あらすじ
世界有数の大国として驀進するインド。その13億人のなかにひそむ、声なき声。残酷なカースト制度や理不尽な変化にひるまず生きる民の強さに、現地で長年研究を続けた気鋭の社会人類学者が迫る!
日本にとって親しみやすい国になったとはいえ、インドに関する著作物は実はあまり多くない。
また、そのテーマは宗教や食文化、芸術などのエキゾチシズムに偏る傾向にあり、近年ではその経済成長にのみ焦点を当てたものが目立つ。
本書は、カーストがもたらす残酷性から目をそらさず、市井の人々の声をすくいあげ、知られざる営みを綴った貴重な記録である。
徹底したリアリティにこだわりつつ、学術的な解説も付した、インドの真の姿を伝える一冊といえる。
この未曾有のコロナ禍において、過酷な状況におけるレジリエンスの重要性があらためて見直されている。
超格差社会にあるインドの人々の生き様こそが、「新しい強さ」を持って生きぬかなければならない現代への示唆となるはず。
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Posted by ブクログ
この本は現代インドにおけるカースト制について語られる作品です。この本は著者の現地での調査に基づいた貴重な記録です。机の上で文献を読むだけでは知りえない、リアルな生活がそこにはあります。
この本を読んで、カースト差別が現在でもこれほど強力に残っているのかということに驚いたのはもちろん、「実際にどんな差別を受け、どんな恐怖、屈辱に生きていかなければならないか」を知り、私はそれこそ恐れおののいてしまったのでした。
圧倒的な成長を見せるインドの影をこの本では知ることになります。この本を読めばインドという強烈な存在を通して私たちの生きる日本についても考えることになることでしょう。
Posted by ブクログ
「白人社会で人間として扱われない、認知されない、他の有色人種のように差別してはいけないという意識以下の透明人間なアジア人」という感覚を持っている私は、自ら欧米に進出する日本人(アジア人)を「すげえなぁ。でも俺はこの見た目ほとんど同じ、話し言葉同じの1億2千万ぬるま湯に浸かったままゆったり暮らしていくぜ。わざわざ差別されに外国で暮らすなんてまっぴらごめん。なんで自分の肌の色や出身国をバカにされながら暮らさにゃならんのよ。」と思っていますが、どこにも逃げ場がない人ってインドだけでも数億人、世界全体では数十億人いるんですよね。(世界中の女性を考えれば少なくとも40億人)
さてこの本は私のような「インド?はて」という無知of無知が読むにはもってこい。
データと問題提起が下世話(現実的ともいう)という濃い味付けになってる。
全体は5章。
第1章はカースト違いの男女に起きた名誉殺人とアフターピルについて。解説では日本の教科書で習う単純なカーストとそれ以外のカーストを簡潔に説明してくれている。本来の内容から離れてしまうが、バラモンについて「神聖なものというより、穢れがより少ないもの、脆弱である」とある。
思い出したのは明治〜昭和初期皇室の「清」と「次」
天皇皇后は神であり神聖な存在であったものの、「清」と「次」、つまり穢れに対する神経は過敏を超えて少し病的なほど。今まで「へー大変」と思ってたけどよく考えたら天皇が神聖なら見るもの触るもの全て神聖になりそうなもんだけど、ほんの少しの穢れや本人にコントロール出来ないもの(例えば生理)ですら穢れと忌み嫌うって神聖というよりは穢れが少ないだけ、脆弱な神聖ともいえるんかなぁと。天皇だけじゃなく日本の神もそうかな。古くはファラオとかもそうかな。欧州の王侯貴族はそういうのあんまなさそう。あるんかな。
ありゃ全然関係ない話になったけど。
名誉殺人およびアフターピルはシンプルに暗い気分になる。解説最後の各カースト人口割合が90年間公表されてないこと、90年前ダリトが16.6%(2億人)もいたことなどを読むと、インドが経済大国になることはあっても、貧富格差は中国以上なのかも。
第2章はお手伝いさんの住む公営住宅から始まる。洗濯屋カースト、そのカーストを美化し由緒を創作し出す。様々な支援が出来てくると逆に後進であることを売り文句にするなど、どの時代どの地域でも人間は大体同じことをする。
時計やスーパーの値段すら読めない文盲、「夕焼けという文字を習って初めてその美しさを知った」文字のある世界文字のない世界。
第3章は地元の頭グルについて。
グルが裁く事案のひとつとして重婚の例が挙げられている。出産のため実家に戻る、夫から連絡途絶える、グルに相談、2番目の妻を正式に(持参金付き)迎えた後、妻という身分のまま離婚なしに金銭解決を探る みたいな。
常々「結婚とか土地とかマンションとか、自分でこれは俺のもんだーとか声を張り上げなきゃいけないようなもんは自分のものなんかじゃないよねぇ」とは思ってたけどさすがインド。皆結婚制度は重視するもののよりライトな運用。日本人の結婚感を壁とするなら、インド人はビニール紐とかだろうか。
精力的に活動するグル、血縁関係利用や相互依存がなくてはたちまち露頭に迷うインド社会で世俗的な繋がりを断ち切ったグル、つまり社会的に死んでるからこそ平等も大多数への利益も考えうるのだと。まぁ分かる。でも人間だから。金か異性か、どっちかがそこに溜まってるはずではと読み進めると最後の最後にグルの大理石の豪邸や新型iPhoneに言及。しかし「1人が使う金額なんてしれてるだろ」と地元有力者。
人間だからどこも同じはず。ただロシアやフィリピンはデフォルメして見えるだけならば、インドもそうかも。インドを「極めて人間的」とハマる人達は自身の「人間的部分」(言葉こそ人間というものの、ここでは生き物として動物としての自由奔放さ、ききすぎる融通)が増幅、もしくは拡大されたように展開する喜劇を楽しんでるのかな。
程度の差こそあれ大映ドラマや韓流ドラマを楽しむのと一緒か。
解説には「消えた女性」主に中国とインド。
第4章はダリト(不可触民)の民間神話から始まる。触れてはいけない人達は見て触って愉しむ人達。数千年の虐げられた生活で精神は壊れてしまっている。既得権益への執着、仲間への嘲笑。
ダリトを他の民族や特定地域出身者、性的マイノリティに置きかえても理解出来る。
ここでもインドの人達の人間らしさ(些細なルールすら合致しない複雑な社会)が全ページから滴り落ちる。床にシミ。
そう。この本は「残酷残忍なインドという国でレジリエンス(たくましさ)というか、インピューデンス(ふてぶてしさ)を持つ人達、それがどこからくるのかをインドの悪口にならないようにインド社会を説明解明していこうっていう本だから、これでいいのね。うん。
でも僕の読書力レベルだと手段のために書かれたインド社会や登場人物が喉にひっかかりすぎて、もう水も飲めないほど腫れている。
私は日本以外で生まれたなら成人前に道端で冷たくなって転がってるだろう。
第5章は運転手を軸にインドの「裁判文化」や「コネ」「汚職」などを語る。
中でも科学技術社会論研究者の「腐敗汚職の必要性」引用がおもろい。
曰く、白黒ではなくグレーでしかない世界を渡り歩く知恵のようなもんだと。
16個ほどの「インドの腐敗汚職を理解するためのポイント」も引用されてる。
全ては交渉可能で障害は乗り越えるためにある(賄賂のチャンス)でYESともNOとも言ってはならず(その中間に好機があるため)透明性など幻想で個人財産への攻撃と腐敗の擁護があり延期は金を生み権力は必要なく(権力を持つ誰かを知っていればいい)大臣ができることは秘書でもできて(秘書の方が上手い)迷宮は天国であり賄賂は払わない(誰かを知っていればいい)腐敗は財産に関するルールではなく財産としてのルールだ と。
読み終えて。
私は日本で所謂奴隷身分(労働者身分、一般人、働くことが当たり前)なのだが、ここで言われるような「クリームレイヤー」だったのかも知れない。私のような何の取り柄もなく身体も精神も強くない人間がなんとか中年まで生きながらえたのはこのぬるま湯のよう誰でも平等、誰でも生きていける優しい優しいお母さんの胸元のような日本のおかげなのだなぁ。実際日本で生きていくのって簡単だものね。特に男は。
インド、フィリピン、メキシコ、中国。。たとえアメリカであっても私は生きていけないだろう。
私が一生手にすることのないレジリエンス。
感じることが出来ました。
Posted by ブクログ
インドに関する知識は、新興国、にわか投資家には、その括り。
そして、九九のように二桁掛け算ができるIT国家ということ、そしてカレーとヒンドゥーと、わずがな知識だけ。
学生だった頃、インドについて学んだ頃よりは、きっとインドの一番嫌だなと思った部分、つまり身分差別とか、変わってるのかと思ったら、実はそんなに変わってなかったという話。
どこの国も同じなのかと残念な気持ちになったけど、インドは日本と違って、一般庶民の分母が桁違いだから、日本と比べるとなぜかこの本読んでも期待してしまう。
Posted by ブクログ
本当に「残酷」という言葉がピッタリ。
名誉殺人によって低カーストの夫を奪われた女性、洗濯機を買うより低い価値で働かされる洗濯階級、時計の文字が読めず著者に時間を訪ねる非識字の女性たち、水牛の首を切り血を飲む儀式を強要させられるダリト(不可触民)、「見てはいけない者」でなく「見て愉しむ者」になってしまった上裸のシャーナール女性、大変な仕事をしているのに技術供与を恐れて後継者を育てられないダリト…。
浄と不浄の考え方、子供の命より優先される家族の面子、女性の立場の圧倒的な低さ、苛烈なカースト差別など、まだまだ重すぎる問題がインドには蔓延っているのだと知った。ダリトの女の子とか、生まれた瞬間からハードモードすぎる。
Posted by ブクログ
手に取れたことに、まず感謝。新進気鋭の文化人類学者とあるが、それをはるかに上回る素晴らしい執筆の力を感じさせる・・今後が楽しみ。
近く、インドは人口数が中国を抜いて世界一位になるという。
この本によるとインドは「男児の出生が絶対」で妊娠中に、女児と分かれば掻爬する様だ。そして一億人余の女の命が抹殺されたとある。
生命の倫理を社会的掟により歪めての人工的社会は今後どうなって行くのだろうと感じる・・難病、発達障害でも性差による発現数が異なる。
モディ首相が先進国と伍して歩む姿をよく見る・・彼はヒンドゥ―勢力の雄。彼の姿には国内指数に現れてこないインド社会の底辺の暮らしは見えてこないどころか、そのパワーのうねりが今後どうなるかも興味がある。
筆者は5章に渡り、13億人の姿勢の生の姿をフィールドノートから纏め上げた。
伝統と呪縛、地方分権と強い中央集権、カースト制(教科書で習ったそれではなく、職業毎のカースト、そしてサブカースト等)。。。
社会保障以前のかの国は生きていくために、身内・家族の存在は必須。私達が当然と思ってきた発展の順序がないからと言って、この国を批判する権利は微塵もないとは言え。。
筆者が呟く「合理性に基づいた知識のみに頼って行動してきた」これまでは私も同感・・感情の持って行き様に戸惑ってしまう。
紹介されるラージという人物の生き方に圧倒される想い。そして運転手兼相棒❔であるスレーシュの逞しい人生の選択。
フォーマルセクターーとインフォーマルセクターの存在・・グレー空間が圧倒的なインド社会においては極力 知識とコネが最重要。身体能力・知識・言語はやすやすとコンピューターのアルゴリズムのよって、無用の長物とされた下りには唸らされた。
独特なグルの存在、サンニヤーシ、村落パンチャーヤト・・神々が約束した条件をカーストアソシエーションが守っている現実を見せつけられる思い。
英国首相の座に就いたスナク氏、彼自身が上層身分であると同時に、妻もインドの豪商の娘という超大金持ち。祖先の国をどう思いつつ、英国の舵を取るのかが面白い。そして目下世界中が目を向けているインドのIT産業。数学に強い民族ガメリト産業によって成り立たせてきたといわれるがカーストで特権的に旨味を吸ってきた層がメリトクラシーとどう絡むかも面白い(選択して男児を選び続けている国だけに)
Posted by ブクログ
ワイドショーばりの惹句「残酷物語」と銘打ってはいるものの、内容はカースト研究者による南部地方におけるフィールド・ノート(観察記録)であり、(著者言うところの)私的な考察をまとめたものである。インドの中では比較的温暖な天候に恵まれたカルナータカ州に限定した調査活動であるところがやや懸念されるものの、国外からは窺い知ることが到底できないダリト(最下層貧民)を取り巻く状況をいろいろな角度からルポすることで近年のインド社会の情勢の変遷を知らしめている。
Posted by ブクログ
インド。
世界有数の人口を持ち、成長性も高い国。けれど、さまざまな問題を内包した国。よく話には聞くし、ニュースにも映像が流れてくるけれど、私にとっては、その土地の人が生活の中で何を考えているか、負の部分をどう受け止めながら生きているのかわからない国だった。
そのただの印象が文章になりイメージになる手助けをしてくれたのが、この本だったと思う。
Posted by ブクログ
インドの階級制度については、バラモン、クシャトリヤ、バイシャ、シュードラ、不可触民に分かれていると言った程度のことしか知らなかった。何年もインドで調査をしている著者のおかげで、具体的に現状がわかってよかった。
インドには、ICT、数学、新興国とよいイメージを持っていたが、ICTに従事する人はほぼバラモン、バラモンは人口の1割にも満たないなど、まだまだ負の側面が多いとこを知り、勉強になった。
Posted by ブクログ
この本の指摘する「残酷さ」は、インドにおけるカースト制のことだ。日本でも身分の違いが結婚に対して支障になる事がかつてはあったと思うし、穢多非人のような存在があったが、インドではこれが現存していてあからさまな差別がある。ダリトと呼ばれる不可触民の扱いだ。
著者は女性の研究者で、カンナダ語話者。壁に囲われた富裕層の居住地ではなく、壁の外の住人でありリアルなルポが見られる。
「私はダリトです。そして高カーストの妻と結婚しました。でもいまだに自分がダリトだと告白する時に躊躇する自分がいます。これが黒人差別などの人種差別との違いでしょうね。彼らは見た目からして違うから、名乗る必要がないでしょう。でも我々は一見したところ他の人と変わらないから、名乗ることを要求される。そこには心理的な恐怖があるのです」
カースト制度の基盤にあるのは、浄・不浄の概念であり、カースト地位が上がれば上がるほど、浄性が高くなるという。ダリトは最も不浄な存在とされる。不浄は物のやりとりなどで「伝染」し、浄性の高いバラモンは最も不浄に弱いから、不浄の源泉から自らを遠ざけなければいけない。この不浄観に基づいたさまざまな社会規範がある。
語るのをやめたとき、自然消滅するのが本当に神なのか。またその神を信じることが本当に信心深いと言うことなのか。蝋燭の火から蛍光灯へ。制度として、規範として残さねば保たれぬ宗教観は、私には信じがたい。
キリスト教化をせずにカーストを残した大英帝国の魂胆にも興味が向いた。宗教が組み込まれた国家ほど原始的だという気がする。日本もまた、自他の選択として唯一のカーストである天皇制を残した国家だと言えるかもしれない。
国家はやがて、神への信仰を咀嚼し離れ、構造的慣性となっていく。私は天皇の存在をワクチンと言ったことがあるが、それは神がウイルスであることを前提としていたのかも知れない。
Posted by ブクログ
先日インド映画を鑑賞したので、その後味のまま読んでみた。家族、地域の繋がりの強さは、政府が色々と力不足だから。カースト同士の結びつき、関係性、宗教や食生活なども複雑で入り組んでいる。菜食主義は宗教的な意味合いが強いのかと思ったら、「上位カーストは不浄に対して脆弱なため、不浄を取り込まないように菜食をする」という理由からというのが意外だった。
Posted by ブクログ
昨今のインドの発展は目覚ましく、アメリカなどの高度な教育機関においても教授たる層にはインド勢が増えていると聞きます。一方で、臭いものには蓋精神でもはや見ないものとされているような人々の姿を本書で知ることができました。差別意識を含んだ神話を祀るお祭りがいまだに続いていたり、このタイトルにおける「残酷さ」というのはインドにおける「格差社会」を指しているように思います。女性へのレイプが多い国だとは聞いていましたが、貧困を前にして重婚もok。ダリトへの差別・それを排除しようと立ち上がれないほどに怒りの心理を麻痺するまでに破壊された人々など。知らない側面も多くありました。恥や世間体を優先として罪が行われる心理や、勉強する時間もないほどに労働漬けだったり。生まれで幸せの度合いが決まってしまうことは酷く苦しいものですね。