば、それはスタープレイヤーといえる。「総理大臣を看取った」その事実が大きな影響力を持ち、その人の発する言葉には重みがある。
ケアの現場では人間の「おもてなし」を当たり前に享受できる時代は終わり、「人間味のある」質の高いケアに価値を感じる人が金銭を払うサービスと、必要最低限のケアだが金銭の支払いは少なくなるサービスの選択肢が用意される状態になる。
「Uber Eats」のように、スマホ一つで手軽に介護テクノロジーを利用できる世界に。
『避けられない「老い」ポジティブに老いていくには』
よりよく生きていくために大切なのは「豊かさ」である。まず自分にとって豊かさとは何かを改めて考える必要がある。
「人間とAIやロボット、どちらにお世話してもらいたいですか?」そう聞くと、得体の知れない機械にお世話してもらうことへの恐怖心から、「人間に介護してもらいたい」と考える人は多いはず。しかしトイレの後にお尻を他人に拭かれるよりも、温水洗浄便座で綺麗にしてもらうほうを選ぶ人が多いはず。
プライベートゾーンや個人情報に含まれるプライバシーを扱う領域では、人の手よりもテクノロジーの介助を求める人は少なくないはず。
『豊かな人生をお送りください』