あらすじ
■桓武天皇による平安遷都から摂関政治前夜まで、■
■明と暗が交錯する歴史を名手が生き生きと描く!■
貴族たちの豊かな古典文化に彩られた九~十世紀、しかしその繁栄の底流では律令体制の解体が静かに進行し、中央は全国統治の力を失いつつあった。
平安遷都から摂関政治前夜まで、古代国家の崩壊と封建社会の誕生のあいだの長い転換期を政治・社会・文化から多面的に捉え、
表舞台で脚光を浴びる者のみならず、闘争に敗れ表舞台から去っていった人々の姿にも目を配りながら、光と影が交錯する歴史像を描く、無二の論考。
■ゆるやかに時は移り、世は変わる。―本書より■
「社会の根本的な変化は、奥底の流れとしてきわめてひそかに、しかもおだやかに進んでいた。したがって、地方や被支配層の発展あるいは国家体制の転換をはっきりと具体的に示す史料は極端に少ない。このもどかしいまでに悠長で不透明な移り変わりこそ、この時代の特徴である」【「まえがき」より】
解説=佐藤全敏(東京女子大学教授)
*本書の原本は、一九六九年刊「日本歴史全集」第四巻を元に改訂された「日本の歴史文庫」第四巻として、1975年に刊行されました。
■本書の内容■
第一章 律令体制崩壊の端緒
1 平安時代の前奏曲
2 桓武朝の権力と政治姿勢
3 律令体制の矛盾
4 長岡京の暗い影
6 桓武朝の蝦夷征討
第二章 宮廷と詩文と密教と
1 平城朝の悪戦苦闘
2 「平安的なもの」の発展
3 花開く唐風の詩文
4 巨人、最澄と空海
5 渡海僧と仏教の貴族化
第三章 良房・基経の時代
1 承知の変と良房の権力把握
2 反抗者と疎外者
3 基経の天皇廃立
4 律令政治の衰退
5 地方勢力の胎動
第四章 寛平・延喜の治
1 「寛平の治」とその挫折
2 菅原道真の運命
3 延喜の荘園整理令
4 「古今和歌集」なる
5 延喜の太平とその暗転
第五章 承平・天慶の乱と「天暦の治」
1 武者の起こり
2 平氏一族のあらそい
3 東西二つの謀反
4 将門・純友の末路
5 藤原氏と後宮
6 「天暦の治」の内幕
7 退廃の栄え
8 藤原氏の時代へ
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Posted by ブクログ
本書は「日本歴史全集」の一冊として、8世紀末から10世紀末のおよそ200年間、いわゆる"平安時代"前半を対象範囲としている。
50年以上前に書かれた一般読者向けの概説書であるので、研究の進展により今では異なる論が通説になっているような叙述も散見されるが(例えば"薬子の変"の主役は誰かなど)、著者の筆にかかると、この時代の有り様が鮮明に浮かび上がってくる。
それは、政治を動かす天皇や貴族層、また文化人や宗教人、時代後半に登場してくる武士など、この時代を代表する人物たちについての著者の思いや評価が、簡潔な叙述の中にも窺われ、歴史を生きた人間の営みとして感得できるからだと思う。特に歴史の敗者、不遇な者たちへの愛惜の念は一入である。
また、律令国家の制度や官制、藤原氏の台頭状況、班田収授制等の経済、税制等の変化、中央と地方の関係の有り様なども、図表や地図を効果的に用いて分かりやすく説明してくれる。
特に、著者の専門とする文化面について、例えば漢文と和歌の関係、国風文化という評価が妥当かどうかなど、蒙を啓かれる。
各論的には乗り越えられた部分もあるだろうが、歴史家の魅力的な叙述を味わえる一書だと思う。